交通事故の示談金(慰謝料)に税金はかかる?課税対象になるケースも解説
交通事故の被害者やご家族が受け取る損害賠償金は、人的損害(治療費や慰謝料、逸失利益など)と物的損害(車の修理費など)に分類できますが、これらの補償・賠償については、原則、非課税です。
つまり、交通事故に遭った際に、加害者から支払われる示談金や慰謝料には、原則としては、税金はかかりません。
しかし、示談金・慰謝料であったとしても、特定のケースに該当する場合、課税対象となる可能性があるので注意が必要です。
本記事では、交通事故の損害賠償金に対して税金がかかるケースと、課税を回避する方法について解説します。
目次
示談金と慰謝料の違い
慰謝料は、事故による精神的苦痛に対する賠償金であり、被害者が受けた精神的なダメージを補償する目的で支払われます。
一方、示談金は、加害者と被害者の間で事故等による損害について協議し、合意の下で支払われる賠償金です。
示談金には、治療費、休業損害、逸失利益などが含まれ、慰謝料も示談金の構成要素の一つです。
示談金に所得税(税金)はかかる?
所得税は、納税義務者に帰属するすべての所得に対して課税することを原則としており、労働やサービスの対価として報酬を得た場合、その収入は所得税の課税対象となります。
一方、社会政策などの見地から所得税を課さない非課税所得も存在するため、収入を得た際は、非課税所得に該当するかの判断が必要です。
交通事故の加害者から受け取った治療費、慰謝料、損害賠償金などは、原則として所得税の非課税対象です。
ただし、損害賠償金のうち、被害者の各種所得の金額を計算する際に必要経費として算入される金額を補填(ほてん)する目的のものが含まれている場合、その補填分に相当する金額は、各種所得の収入金額として扱われます。
示談金に所得税(税金)が
かからない理由
交通事故の示談金や慰謝料は、所得税法第9条(非課税所得)に該当するからです。
所得税法第9条1項18号後段では、心身に加えられた損害または突発的な事故により資産に加えられた損害に基づいて取得したものは、非課税所得に該当すると規定しているため、交通事故の被害者が受け取る慰謝料や示談金に所得税は課されません。
また、保険会社から支払われる保険金も、事故による損害を補填する目的であれば、所得税の課税対象にはなりません。
ただし、示談金の性質によっては、例外的に課税対象になる場合があるため、示談金を受け取る際は、金額や性質を確認することが大切です。
死亡事故による示談金の相続税の
取扱い
交通事故により被害者が死亡し、加害者から遺族へ損害賠償金が支払われた場合、原則として相続税の課税対象から除かれます。
損害賠償金は遺族の所得となりますが、所得税法上の非課税規定が適用されるため、所得税は課されません。
交通事故の示談金に対して
税金がかかるケース
交通事故の示談金は原則非課税ですが、特定の条件下では所得税・贈与税・相続税のいずれかの課税対象になる場合があります。
所得税の課税対象になるケース
示談金のうち、「必要経費に算入される金額を補填するための金額」に該当するものは、各種所得の収入金額となります。
たとえば、心身または資産の損害に基づいて休業する場合に、その休業期間中における従業員の給料や店舗の賃借料、その他通常の維持管理に要する費用を補填するものとして計算された金額などは、所得税の課税対象です。
交通事故で入院した際、加害者から支払われる見舞金は原則非課税ですが、非課税対象となるのは、社会通念上、見舞金としてふさわしい金額に限られます。
したがって、収入金額に代わる性質を持つものや、役務の対価となる性質を持つものは、非課税所得から除かれるので注意が必要です。
贈与税の課税対象になるケース
示談金のうち、加害者から過剰な慰謝料や見舞金を受け取った場合には、贈与税が課される可能性があります。
たとえば、事故による損害が軽微であるにもかかわらず、加害者が高額な示談金を支払った場合、贈与によって取得したとみなされることがあります。
なお、贈与税には110万円の基礎控除額が設けられており、年間の贈与金額が110万円以内に収まれば贈与税は課されません。
相続税の課税対象になるケース
死亡事故によって受け取った示談金は、原則非課税です。
しかし、被相続人(亡くなった人)が生前に損害賠償金を受け取ることが決まっていたものの、実際に受け取る前に死亡した場合には、損害賠償金を受け取る権利が相続税の課税対象となります。
たとえば、生前に1,000万円の損害賠償金を受け取ることが決まっていた段階で相続が発生した場合、1,000万円を取得できる権利を含めて相続税を計算しなければなりません。
ただし、相続税には基礎控除額が設けられており、遺産総額が基礎控除額以内に収まれば相続税はかかりませんし、申告手続きも不要です。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
= 相続税の基礎控除額
交通事故による事業用資産に対する損害賠償の税務上の扱い
事故などによる車両の破損に対して支払われる損害賠償金は、一般的に非課税とされています。
しかし、以下のケースのように、損害を受けた資産が事業用の資産である場合には、所得税の課税対象になるので注意が必要です。
商品の配送中に起きた事故に
対する損害賠償金
商品の配送中の事故により、使いものにならなくなった商品について損害賠償金を受け取った場合、その損害賠償金は収入金額に代わる性質を持ちます。
そのため、棚卸資産の損害賠償金は非課税にはならず、事業所得として課税されることになります。
補修期間中の仮店舗賃借料に
対する損害賠償金
車両の突入によって店舗が損壊した場合、補修期間中に仮店舗を賃借する際の賃借料として受け取る損害賠償金は、必要経費に算入される金額を補填する性質を持ちます。
そのため、受け取った損害賠償金については、事業所得として課税されることになります。
事業用車両が廃車になった
ことに対する損害賠償金
交通事故で事業用車両が廃車となった場合、その車両に対する損害賠償金は非課税です。
しかし、車両の資産損失額を計算する際は、損害賠償金によって補填される金額を損失額から差し引く必要があります。
なお、損害賠償金の金額が損失額を超えたとしても、超過分を含め全額が非課税となります。
示談金を受け取った際の確定申告の有無
示談金に税金が課される場合、税金の種類によって手続き方法が異なるため注意が必要です。
所得税の申告手続きのしかた
非課税対象の示談金には税金がかからないため、会社員など所得税の確定申告をしない人は、示談金の申告も不要です。
一方、示談金に「必要経費に算入される金額を補填する金額」が含まれる場合は、課税対象金額を加えた申告書を作成する必要があります。
所得税の確定申告期間は、示談金を受け取った翌年2月16日から3月15日までです。
納税額が生じる際は、期限までに申告だけでなく納税も済ませてください。
贈与税の申告手続きのしかた
示談金が贈与税の対象となる場合、贈与税の申告書の提出が必要です。
申告期間は翌年2月1日から3月15日までで、所得税よりも半月早く開始されます。
贈与税の申告書は、贈与を受けた人(受贈者)が住んでいる場所を所轄する税務署に、受贈者名義で提出することになります。
なお、贈与金額が110万円以下であれば、贈与税は発生しないため、申告は不要です。
相続税の申告手続きのしかた
相続税の課税対象となる示談金がある場合、相続財産の合計が相続税の基礎控除額を超えるときは相続税の申告手続きが必要です。
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内で、被相続人が住んでいた場所を所轄する税務署に提出します。
相続税の申告書は相続人が協力して1通作成することになるため、申告が必要になる場合は早めに専門家へ相談してください。
保険金に対して税金がかかるケース
交通事故の被害者となった場合、被害者自身が加入している保険会社から保険金が支払われることがあります。
加害者が加入する保険会社からの保険金は、基本的に非課税です。
しかし、被害者が加入する生命保険会社から支払われた保険金は、所得税・贈与税・相続税の課税対象になる可能性があります。
たとえば、死亡保険金は相続財産ではありませんが、相続税法上は相続で取得した財産とみなされるため、相続税の計算に含めなければなりません。
ただし、生命保険金には基礎控除額とは別に非課税枠が設けられているため、支払われた生命保険金の額が非課税枠に収まれば相続税は課されません。
500万円 × 法定相続人の数 = 非課税枠
示談金に税金がかからないように
するためには
示談金に対して税金は基本的にかかりませんが、受け取り方によっては課税対象となる場合がある点には気を付けてください。
適切な示談金の受け取り方
示談金を受け取る際には、その性質を明確にすることが大切です。
心身に加えられた損害に対して支払われる慰謝料は非課税対象ですが、事業に関する補填として支払われるものは課税対象となる可能性があります。
見舞金も原則非課税対象ですが、高額な示談金を受け取った場合には、所得税や贈与税の対象となる可能性があるので注意が必要です。
税務上の注意点と対策
示談金の課税リスクを避けるためには、税務上の注意点を理解しておくことが重要です。
事業者が税務調査を受けた際、示談金の内訳を示せないと、申告漏れを指摘される恐れがあります。
示談金は原則非課税ですが、事業者が被害者となった場合、一部が課税対象となる可能性があります。
そのため、税務調査官に対して、示談金の課税・非課税の内訳を適切に説明できるよう準備しておくことが望ましいです。
なお、被害者だけで判断が難しい場合は、税務の専門家に相談することをおすすめします。
示談金の受け取りに関する税務リスクを事前に把握しておけば、税務調査を受けることになっても適切に対応できます。
まとめ
交通事故の示談金には基本的に税金はかかりませんが、一部のケースでは課税対象となる場合があります。
課税対象となる示談金を受け取った場合、税負担が生じるだけでなく、申告手続きが必要になる可能性があるので注意してください。
税務署から申告漏れを指摘された場合、本税に加えて加算税や延滞税などのペナルティが適用されるため、税金に関して不明な点があるときは、法律や税務に精通した弁護士または税理士に相談することをおすすめします。
なお、交通事故の対応は被害者自身でも行えますが、示談交渉などの事後処理には肉体的・精神的な負担が伴います。
そのため、示談金を適正に受け取り、最善の結果を得るためにも、弁護士への相談や手続きを一任することも検討してください。
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