弁護士特約が使えないケースと交通事故対応のポイント
自動車保険には、弁護士特約(または弁護士費用特約)を付けられるものもあり、特約を適用できれば、弁護士への相談料や示談交渉等の弁護士費用等を保険会社が負担してくれます。
弁護士特約を使用できる範囲は広いですが、適用対象外となるケースもありますので、本記事で弁護士特約のメリットと適用条件、弁護士特約を使用できない場合の注意点について解説します。
目次
弁護士特約とは?
弁護士特約は、自動車事故や交通事故等の被害者となった際、問題解決のために支払う弁護士報酬等の費用を補償する保険です。
交通事故で人的損害または物的損害を被った場合、被害者は加害者に対して損害賠償請求をすることになり、示談交渉は委任することも可能です。
しかし、被害者が加害者と直接示談交渉をするのは骨が折れますし、加害者が加入する保険会社と交渉をするとなれば知識や経験で圧倒され、不利な内容で示談が成立してしまう恐れがあります。
そのような状況を避けるためにも、被害者も弁護士を立てることが望ましいですが、弁護士に依頼する際には報酬費用が生じるのが懸念材料です。
しかし、弁護士特約を適用できれば、保険会社が弁護士費用を出してくれますので、気兼ねなく弁護士に交渉等を任せることができます。
弁護士特約を使用するメリット
弁護士特約には金銭的なメリットだけでなく、精神的なメリットもあります。
弁護士報酬費用の自己負担額を軽減できる
弁護士特約を付ける主要なメリットは、交通事故の後処理を弁護士へ依頼する際に生じる自己負担を軽減できる点です。
一般的に、弁護士へ依頼する際には着手金と報酬金を支払うことになるため、示談交渉で損害賠償金を得ることができるとしても、依頼時に着手金を用意しなければなりません。
交通事故で仕事ができなくなった場合、収入は大きく減少しますし、物的損害により車が破損すれば修理代だけでなく、その間の代行車を用意するための支出も発生します。
弁護士特約は保険会社から相場として、10万円の相談料と300万円の弁護士費用を負担してもらえるため、示談が成立するまでの支出を抑えられ、金銭的な事情から弁護士に依頼できなくなる状況を回避できます。
損害賠償金・慰謝料を多く得られる
弁護士に依頼するメリットは、示談交渉などの手続きを委任できるだけでなく、損害賠償金の額を多くできる点もあります。
損害賠償金の額は交通事故で生じた損害等によって変動するため、事故による損害を正確に把握し、修理等に必要な費用を正しく見積もることが重要です。
- 治療費・入院費
- 休業損害
- 逸失利益
- 物損の賠償
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
交通事故によって精神的な苦痛を受けた場合には、慰謝料を請求することができますが、慰謝料の額を算定する方法は複数あり、採用する計算方法によって請求額は変わります。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 裁判基準
自賠責基準は国が定める最低限の金額基準をいい、補償基準は最低限の水準です。
任意保険基準は各保険会社が定めている金額基準であり、基準となる額は保険会社ごとに異なります。
裁判基準は、過去にあった判例等から慰謝料の額を算出する基準をいい、弁護士基準とも呼ばれています。
慰謝料として受け取れる額は、裁判基準に基づいて支払われるものが最も多くなりますが、他の基準よりも慰謝料の額が大きくなるため、相手方が示談に応じないことも想定されます。
自賠責基準や任意保険基準による慰謝料の額では、被害者が求めている金額に届かない可能性がありますので、納得できる額を受け取りたいときは弁護士に依頼し、裁判基準に基づいた額を請求するのがポイントです。
日常生活への復帰に専念できる
弁護士は示談交渉だけでなく、関係書類の一部も本人に代わって収集できるため、被害者は日常生活への復帰に専念できます。
交通事故の後処理は、加害者や加害者の保険会社とのやり取りだけでなく、多数の事務処理も並行して行わなければなりません。
交通事故で大きな怪我を負った場合、交渉の場につくのも大変ですし、書類等を集める作業には肉体的・精神的な負担もかかります。
加害者側は交渉に不慣れな被害者が相手と分かれば、損害賠償金の額を下げるための交渉をしたり、支払いを先延ばしにすることも考えられますが、弁護士を立てれば損害賠償金の額を不当に下げられる心配も無くなります。
対等に話し合うことができるようになれば、示談交渉がスムーズに進み、交通事故関連の手続きを早期に終わらすことが望めますので、元の生活に早く戻りたいときは弁護士特約を上手く活用してください。
被害者が選んだ弁護士に任せることができる
金銭的な制約は弁護士の選択肢を狭めてしまいますが、弁護士特約で費用を負担してもらえれば理想とする弁護士に依頼できますので、納得できる形で示談交渉を進められます。
弁護士特約は弁護士費用を保険会社が負担するものなので、保険会社が選定した弁護士に依頼する等の条件はありません。
弁護士は法律の専門家ですが、能力には個人差がありますし、弁護士によって得意・不得意の分野も存在します。
交通事故関連の実務に携わった経験が少ない弁護士に依頼してしまうと、満足する損害賠償金を得られないリスクが生じるので弁護士選びに妥協は禁物です。
弁護士特約を使えるケース
弁護士特約の対象範囲は意外と広く、使えないと思われる事故であっても使用することができます。
保険契約者の過失割合が無い事故
弁護士特約は、被害者に過失割合が無い事故(もらい事故)も適用対象です。
過失割合は損害賠償金として請求する額に大きく関係することになり、被害者に過失割合があると認められてしまうと、受け取れる損害賠償金の額は減ってしまいます。
そのため、被害者は過失割合がゼロであることを主張しなければなりませんし、もらい事故でも相手との示談交渉をすることになるため、弁護士に依頼する選択肢を手放してはいけません。
自動車保険は基本的に契約者が起こした事故で使うものですが、弁護士特約はその限りではないので、もらい事故の際には弁護士特約のみを使用することも検討してください。
加害者・被害者が同一の保険会社に加入している場合
加害者と被害者が加入している自動車保険の会社が偶然にも同じだとしても、弁護士特約を使うことはできます。
保険会社は双方が加入者だったとしても、被害者が不利になるような示談交渉は行われませんが、正当な損害賠償請求をしたい場合は弁護士を付けることも選択肢です。
弁護士を付けるかどうかは基本的に任意ですし、委任する弁護士も本人が決めることができるので、保険会社に弁護士を紹介されたとしても、必ずしもその弁護士に依頼する必要はありません。
家族が契約している自動車保険の弁護士特約の使用
弁護士特約は、被害者本人が加入する自動車保険だけでなく、家族が加入している保険でも使用できます。
家族が加入している保険に弁護士特約を付けていれば、被害者が保険に加入していなくても弁護士特約は使用可能です。
妻(夫)や子どもが交通事故に遭ったときは、ご自身の弁護士特約を使って弁護士費用を捻出することもお考えください。
弁護士特約が使えないケースとは?
保険に弁護士特約を付けていたとしても、すべての交通事故で使えるわけではないので、使用できない代表的なケースをご紹介します。
被保険者に故意または重大な過失がある事故
弁護士特約は加害者に全面的な非がある事故だけでなく、被害者にも一部非がある事故でも基本的に使用することは可能です。
しかし、被保険者に全面的な非がある事故については、相手方に損害賠償請求をすることができないため、弁護士特約を使うことはできません。
保険契約者が故意に起こした事故や重過失がある事故も、弁護士特約の対象外となりますが、弁護士への相談・依頼自体はできますので、本人だけの対応が困難なときは実費の負担額が生じたとしても弁護士を付けください。
親族同士による事故
弁護士特約は、基本的に親族同士で発生した事故は適用対象外です。
たとえば、同居している家族との間で交通事故が起きてしまったときは、当事者間の話し合いで解決することになります。
ただし、弁護士特約は使用できなくても、自賠責保険や人身傷害保険、搭乗者傷害保険など、保険自体を適用することは可能です。
弁護士特約の対象外の車両による事故
自動車保険は対象となる自動車で起きた事故に対して掛けている保険なので、保険の対象外となる車両については弁護士特約を使えません。
車所有者が運転している場合のみを対象とした自動車保険であれば、所有者以外の人が運転していた際に発生した事故は保険適用外となるため、弁護士特約を使えない可能性が高いです。
また、業務用の自動車の事故は労災保険で解決することになるため、弁護士特約の対象外となるケースがあります。
弁護士特約が適用できるケースは保険会社や保険プランによって違いますので、契約している保険内容を今一度ご確認ください。
自動車が関係しない事故
自動車保険は自動車が関係する事故に対しての保険ですので、自動車が無関係な交通事故において弁護士特約を使用することができません。
自転車同士や、自転車と歩行者の事故では弁護士特約の適用対象から外れますが、特約内容に日常生活で生じた被害も含まれている場合は、その限りではありません
事故後に弁護士特約を付けた場合
弁護士への依頼は事故が発生した後でも可能ですが、保険適用は事故が発生した時点で加入していた場合に限られます。
したがって、交通事故が発生した時点で弁護士特約を付けていないと、特約を使用して保険会社に弁護士費用を負担してもらうことはできません。
家族の弁護士特約が使用できる範囲と注意点
家族が加入している自動車保険の弁護士特約や、自身が加入している保険の弁護士特約を家族に適用することは可能です。
しかし、弁護士特約を適用できる対象範囲は決められているため、家族であれば必ず弁護士特約を使用できるわけではありません。
- 保険契約者の配偶者
- 未婚の子ども
- 保険契約者と同居している親族
親族は、6親等以内の血族および、3親等以内の姻族をいいます。
血族とは本人と血のつながりがある人(親、祖父母、いとこ等)をいい、姻族は配偶者の血族(義両親、義兄弟等)です。
夫や妻、未婚の子が加入している保険であれば弁護士特約は使用可能ですが、親族については同居していることが条件なので、別居している家族に対して特約を使うことはできません。
弁護士特約が使えないときの対処法
自動車保険に弁護士特約を付けていれば、交通事故の際に活用することで弁護士費用の負担を軽減することができます。
しかし、弁護士特約の約款は保険会社ごとに定められていますので、事故の状況等によっては弁護士特約を使えない可能性もあります。
弁護士特約を使用できない場合、弁護士費用は実費負担となりますが、弁護士費用には目安となる金額があるため、費用が青天井に増えることはありません。
また、弁護士を付けたことで損害賠償金や慰謝料の額を増やせる可能性があることから、実費負担の有無だけで弁護士に依頼するかを決めるのは危ないです。
成功型報酬を採用している弁護士事務所であれば、損害賠償金を受け取ってから報酬を渡すことができますので、依頼する時点で費用を用意するのが難しいときは、条件の合致する弁護士を見つけてください。
代表社員 弁護士 谷原誠