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下請業者が工事車両で交通事故を起こした場合、元請業者に慰謝料を請求できるか?

最終更新日 2021年 08月22日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

下請業者が工事車両で交通事故を起こした場合、元請業者に損害賠償責任が生ずるか?

問題の所在

任意保険がある場合

交通事故の被害にあうと、損害が発生しますので、被害者は、加害者等に対して損害賠償請求をします。
多くの場合に、加害者側の自動車には、任意保険がついていますので、加害者側の交渉担当者は、任意保険会社の担当者となります。

この場合、示談の成立、あるいは、裁判により、損害賠償額が決定すれば、保険金の限度額内であれば、任意保険会社が、その全額を払ってくれることになります。
そして、お金を回収できないこともまずありません。

任意保険がない場合

任意保険がない場合には、自賠責保険への請求を検討します。

自賠責保険は、法律により加入が義務付けられた保険であり、人身事故の場合にのみ保険金が支払われます。

自賠責保険に加入しない場合には、罰則規定もありますので、ほとんどの場合には、自賠責保険に加入しています。

保険金の限度額は、傷害の場合には最高120万円、後遺障害の場合には、最高4000万円、死亡事故の場合には、最高3000万円とされています。

【参考情報】国土交通省「自賠責保険(共済)の限度額と保障内容」
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/kijyun.pdf

自賠責保険で不足する場合

加害車両に任意保険がなく、自賠責保険金でも不足する場合は、加害者等に直接請求するしかありません。

交通事故で、損害賠償責任を負うのは、まずは加害車両の運転手です。
運転手には、民法上の不法行為責任が発生します。

次に、仕事中の交通事故であるならば、運転手の使用者である会社に使用者責任が発生する可能性があります。

民法715条1項が「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」と規定しているためです。

さらに、自動車の所有者が第三者であるならば、その自動車の所有者にも損害賠償責任が発生する可能性があります。

自動車損害賠償保障法による運行供用者としての責任です。

自動車損害賠償保障法第3条に規定されている「自己のために自動車を運行の用に供する者」、つまり、自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者は、その自動車が起こした事故について、損害賠償責任を負うとされています。

それでは、下請業者が交通事故を起こした場合には、元請業者に損害賠償責任が発生するでしょうか。

ここではその点について検討していきます。

元請業者の損害賠償責任

元請業者の不法行為責任

注文者と元請業者、元請業者と下請業者の関係は、それぞれ工事の完成を約束し工事が完成したら料金を支払うという内容になりますので、請負契約となります。

もし、下請業者が工事のミスをして、注文者に損害を与えた場合には、下請業者は元請業者の履行補助者ですので、元請業者も注文者に対して損害賠償責任を負担します。

請負契約の場合、民法716条では、注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害について責任を負わない、と規定されています。

本条は、注文者と請負人との関係についての規定ですが、元請業者と下請業者との請負契約でも状況は類似していますので、下請業者が、工事作業中に工事車両で交通事故を起こし、第三者に損害を与えた場合でも、原則として元請人は責任を負わないと考えます。

ただし、民法第716条ただし書では、注文または指図について注文者に過失があったときは責任を免れない旨規定されているので、元請業者が下請業者に対して行った注文または指図について元請業者に過失があった場合には、責任を負う場合もあります。

民法第716条
注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。

運行供用者責任

また、先ほど説明したように、民法の規定とは別に、自動車損害賠償保障法による運行供用者としての責任を負う場合もあります。

運行供用者とは、自動車損害賠償保障法第3条に規定されている「自己のために自動車を運行の用に供する者」のことで、自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者を意味します。

元請業者に工事車両の使用についての支配権及び利益の帰属が認められれば、運行供用者に該当することになります。

この場合、元請業者は、その交通事故に関して、
①自己及び運転者が自動車の運行について注意を怠らなかったこと、
②被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと、
③自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと(自動車損害賠償保障法3条ただし書)
をすべて証明できない限り、運行供用者としても責任を負いますので、被害者は元請業者に対し損害賠償を請求することができます。

元請業者の損害賠償責任に関する判例

元請業者の責任を認めた裁判例

裁判例では、下請業者が、下請現場に向かう途中で起こした交通事故について、下請業者の作業について、
①下請人の作業実施にあたって、元請人が配車の指示をするほか、
②随時現場作業の状況を見回り、運搬途中の監督に当たるなどして
③間接的には下請業者の運転者に対して業務の監督をしていたと評価できると認定して、元請業者の運行供用者責任を認めたものがあります(最高裁昭和46年12月7日判決)。

【参考情報】
裁判例結果詳細

また、定期路線の貨物運送業における下請業者が、営業所間を移動中に起こした交通事故について、被害者は、元請事業者に対して損害賠償請求をしました。

この事案に関して、最高裁は、加害車両は、発行する運行表の指示するコース、スケジュールに従い、また、各営業所における荷積及び荷降も、必ず元請業者の係員の立会と荷物の確認をうけておこなうなど、もっぱら元請業者の指揮監督に服して右定期路線の運送業務に従事していたものであり、かつ、元請業者が運送依頼者から受け取る運賃のうち四〇パーセントをみずから取得し、残余の六〇パーセントを下請業者が取得する約定であったというのであって、右事実関係のもとにおいては、本件事故当時の加害車の運行は、元請業者の支配のもとに、元請業者のためになされたということができ、自動車損害賠償保障法三条の運行供用者責任を負うとしました(最高裁昭和50年9月11日判決、判例時報797号100頁)。

元請業者の責任を否定した裁判例

しかし、元請人の責任を否定してした判例もあります。
この事案では、元請人から下請人に加害自動車が売却されていますが、自動車売却された後も自動車検査証の使用者、自賠責保険の契約者は元請人名義のままでした。

しかし、代金決済と同時に下請人に名義変更の手続きをする予定だったこと、元請人と下請人の間に専属的関係が認められず、出資、役員派遣、事務所等の営業財産の貸与、自動車保管場所の提供等の事実はなく、両者に緊密な一体性があるとは言えないこと、下請作業においても元請人が指揮監督に当たったことがないこと等を理由として元請人の運行供用者責任を否定しました(最高裁昭和46年12月7日判決)。

【参考情報】
裁判例結果詳細

また、同じ作業現場の仕事を下請している別の下請業者が所有する自動車を借り受けて運転中に交通事故を起こした事例について、元請業者の損害賠償責任を否定した事例があります(大阪地裁平成16年8月27日判決、出典:交民37巻4号1138頁)。

この事例では、裁判所は、

・元請業者は下請業者を雇用したことも専属的下請関係にあったこともないこと

・指揮監督していたと認められないこと

・当該自動車が仕事に使われたことは一度もないこと

・当日、たまたま当該自動車で現場に行ったにすぎないこと

などから、元請業者は当該自動車について、何らの運行利益も運行支配もないとして、運行供用者責任を否定しました。

したがって、元請業者が、下請業者の作業について、具体的な指揮監督等を行っていないなどの事情がある場合には、元請業者の責任が認められない可能性もあります。したがって、交通事故の事案ごとに判断をしていく必要があると考えます。