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交通事故でのびまん性軸索損傷による後遺障害と慰謝料の解説

最終更新日 2019年 11月26日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

交通事故の被害では頭部に大きな損傷を受ける場合があります。

今回は、その中でも重大な後遺症が残る可能性が高い「びまん性軸索損傷」について解説します。

普段の日常生活では聞くことのないものだと思いますが、びまん性軸索損傷とは一体どのような傷害なのでしょうか? 

被害者が認定される後遺障害等級は何級になるのでしょうか? 慰謝料額はいくらくらいになるのでしょうか?

また、示談交渉を進めていくにあたっての注意点には、どのようなものがあるのでしょうか?

びまん性軸索損傷とは?

まず、少し専門的なお話から始めます。

頭部への外傷は、大きく「頭蓋骨折」、「局所性脳損傷」、「びまん性脳損傷」の3つに分類されます。

びまん性脳損傷のうち、脳全体の神経線維(軸索)が損傷して「遷延性昏睡」など重度の意識障害をともなうものが、びまん性軸索損傷とされます。

「びまん」とは、病気やけがの症状が特定の1か所だけでなく広範囲に広がっているため、患部を限定できない状態をいいます。

「遷延」とは長引くことです。

つまり、遷延性昏睡とは重度の昏睡状態が長く続くことで、こうした状態を「遷延性意識障害(植物状態)」といいます。

遷延性意識障害の詳しい解説はこちら⇒
交通事故の遷延性意識障害で慰謝料を請求する時の注意点

なぜ、このような脳の損傷が起きるのでしょうか?

次に、交通事故により頭部に大きな衝撃を受けた場合に、頭蓋骨内にある脳はどのような状態になるのかについて考えてみます。

自動車に衝突された衝撃で、歩行中の被害者が道路上に投げ出されたり、あるいはバイク運転者の被害者が地面に頭部を強打した場合などでは、外部から頭蓋骨内の脳全体に回転性の力(剪断力)がかかります。

すると、脳の表面部分には損傷を認められなくても、脳全体が激しく動くことで脳の深い部分で損傷が起こります。

たとえば、大脳の白質や右脳と左脳をつないでいる脳梁、脳の中心部である脳幹部などには細胞から伸びる無数の神経線維(軸索)が集まり、束になっています。

脳全体に激しい回転性の力が加わると、脳の広い範囲でこうした軸索部分が伸びたり、圧迫されたり、断裂してしまいます。

こうした状態を、びまん性軸索損傷といいます。

脊髄から首に延髄がつながり脳幹を形成しています。

びまん性軸索損傷については、脳幹の上に乗っている大脳などの脳全体が外部からの大きな力によりグルっと動いて、また元に戻るため、この時の衝撃で脳全体につながっている神経線維(軸索)が広い範囲で損傷しまう状態をイメージするとわかりやすいでしょう。

ちなみに、局所性脳損傷は脳に直線性の衝撃が加わった時に起きます。

たとえば、何かの鈍器などで殴られた場合、脳全体ではなく衝撃が加わった限られた箇所に脳挫傷や硬膜外血腫、硬膜下血腫、くも膜下出血などを起こす場合がありますが、こうしたものを局所性脳損傷といいます。

びまん性軸索損傷の症状

びまん性軸索損傷では脳の広範囲で神経線維(軸索)の断裂が起きるため、神経連絡機能に断絶が生じてしまいます。

その結果、比較的軽症の場合は数時間から24時間以内の昏睡状態が引き起こされますが、重傷になると遷延性意識障害が起こるため、植物状態になったり、死亡に至るケースも少なくありません。

また、びまん性軸索損傷で注意が必要なのは、事故直後は特に身体的症状がなかったものの、数時間後から意識障害が現れたり、脳浮腫や血流障害による低酸素脳症、脳室内出血、くも膜下出血等の症状が現れてくる場合で、これを二次性損失といいます。

そうした場合、高次脳機能障害や四肢麻痺などの後遺症が残ってしまう可能性が高くなってしまいます。

高次脳機能障害の詳しい解説はこちら⇒
交通事故の後遺症で、高次脳機能障害という言葉を聞きますが、どのような障害ですか?

びまん性軸索損傷の後遺障害等級

びまん性軸索損傷は脳全体に広範囲にわたって起きること、また脳挫傷や頭蓋骨骨折などを伴う場合も多いため非常に治療が難しい傷害です。

そのため、未だ有効な治療法が確立されていないのが現状です。

また、事故直後は脳の損傷が見られず、レントゲンやCTスキャンでは異常がわかりにくいという特徴があります。

そのため、MRIで検査をすることで脳内の血腫が発見されたり、事故から数日が経過してから脳室の拡大および萎縮が認められることもあります。

このような特徴があるために、びまん性軸索損傷では救命できたとしても重大な後遺症が残ってしまう可能性が高いという現実があります。

病院での治療のかいなく、これ以上は症状が回復しないと判断されると、主治医から「症状固定」の診断があります。

症状固定となると、被害者の方はご自身の「自賠責後遺障害等級」の申請をする必要があります。

後遺障害等級には、もっとも障害の重い1級から順に14級まであり、それぞれ後遺障害が残った部位によって号数が決まります。

後遺障害等級の詳しい解説はこちら⇒
自賠責後遺障害等級とはどのようなものですか?

自賠責後遺障害等級とはどのように認定されるのですか?

びまん性軸索損傷の場合に認定される可能性のある後遺障害等級としては次のものがあります。

後遺障害等級1級1号

・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
・自賠責保険金額:4000万円 
・労働能力喪失率:100%

後遺障害等級2級1号

・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
・自賠責保険金額:3000万円 
・労働能力喪失率:100%

後遺障害等級3級3号

・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
・自賠責保険金額:2219万円 
・労働能力喪失率:100%

後遺障害等級5級2号

・神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
・自賠責保険金額:1574万円 
・労働能力喪失率:79%

後遺障害等級7級4号

・神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
・自賠責保険金額:1051万円 
・労働能力喪失率:56%

後遺障害等級9級10号

・神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
・自賠責保険金額:616万円 
・労働能力喪失率:35%

後遺障害等級12級13号

・局部に頑固な神経症状を残すもの
・自賠責保険金額:224万円 
・労働能力喪失率:14%

後遺障害等級14級9号

・局部に神経症状を残すもの
・自賠責保険金額:75万円 
・労働能力喪失率:5%

後遺障害等級別の詳しい解説はこちら⇒
後遺障害等級1級の認定基準・慰謝料の増額ポイントを解説

後遺障害等級2級の認定基準・慰謝料の増額ポイントを解説

後遺障害等級3級の障害と慰謝料とは?

後遺障害等級5級は等級が誤りの可能性があります!

後遺障害等級7級が妥当かどうかは専門的な知識が必要

後遺障害等級9級の障害の内容とは?

後遺障害等級12級とは、どのような障害か?

後遺障害等級14級とは、どのような障害か?

自賠責後遺障害等級認定が確定すると、それに応じて慰謝料や逸失利益の金額も算出されます。

後遺障害等級が1級違っただけで、場合によっては損害賠償金額が数百万円から数千万円も違ってくる場合がありますので、ご自身の後遺障害等級は非常に大切です。

後遺障害等級の詳しい解説はこちら⇒
交通事故の後遺障害等級が間違っていたら?

後遺障害等級申請する際に交通事故被害者がやってはいけない5つのこと

びまん性軸索損傷の後遺障害は慰謝料が高額になる

びまん性軸索損傷により、脳に重大な損傷を受けた場合、被害者には遷延性意識障害や高次脳機能障害、四肢麻痺等が残る可能性があります。

これら重度の後遺障害の場合、慰謝料など被害者が受け取ることができる損害賠償金(示談金)は高額になります。

被害者の方はまず加害者が加入している自賠責保険から損害賠償金を受け取ることになります。

金額のおおよその目安は次の通りです。

自賠責保険金額表

<自賠法別表第1>

等級 保険金額
第1級 4000万円
第2級 3000万円

<自賠法別表第2>

等級 保険金額
第1級 3000万円
第2級 2590万円
第3級 2219万円
第4級 1889万円
第5級 1574万円
第6級 1296万円
第7級 1051万円
第8級 819万円
第9級 616万円
第10級 461万円
第11級 331万円
第12級 224万円
第13級 139万円
第14級 75万円

ここで注意が必要なのは、自賠責保険は被害者救済のために設立されたものですが、被害者の方は最低限の補償しか受けられないことです。

そのため、自賠責保険だけでは足りない分については加害者が加入している任意保険会社に損害賠償請求することになります。

後遺障害等級の認定後、任意保険会社から示談金額の提示がありますが、提示金額に納得がいかない場合、被害者と保険会社の間で示談交渉が行なわれることになります。

示談交渉の詳しい解説はこちら⇒
交通事故の示談の流れを徹底解説

交通事故の示談交渉に入る前に注意するべきポイント

なお、びまん性軸索損傷により、遷延性意識障害や高次脳機能障害、四肢麻痺等が残った場合に損害賠償請求できる項目には次のものなどがあります。

・治療費
・入院付添費
・入院雑費
・傷害慰謝料・後遺症慰謝料
・逸失利益
・将来介護費
・将来雑費
・装具・器具等購入費
・損害賠償請求関係費(診断書費用、成年後見開始の審判手続き費用など)

慰謝料と損害賠償金を同じものだと考えている方もいますが、慰謝料というのはたくさんある損害賠償項目のひとつということになります。

ところで、慰謝料には「傷害慰謝料」、「死亡慰謝料」、「後遺障害慰謝料」の3つがあることをご存知でしょうか?

びまん性軸索損傷の場合、被害者の方が受け取ることができるのは、傷害慰謝料と後遺障害慰謝料です。

慰謝料には相場が決まっており、後遺障害慰謝料の相場金額は次のようになっています。

裁判基準による後遺障害慰謝料の相場金額

後遺障害等級 慰謝料
1級 2800万円
2級 2370万円
3級 1990万円
4級 1670万円
5級 1400万円
6級 1180万円
7級 1000万円
8級 830万円
9級 690万円
10級 550万円
11級 420万円
12級 290万円
13級 180万円
14級 110万円

高次脳機能障害の詳しい解説はこちら⇒
交通事故で高次脳機能障害になった時の後遺障害等級と示談方法

慰謝料の詳しい解説はこちら⇒
交通事故の慰謝料請求で被害者がやってはいけない6つのこと

びまん性軸索損傷の高額裁判例

ここでは、びまん性軸索損傷による損害賠償における判例を紹介します。

ご自身の状況と照らし合わせて参考にしてください。

判例①:20歳男子の植物状態事案

<概要>
1993(平成5)年2月8日午後6時頃、20歳男子大学生原告が栃木県宇都宮市内の夜間60キロ制限道路で自動二輪車を運転直進中、被告が運転する乗用車が駐車場に進入すべくUターンに近い形で右折してきたところで衝突した交通事故。

原告は、びまん性軸索損傷による多発性脳内出血、脳室内出血、脳挫傷等で植物状態に近い障害を残したため、後遺障害等級1級3号が認定された。

原告は10億4279万9479円、原告父は500万円、原告母は808万6000円を求めて、訴えを提起した。

<判決要旨>
①損害賠償額は、総額2億6548万0360円が認められた。

②原告は、23歳以降は母とともに職業付添人の介護を受けるとして、将来介護費用は日額1万円が認められた。

③慰謝料は、傷害慰謝料が350万円、後遺症慰謝料が2600万円、近親者慰謝料が400万円で、総額3350万円が認められた。

④付添看護にあたる母親のパートタイムでの休業損害の請求は否認された。

⑤制限速度程度で走行していた被害者に1割の過失相殺が適用された。

「東京地裁 平成10年3月19日判決」
(出典:自動車保険ジャーナル・第1271号/交民集31巻2号342頁)

判例②:21歳男子の四肢麻痺事案

<概要>
1993(平成5)年9月11日午後3時55分頃、21歳男子会社員の原告が山梨県中巨摩郡内の交差点を自動二輪車で直進中、25歳公務員の被告が運転する無保険乗用車が右折時に衝突した交通事故。

原告は、両側緊張性気胸、脳挫傷、びまん性軸索損傷等で242日間入院し、四肢麻痺、意思表示・自発運動なしの後遺症を負い、後遺障害等級1級3号が認定された。

原告側は、被告及び保険会社(無保険車傷害の補償として)に対して、両親分も含み1億7606万3455円を求めて、訴えを提起した。

<判決要旨>
①損害賠償額は、総額9665万9341円。

②無保険車傷害には、「本件事故日から起算される遅延損害金も右保険金に含まれる」とされた。

③慰謝料は、傷害慰謝料が258万円、後遺症慰謝料が2500万円、近親者慰謝料が800万円で、総額3558万円が認められた。

④浴室の天井工事費と通院使用での車両の車庫工事費に、3分の1相当が家屋改造費と認められた。

⑤将来介護費用は就労可能年数である67歳までとし、日額6000円を基礎にライプ式で控除し、認定された。

⑥「交際費、娯楽・教養費等の費用は必要でなく、衣服費等の支出も少なくてすむ」として逸失利益算定上10%の生活費が控除されて算定された。

「東京高裁 平成10年9月30日判決」
(出典:自動車保険ジャーナル・第1330号)

びまん性軸索損傷の場合には弁護士に相談を!

ここまで解説したように、びまん性軸索損傷は重傷であり、診断や治療が難しい傷害です。

ですから、被害者の方が背負う後遺障害も重大なものになります。

そのため、慰謝料などを含めた損害賠償金は高額になる傾向があります。

ところで、高額損害賠償の際に注意しなければいけないことがあります。

それは、加害者側の任意保険会社との示談交渉です。

前述したように、自賠責保険では後遺障害等級1級の最高保険額が4000万円です。

しかし、脳を損傷したことによる遷延性意識障害や高次脳機能障害、四肢麻痺等の後遺障害の場合、将来介護費や慰謝料、逸失利益なども高額になるため、総額では億単位になることも珍しくありません。

そうすると、自賠責保険で足りない分を加害者が加入している任意保険会社に請求するわけですが、じつは保険会社は慈善団体ではなく営利目的の法人ですから、支払う保険金をできるだけ低く提示してくるのが通常なのです。

被害者とそのご家族としては、交通事故被害により健康な体と日常生活を奪われ、さらには本来であれば手にするはずの保険金よりも低い金額で示談してしまうとなると、これは2度も大きな悲しみと損失を被ってしまうことになります。

そこで、示談交渉をするわけですが、相手は保険のプロですから、交通事故や保険の知識のない被害者とそのご家族では、なかなか太刀打ちできないのが現実です。

そうした時、強い味方になるのが交通事故問題に詳しい弁護士の中でも重傷案件に特化した専門弁護士です。

弁護士といっても、すべての弁護士が交通事故問題を適切に解決できるわけではありませんし、びまん性軸索損傷による遷延性意識障害や高次脳機能障害、四肢麻痺などの重傷案件を確実に解決できるわけではありません。

なぜなら、法律の知識は当然のこととして、びまん性軸索損傷などに関する深い医学的知識も必要だからです。

みらい総合法律事務所では重傷案件に特化して専門性を高めています。

我々、みらい総合法律事務所の弁護士たちは、被害者救済のために全力を尽くします。

詳しい解説はこちら⇒
交通事故を弁護士に相談すべき7つの理由と2つの注意点

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