自賠責保険金の請求手続きを解説(死亡事故編)
突然の交通事故で大切な人を亡くしてしまった時、ご家族は大きな悲しみを抱えることになります。
「これから、どうすればいいのか…」と途方に暮れてしまうこともあると思いますが、ご家族には亡くなった大切な人のためにもやらなければいけないことがあります。
それは、加害者の刑事手続きへの参加や慰謝料などの損害賠償請求です。
今回は、まずご家族が最初に取り組まなければいけない「自動車損害賠償責任保険」(自賠責保険)への申請方法と注意点、加害者の刑事事件との関係などを中心に解説します。
自賠責保険と任意保険の関係とは?
自動車に関係する保険には、自動車損害賠償責任保険と任意保険があります。
自動車やバイクを使用する際、すべての運転者は強制的に自動車損害賠償責任保険に加入しなければいけません。
これは、「自動車損害賠償法」という法律の第5条に定められているものです。
すべてのドライバーに加入が義務付けられているため「強制保険」と呼ばれることもありますが、多くの方は「自賠責保険」という略称で覚えていると思います。
自賠責保険は、自損事故による自身のケガや物損事故には適用されません。
人身事故の被害を受けて、ケガや死亡をした場合にのみ保険金などが支払われることになります。
それは、自賠責保険が人身事故の被害者を救済するために作られた保険だからです。
これに対して、任意保険はドライバーや自動車の所有者などが任意で加入する保険で、各損害保険会社がさまざまな内容の保険を扱っています。
じつは、自賠責保険で補償される保険金額等は法律によって定められており、支払限度額が決まっています。
被害者が死亡した場合は上限3000万円です。
自賠責保険から支払われる金額は、被害者に対する最低限の補償ですから、被害者のご家族としては、自賠責保険からの保険金では足りない部分の損害賠償金額を加害者側の任意保険会社に請求することになります。
その際、金額などで合意に至らない場合は任意保険会社と示談交渉を進めていくことになります。
なお、被害者自らが加入している任意保険から保険金を受け取れる場合もあるので、ご家族は確認するのがよいでしょう。
損害賠償金の項目
交通死亡事故の場合に被害者のご家族が保険会社に請求できる主な項目には、大きく分けると次のものがあります。
①葬儀関係費
②死亡逸失利益
③慰謝料(被害者の慰謝料、近親者の慰謝料)
④弁護士費用(裁判をした場合)
葬儀関係費は、自賠責保険では定額で60万円、任意保険では多くの場合、120万円以内になります。
なお、弁護士に依頼して訴訟を起こした時に認められる葬儀関係費の相場は、150万円前後です。
逸失利益は、被害者が生きていれば得られたはずの収入です。
交通死亡事故の場合の慰謝料の基準は、おおよそ次のようになります。
・一家の支柱:2800万円
・母親、配偶者:2500万円
・その他:2000万円〜2500万円
訴訟になり弁護士が必要と認められる事案では、通常、弁護士費用は認容額の10%以内の金額が相当因果関係のある損害として損害賠償額に加算されます。
死亡事故の被害者の家族が行なうべき手続きとは?
交通事故の被害によりケガを負った場合、入院・通院の治療や後遺障害等級の認定申請などが必要なため、損害賠償額の決定までに時間がかかるのが通常です。
一方、交通死亡事故の場合、事故後の被害者の治療や後遺障害は発生しないため、損害賠償額がすぐに決まります。
「お金のことなど考えたくない」というご家族もいらっしゃるかもしれませんが、死亡事故の場合の損害賠償金は亡くなった大切な人の命の値段ともいえます。
けっして妥協してはいけないのだと思います。
交通事故で死亡した被害者のご家族は自賠責保険に対して保険金の申請をすることができますが、注意しなければいけないことがあります。
それは、加害者の刑事事件との関係です。
加害者に発生する3つの責任
交通死亡事故の加害者には3つの責任が発生します。
「刑事責任」、「民事責任」、「行政責任」です。
刑事責任とは、「自動車運転死傷行為処罰法」や「道路交通法」などの法律により加害者が罰金刑、懲役刑、禁錮刑などの刑罰に処せられることです。
民事責任とは、被害者に与えた損害を賠償する責任です。
今後の損害賠償請求や示談交渉などに関わってきます。
行政責任とは、加害者が免許取り消しや免許停止などの行政処分を受けることです。
交通事故では、この3つに関する手続きが並行して進んでいきます。
被害者の家族が行なう刑事手続きへの協力とは?
まず刑事手続きでは、警察や検察による捜査が行なわれます。
交通事故の捜査では、警察は現場検証や加害者への取り調べなどを行ない、実況見分調書を作成します。
その際、警察は被害者のご家族にも聞き取り調査を行ないます。
生前の被害者の様子やご家族の無念さ、加害者に対する処罰感情などについて聞き取りが行なわれるので、ご家族の思いをそのままお話しすればよいでしょう。
捜査終了後、検察官は加害者を起訴するかどうかを決定します。
起訴された場合は、刑事裁判が行なわれることになります。
遺族がすぐに自賠責保険に請求してはいけない理由
刑事裁判の結果、加害者の量刑が確定することになりますが、ここでご家族が注意しなければいけないことがあります。
量刑が確定する前に自賠責保険へ申請をして保険金を受け取ってしまうと、加害者の量刑が軽くなってしまうのです。
これは、加害者側の任意保険会社との示談交渉の際も同様です。
通常、四十九日が終わった頃に、任意保険会社から保険金の提示が行なわれますが、すぐに示談を成立させてしまうと、加害者の弁護人は、「被害弁償が行われて、ご遺族の精神的損害が回復した」と主張します。
その結果、加害者の量刑が軽くなってしまいます。
そこで、加害者の刑事事件が進行している間は、自賠責保険に被害者請求したり、任意保険会社と示談交渉を始めるのを控えることが多くあります。
刑事裁判の進行具合を考えながら示談交渉を進めることが大切なのです。
なお、加害者が起訴されて裁判になった場合、「被害者参加制度」というものがあります。
これは公判(裁判)に立ち会い、ご家族としての意見を述べるなどの参加をすることができるものです。
希望する場合は検察官に申し出ておく必要があります。
自賠責保険に直接請求するかどうかの判断ポイントとは?
交通死亡事故の損害賠償金を受け取る方法としては、
①先に自賠責保険に被害者請求して一部を受領し、その後任意保険会社と示談交渉する
②自賠責保険金額を含めた全額を任意保険会社と示談交渉する
という2種類があります。
②の場合には、任意保険会社が遺族に賠償金を支払った後に、任意保険会社が自賠責保険会社に保険金を請求して受領することになります。
自賠責保険会社に先に被害者請求した方がよい場合もあり、それは、以下のような場合です。
高齢者などで損害賠償金を計算しても自賠責保険の範囲内に収まる場合
亡くなったのが高齢者の場合、逸失利益(将来、得られるはずだった収入)などが低くなってしまうため、損害賠償金の合計が自賠責保険の限度額を超えないことがあります。
こうした場合は、加害者側の任意保険会社に請求する必要がないので、自賠責保険に請求してよいでしょう。
被害者の過失が大きく自賠責保険の方が高額となる場合(過失減額の関係)
被害者の過失が大きくて、損害賠償金の合計が自賠責保険金額よりも低くなってしまう場合は、自賠責保険に請求するのがよいでしょう。
加害者との交渉の前に一定金額を確保したい場合
ご家族に経済的な余裕がないなどの理由で、まとまった金額を確保したい場合には、先に自賠責保険に申請する方もいます。
一定金額を確保することで、余裕をもって加害者側の任意保険会社との示談交渉にのぞむことができるというメリットがあります。
過失相殺による減額とは?
過失相殺とは、被害者側に過失がある場合、過失割合に基づいて損害賠償額を減額することです。
交通死亡事故では、損害賠償額が数千万円から場合によっては1億円を超えることがあります。
過失割合が10%違っただけで、数百万円から1000万円以上も賠償額が違ってくることがあるので、過失相殺は非常に重要なものです。
被害者の過失割合が大きい場合、任意保険会社との示談交渉はなかなか成立しない傾向があります。
一方、自賠責保険会社は過失割合がある程度高くても(厳密には7割未満の過失までは)、損害賠償金や保険金の減額はなく、満額が支払われます。
ただし、自賠責保険では被害者の過失割合が7割を超えたときは、賠償金や保険額から次の割合が減額されるので注意が必要です。
・被害者の過失が7割以上8割未満 → 2割の減額
・被害者の過失が8割以上9割未満 → 3割の減額
・被害者の過失が9割以上10割未満 → 5割の減額
このように、被害者の過失割合が大きい場合は、任意保険会社から支払われる損害賠償金額が自賠責保険会社から支払われる賠償金額におさまってしまうこともあるので、先に自賠責保険に被害者請求をした方がよい、という場合もあります。
被害者の家族は事故の証拠集めを行なうべき
交通死亡事故の損害賠償では、過失相殺について激しく争われることがあります。
過失相殺は、被害者と加害者の証言を元に作成され、その後に刑事事件で作成した実況見分調書や供述調書などをもとに認定されることになります。
ところが、死亡事故の場合、被害者は亡くなっているため証言できず、加害者の証言と目撃者の証言をもとに作成されることになり、被害者側にとっては不利になることが多いのです。
ですから、被害者のご家族は目撃者の確保を重視する必要があります。
警察に対して立て看板を立てるように働きかけたり、近所で聞き込み調査をするご家族もいらっしゃいます。
目撃者がいる場合には、可能であれば現場で説明を受け、了解を取ってビデオを回しながら具体的な目撃情報を撮影し、証言を録音するという方法もあります。
通常、防犯カメラの映像は一定期間が過ぎると消去されるので、事故現場の近くに防犯カメラがある場合にはダビングをお願いしておくことも大切です。
保険会社などがこうした作業をしてくれるわけではないので、ご家族が努力して、積極的に証拠集めを行なう必要があります。
加害者が自賠責保険に入っていなかった場合は?
自賠責保険は強制加入であるにもかかわらず、加害者が加入していないという場合もあります。
その場合は、「政府保障事業」という制度を利用することができます。
交通事故で亡くなったうえに損害賠償もされないのでは、被害者にとっても、ご家族にとってもあまりに酷なことです。
そこで、自動車損害賠償保障法により被害者救済として政府保障事業という制度が設けられているため、政府からの保障を受けることができるようになっています。
なお、政府保障事業は、無保険者が事故を起こした場合の他、ひき逃げのように加害者がどこの誰なのかわからない場合にも自賠責保険と同額の補償をしてくれるので、万が一の時は利用するのがよいでしょう。
自賠責保険について不安な時は弁護士に相談を!
ここまで、交通死亡事故における自賠責保険への被害者請求などについて解説しました。
被害者のご家族にはやらなければいけないことが山ほどあります。
事故の証拠集め、刑事事件への被害者参加、損害賠償額の計算、保険金の申請、保険会社との示談交渉などです。
しかし、法律や保険に関する知識や手続きは難しいと感じる方もいらっしゃるでしょう。
その場合は一度、交通事故に詳しい弁護士に相談することを検討してみてください。
みらい総合法律事務所は、死亡事故と後遺症事案について、無料相談を受け付けています。
まず、無料で弁護士に相談し、弁護士に依頼した方が得になりそうな場合は、正式に弁護士に依頼するという方も多くいらっしゃいます。
その際、必ず契約書を締結して、報酬金額を確認しておくことが大切です。
「報酬は後で話し合いましょう」というような法律事務所は避けたほうがいいでしょう。
また、できる限り、交通事故に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故の事案では、法律知識の他、医学的知識や自賠責後遺障害等級認定に関する実務知識、保険の知識などが要求されますが、すべての弁護士がこうした知識や実務に詳しいわけではないからです。
次の条件に当てはまるのであれば、交通事故に精通した弁護士といえるでしょう。
①交通事故に特化したホームページがある
②交通事故の専門書に執筆している
③ニュース番組などから「交通事故の専門家」として取材を受けている
なお、みらい総合法律事務所では、死亡事故と後遺症示談に特化して専門性を高めており、「典型後遺障害と損害賠償実務」(ぎょうせい)など専門書を複数執筆しています。
また、テレビ、新聞、出版等の各メディアから「交通事故の専門家」として取材を受けています。
交通死亡事故に関して困った時や不安がある時は、ぜひ一度、みらい総合法律事務所に相談していただければと思います。