交通事故の自賠責保険の保障内容は?
保険というのは万が一、何かがあった時のために加入しておくものです。
そのため、普段の日常生活で何も問題が起こらなければ保険のことについて考える人などほとんどいないでしょう。
しかし、いざ交通事故にあった場合、被害者は保険金を受け取らなければいけないのですから、保険のことをよく知っておく必要があります。
では、この保険金、どのような種類があって、どこから支払われるのかご存知でしょうか?
今回は、交通事故に関わる保険のうち「自賠責保険」について解説します。
自賠責保険(共済)とは?
自賠責保険は、1955(昭和30)年の「自動車損害賠償保障法」の施行にともない開始された対人保険制度で、正式名称を「自動車損害賠償責任保険」といいます。
交通事故の被害者は加害者に対して損害賠償請求できます。
その際、加害者に損害賠償金の支払い能力がない場合は、被害者は泣き寝入りをせざるを得ず、大きな損害を被ることになってしまいます。
そこで、被害者が最低限の補償を確保し、直接受け取ることができるようにするために作られたのが自賠責保険です。
つまり、自賠責保険は人身事故の被害者を救済するために作られた保険だということです。
自動車損害賠償保障法の第5条に規定されている通り、自動車やバイクを運転する場合は、すべての人が必ず加入しなければいけないものです。
これは運転者の義務ですから、自賠責保険は「強制保険」と呼ばれることもあります。
仮に、これに違反した場合は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第86条の3の1号)
また、行政処分としては違反点数が6点ですから、一発で免停処分となります。
自賠責保険の目的は、人身事故の被害者救済ですから、保険金が支払われるのは人身事故によって生じた被害者の身体に対する損害賠償のみ、ということになります。
自損事故によるケガや物損事故には適用されないので、加害者のケガの治療費や自動車等の修理費、被害者側の自動車等の修理費などは支払われないことは覚えておいてください。
自賠責保険の限度額と保障内容
自賠責保険の限度額と保障内容は次のようになっています。
傷害による損害
支払限度額
最高で120万円(被害者1名につき)
損害の範囲
治療関係費、文書料、休業損害、慰謝料(被害者および遺族)
補償内容
①治療関係費
・治療費/診察料や手術料、または投薬料や処置料、入院料等の費用など
※必要かつ妥当な、治療に要した実費が支払われる。
・看護料/入院中の看護料や自宅看護料・通院看護料。
(原則として、12歳以下の子供に近親者等の付き添いや医師が看護の必要性を認めた場合)
※入院1日4100円、自宅看護か通院1日2050円。これ以上の収入減の立証で、近親者は19000円、それ以外は地域の家政婦料金を限度に実額が支払われる。
・諸雑費/入院中に要した雑費
※原則として、1日1100円が支払われる。
・通院交通費/通院に要した交通費
※必要かつ妥当な、通院に要した実費が支払われる。
・義肢等の費用/義肢や義眼、眼鏡、補聴器、松葉杖などの費用
※必要かつ妥当な実費が支払われる。なお、眼鏡の費用の限度額は50000円。
・診断書等の費用/診断書や診療報酬明細書などの発行手数料
※必要かつ妥当な、発行に要した実費が支払われる。
②文書料
交通事故証明書や印鑑証明書、住民票などの発行手数料
※必要かつ妥当な、発行に要した実費が支払われる。
③休業損害
事故の傷害で発生した収入の減少(有給休暇の使用、家事従事者を含む)
※原則として、1日5700円。19000円を限度として、これ以上の収入減の立証においてその実額が支払われる。
④慰謝料
交通事故による精神的・肉体的な苦痛に対する補償
※1日4200円が支払われる。被害者の傷害の状態、実治療日数などを勘案して、治療期間内で対象日数が決められる。
後遺障害による損害
障害の程度に応じて、逸失利益および慰謝料等が支払われる。
支払限度額1
神経系統の機能、精神、胸腹部臓器への著しい障害により介護が必要な場合(被害者1名につき)
常時介護を要する場合(後遺障害等級1級) | 最高4000万円 |
---|---|
随時介護を要する場合(後遺障害等級2級) | 最高3000万円 |
支払限度額2
上記以外の後遺障害
第1級:最高3000万円~第14級:最高75万円
自賠責法別表第1
第1級 | 4000万円 |
---|---|
第2級 | 3000万円 |
自賠責法別表第2
第1級 | 3000万円 |
---|---|
第2級 | 2590万円 |
第3級 | 2219万円 |
第4級 | 1889万円 |
第5級 | 1574万円 |
第6級 | 1296万円 |
第7級 | 1051万円 |
第8級 | 819万円 |
第9級 | 616万円 |
第10級 | 461万円 |
第11級 | 331万円 |
第12級 | 224万円 |
第13級 | 139万円 |
第14級 | 75万円 |
補償内容
①逸失利益
身体に負った後遺障害により労働能力が減少することで、発生するであろうと考えられる将来的な収入減
※収入および障害の各等級(第1~14級)に応じた労働能力喪失率で、喪失期間などによって算出する。
②慰謝料等
交通事故による精神的・肉体的な苦痛に対する補償
※上記「支払限度額1」の場合、第1級は1600万円、第2級は1163万円が支払われ、初期費用として、第1級は500万円、第2級は205万円が加算される。
※上記「支払限度額2」の場合、第1級の1100万円~第14級の32万円が支払われ、いずれも第1~3級の場合で被扶養者がいれば増額される。
死亡による損害
支払限度額
最高で3000万円(被害者1名につき)
損害の範囲
葬儀費、逸失利益、慰謝料(被害者および遺族)
補償内容
①葬儀費
通夜、祭壇、火葬、墓石などの費用(墓地、香典返しなどは除く)
※60万円が支払われ、立証資料等によって、これを明らかに超えるなら100万円までで妥当な額が支払われる。
②逸失利益
被害者が死亡しなければ将来的に得られたであろう収入から、本人の生活費を控除したもの
※収入や就労可能期間、被扶養者の有無などを考慮のうえ算出する。
③慰謝料
・被害者本人の慰謝料:350万円
・遺族の慰謝料:請求者1名で550万円、2名で650万円、3名以上で750万円
※遺族慰謝料請求権者である被害者の父母や配偶者、子の人数によって異なる。被害者に被扶養者がいる場合は、さらに200万円が加算される。
なお、被害者が交通事故によりケガを負い、その後に亡くなった場合の死亡に至るまでの傷害の損害については、「傷害による損害」の規定が準用されることになります。
保険金が支払われない無責事故とは?
被害者の過失が100%の場合を「無責事故」といいます。
この場合、相手の車両の自賠責保険金(共済金)の支払い対象にならないため、被害者には保険金が支払われないので注意が必要です。
無責事故には次のようなものがあります。
・被害車両がセンターラインをオーバーして起きた事故
・被害車両の赤信号無視により起きた事故
・脇見運転や居眠り運転などで被害車両側が追突した事故
自賠責保険の保障だけで足りない場合はどうする?
たとえば、交通事故で傷害(ケガ)を負った被害者の損害賠償額が330万円だった場合を考えてみます。
自賠責保険では、傷害による損害の支払限度額は最高で120万円ですから、まだ210万円が足りません。
その場合、この210万円はどこから支払われるのかというと、加害者が加入している任意保険会社から支払われることになります。
ただし、その際は加害者が加入している任意保険会社と示談交渉をする必要があります。
詳しい解説はこちら⇒
「交通事故の示談の流れを徹底解説」
被害者の過失が大きい場合はどうなる?
交通事故の示談交渉では「過失割合」が問題になることがあります。
被害者側に過失がある場合、過失割合に基づいて損害賠償額を減額(過失相殺)されてしまうのです。
仮に、過失割合が10%違っただけで損害賠償額が数百万円から1000万円以上も違ってくることがあるので、被害者側と加害者側が過失割合を争って、なかなか示談が成立しないこともよくあるのです。
自賠責保険の場合、過失割合がある程度高くても、損害賠償金や保険金の減額はなく、満額が支払われるのですが、これは7割未満の過失の場合であることに注意が必要です。
被害者の過失割合が7割を超えたときは、損害賠償金から次の割合が減額されてしまいますが、これを「過失減額」といいます。
過失が7割以上8割未満 | 2割の減額 |
---|---|
過失が8割以上9割未満 | 3割の減額 |
過失が9割以上10割未満 | 5割の減額 |
このように、被害者の過失割合が大きい場合は、任意保険会社から支払われる損害賠償金額が自賠責保険会社から支払われる賠償金額におさまってしまうこともあります。
そうした場合は、先に自賠責保険に「被害者請求」をしたほうがよいという場合もあります。
なお、被害者が損害賠償金を請求する際には、「被害者請求」と「事前認定(加害者請求)」の2つがありますが、それぞれにメリットとデメリットがあるので、覚えておくと役に立ちます。
詳しい解説はこちら⇒
「自賠責保険の請求手続きを解説(後遺障害編)」
加害者が保険に加入していなかった場合の対応
信じられないことですが、加害者が保険に加入していない場合があります。
あるいは、ひき逃げで、加害者がわからず、自賠責保険に請求ができない場合があります。
そうした場合、被害者はどうすればいいのでしょうか?
加害者が自賠責保険に加入していなかった場合や加害者不明の場合は、「政府保障事業」という制度を利用することができます。
詳しい解説はこちら⇒
「加害者が自賠責保険に加入していないのですが、どうしたらいいですか?」
加害者が任意保険に加入していなかった場合は、被害者自身が加入している任意保険の「人身傷害補償保険」を利用することができます。
人身傷害補償保険というのは、被保険者が被保険自動車や他の自動車に搭乗中の交通事故や歩行中の交通事故でケガを負った場合、約款に規定されている基準によって算出された金額が支払われるものです。
詳しい解説はこちら⇒
「交通事故の加害者が任意保険に加入していないのですが、どうしたらいいですか?」
一度、ご自身の加入している任意保険を確認してみるとよいでしょう。
損害賠償請求権の時効には注意
自賠責保険および任意保険に対する損害賠償請求権には時効があります。
時効期間を過ぎてしまうと、損害賠償金を請求することができなくなってしまうので注意が必要です。
詳しい解説はこちら⇒
「交通事故の示談金が時効で消滅してしまう場合とは?」
困った時は弁護士に相談してください!
ここまで、交通事故における自賠責保険について、その補償内容や注意するべきポイントなどについて解説しました。
しかし、この記事を読んだだけでは、保険や損害賠償、示談など被害者の方にとっては難しいことも多いと思います。
そうした場合は、ぜひ交通事故に詳しい弁護士に相談してみることをお勧めします。
弁護士に相談した時のメリットなどについては、こちらをご覧ください。
「交通事故を弁護士に相談すべき7つの理由と2つの注意点」
弁護士に示談交渉などを依頼することで、被害者の方は煩わしい示談交渉から解放され、しかも、ご自身で交渉した場合の金額よりも増額した損害賠償金を受け取ることができます。
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