交通事故による右環指(薬指)PIP関節の可動域制限で慰謝料増額した裁判例
PIP関節とは
PIP関節は、近位指節間関節(きんいしせつかんかんせつ)のことです。
これは、指の途中にある関節のうち指の根元に近いほうの関節で指の第二関節です。
機能としては、指の根元の骨(基節骨)と指の真中部分の骨(中節骨)をつないでいます。
指の先に近いほうの第一関節は、遠位指節間関節(DIP関節)と呼ばれており、一番遠い関節は、MP関節と呼ばれています。
手足の親指には関節が1つしかないため、近位指節間関節は存在せず、指節間関節(IP関節)と呼ばれています。
交通事故の後遺症
交通事故の示談交渉では、被害者が被った損害を、加害者に請求します。
被害者がどのような損害を被ったかについては、治療が終わってみなければわかりません。
そこで、交通事故の被害にあった場合には、まずは治療に専念することになります。
そして治療が終わったときに傷が完全に治れば良いのですが、残念ながら、後遺症が残ってしまう場合もあります。
後遺症が残ってしまった場合には、一生その後遺症と付き合っていかなければなりません。
当然のことながら、傷が治った場合よりも、精神的苦痛が大きいといえます。
したがって、後遺症が残った場合には、通常の慰謝料のほかに、後遺症慰謝料を請求することができます。
また、後遺症によって、仕事に不自由をきたしますので、収入の減少が予想されます。
したがって、その収入の減少分の請求することになります。
これを逸失利益といいます。
そして、後遺症慰謝料や逸失利益を計算するために、後遺症の重さを判定することが必要になります。
それが、自賠責後遺障害等級認定という手続きになります。
自賠責後遺障害等級認定は、損害保険料率算出機構が行っています。
【参考情報】
「当機構で行う損害調査」損害保険料率算出機構
可動域制限の後遺障害等級
交通事故で骨折などにより上肢あるいは下肢の関節が、事故前のように動かなくなってしまう後遺症が残ってしまう場合があります。
この場合、関節の機能障害として、後遺障害等級の認定がなされます。
自賠責の後遺障害等級認定では、上肢あるいは下肢の三大関節中の一つの関節について、次のように後遺障害等級が認定されます。
8級
関節の用を廃してしまった場合
(関節の用を廃したと言えるためには、次の要件が必要です。)
(1)関節が強直したもの。
(2)完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態になったもの。
(3)人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の2分の1に制限されているもの。
「強直」とは、関節がまったく可動しないか、またはこれに近い状態になることを言います。健側の関節可動域の10%程度以下に制限される場合です。
完全弛緩性麻痺に近い状態というのは、他動では可動するが、自動では健側の関節可動域の10%程度以下になった場合です。
10級
悪い方(患側)が、良い方(健側)の可動域角度に対して、2分の1以下に制限されている場合。
12級
悪い方(患側)が、良い方(健側)の可動域角度に対して、4分の3以下に制限されている場合。
ちなみに、可動域角度は、後遺障害診断書のうち「他動」部分で判定します。「他動」というのは、外的な力で動かせる可動域で測定されるものです。「他動」箇所が「右」「左」両方きちんと記載してあるか、確認してください。
これに対して、「自動」とは、自分の力で動かせる可動域で測定されるものです。
異議申立
異議申立とは
自賠責後遺障害等級認定は、損害保険料率算出機構という法律に基づいて設立された団体がおこないます。
正しく認定してくれれば良いのですが、たまに等級認定が誤っている場合があります。
等級認定が間違っていると、それに基づいて計算された後遺症慰謝料や逸失利益が間違った金額になってしまいます。
したがって後遺障害等級認定が間違っている場合には、異議申し立てという手続きをして、正しい後遺障害等級を認定してもらうことになります。
それが終わって初めて示談交渉に入ることになります。
【参考記事】
交通事故の後遺障害等級が間違っていたら?
みらい総合法律事務所の増額事例
ここで、骨折による関節機能障害の後遺症が残った被害者が、異議申立により増額に成功した事例をご紹介します。
被害者は、56歳男性です。
骨折等の傷害で、左肩関節機能障害の後遺症を残しました。自賠責後遺障害等級12級6号が認定されました。
そこで、保険会社は、被害者に対し、示談金として、248万9233円を提示しました。
被害者が、みらい総合法律事務所に相談したところ、金額以前の問題として、自賠責後遺障害等級認定が間違っていると指摘がありました。
そこで、異議申立をしたところ、10級10号にあがりました。
弁護士が保険会社と交渉した結果、最終的に、1211万円で解決しました。
保険会社提示額の約4.8倍に増額したことになります。
【参考記事】
みらい総合法律事務所の解決実績はこちら
可動域制限の示談交渉
後遺障害等級認定が終わったら、保険会社との交渉が始まります。
後遺障害が認定されると、通常の慰謝料の他「後遺症慰謝料」「逸失利益」が認められます。
ちなみに、後遺症慰謝料額について、裁判基準は次のとおりです。
8級 830万円
10級 550万円
12級 290万円
保険会社から提示された金額がこれより低ければ、すぐに弁護士に相談しましょう。
そして、これに加え、「逸失利益」が認められます。
逸失利益は、後遺障害により、将来労働能力が制限されてしまうための補償です。
収入によって異なります。
注意を要するのは、「労働能力喪失期間」です。
関節機能障害の場合には、一生涯改善しないものが多いのですが、保険会社は将来改善するものとして、10年程度の労働能力喪失期間として計算することが多いです。
ここでも厳しいやりとりがなされます。
被害者側としては、断固として67歳までの労働能力喪失期間を主張しましょう。
保険会社は、上記の後遺症慰謝料と逸失利益を無視して、自賠責の保険金額である、
8級819万円
10級461万円
12級224万円
を提示してくることがありますが、不当に低い金額であることが多いです。
慰謝料増額事由
慰謝料には、大体の相場があるのですが、事情によっては、慰謝料が相場金額よりもさらに増額される場合があります。
これを慰謝料増額事由といいます。
主に次のような場合です。
・被害者の精神的苦痛が通常の場合より大きいと思えるような場合
・被害者側に特別な事情がある場合
・その他の損害賠償の項目を補完するような場合
たとえば、加害者が被害者をひき逃げをし、逮捕されたにもかかわらず、全く反省していないような場合には、通常の場合より、被害者の精神的苦痛が大きいと言えるでしょう。そのような場合には、慰謝料額が相場より増額することがあります。
したがって、積極的に主張していくようにしましょう。
慰謝料増額は、裁判をしないと認められないことがほとんどなので、慰謝料増額事由がありそうだ、という場合には、交通事故に精通した弁護士に依頼することをおすすめします。
【参考記事】
交通事故の慰謝料を相場金額以上に増額させる方法
骨折で慰謝料が増額した裁判例
事案の概要
東京地裁平成16年12月1日判決(自動車保険ジャーナル・第1588号・16)
【後遺障害等級】
後遺障害等級12級9号
【損害額合計】
13,579,349円
【慰謝料額】
3,500,000円
【交通事故の概要】
平成13年9月14日午後2時ころ、東京都中央区内の片側3車線道路の交差点手前を被害者が自動二輪車で走行中、停車していた加害者のタクシーがドアを開けたため衝突しました。被害者は、右第4指挫滅創、右第4指中節骨解放骨折の傷害を負い、平成14年8月28日に症状固定しました
。被害者の後遺障害は、右環指(薬指)PIP関節の可動域制限で後遺障害等級12級9号に認定されました。
被害者は、交通事故当時50歳の男性で、かつてプロのベーシストとして活動後、再度プロを目指してアルバイトをしながらベース奏者に師事し練習に励んでいました。
被害者が弁護士に依頼し、弁護士が被害者の代理人として提訴しました。
判決のポイント
相場の慰謝料 2,900,000円
本件交通事故では、以下の事情から、3,500,000円の後遺症慰謝料を認めました。
・被害者が、齢40歳を過ぎながらも一念発起して、将来音楽で生計を立てることを目指し、低収入に甘んじながらベースの練習に励んでいたが、交通事故に遭い、貴重な時間を失うとともに、右手指全部を駆使した楽器の演奏に支障をきたしたこと。
以上、交通事故で50歳の男性ミュージシャンが後遺障害等級12級が認定された事案を弁護士が解説しました。
後遺障害等級が認定されて、慰謝料を増額主張する場合は、弁護士にご相談ください。
代表社員 弁護士 谷原誠