元請業者に慰謝料請求できる?下請業者の事故と賠償責任 | 判例も解説
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下請業者の従業員が起こした交通事故において、元請業者の賠償責任(使用者責任:民法715条)が認められるか否かは、実務上争点になりやすいポイントです。
結論からいうと、下請業者が起こした交通事故でも、元請業者が下請業者の作業を実質的に指揮監督していた場合や、下請業者が元請業者に専属して働いていた場合などには、元請業者に対して慰謝料などの損害賠償を請求できる可能性があります。
本記事では、元請業者の責任が認められる具体的ケースと認められないケースの境界線を、具体的な裁判例を紹介しながら解説します。
交通事故被害者の損害賠償請求先を
ケース別に解説
被害者の方が正当な補償を受け取るためには、加害者側が「どのような保険に加入しているか」によって取るべき手続きや請求先が大きく変わってきます。
ここでは、相手の保険の加入状況に合わせて、「任意保険がある場合」「ない場合」、そして「任意保険がない場合に自賠責保険だけでは足りない場合」の3つのケースに分けて、交通事故の被害にあった際にどこへ損害賠償請求をするのかを解説します。
任意保険がある場合
交通事故の被害にあうと、損害が発生しますので、被害者は、加害者等に対して損害賠償請求をします。
多くの場合に、加害者側の自動車には、任意保険がついていますので、加害者側の交渉担当者は、任意保険会社の担当者となります。
この場合、示談の成立、あるいは、裁判により、損害賠償額が決定すれば、保険金の限度額内であれば、任意保険会社がその全額を払ってくれることになります。
そのため、決まった賠償金を回収できないという事態は、まず起こりません。
任意保険がない場合
任意保険がない場合には、自賠責保険への請求を検討します。
自賠責保険は、法律により加入が義務付けられた保険であり、人身事故の場合にのみ保険金が支払われます。
自賠責保険に加入しない場合には、罰則規定もありますので、ほとんどの場合には、自賠責保険に加入しています。
保険金の限度額は、傷害の場合には最高120万円、後遺障害の場合には、最高4,000万円、死亡事故の場合には、最高3,000万円とされています。
自賠責保険で不足する場合
加害車両に任意保険がなく、自賠責保険金でも不足する場合は、加害者等に直接請求するしかありません。
交通事故で、損害賠償責任を負うのは、まずは加害車両の運転手です。
運転手には、民法上の不法行為責任が発生します。
次に、仕事中の交通事故であるならば、運転手の使用者である会社に使用者責任が発生する可能性があります。
民法715条1項が
と規定しているためです。
さらに、自動車の所有者が第三者であるならば、その自動車の所有者にも損害賠償責任が発生する可能性があります。
自動車損害賠償保障法による運行供用者としての責任です。
自動車損害賠償保障法第3条に規定されている「自己のために自動車を運行の用に供する者」、つまり、自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者は、その自動車が起こした事故について、損害賠償責任を負うとされています。
元請業者の損害賠償責任
それでは、下請業者が交通事故を起こした場合には、元請業者に損害賠償責任が発生するのでしょうか。
ここではその点についてわかりやすく解説します。
契約の基本は請負契約
注文者と元請業者、元請業者と下請業者の関係は、それぞれ工事の完成を約束し工事が完成したら料金を支払うという内容になりますので「請負(うけおい)契約」にあたります。
そのため、下請業者が工事ミスで注文者に損害を与えた場合は、注文者と請負契約をした元請業者も注文者に対して責任を負うのが原則です。
交通事故(第三者への損害)における元請業者の責任
しかし、下請業者が工事車両で「第三者」に交通事故を起こした場合、元請業者の責任は以下のように「原則」と「例外」に分かれます。
原則:元請業者は責任を負わない
民法第716条の規定により、請負人が第三者に与えた損害について、発注者(元請業者)は原則として責任を負わないとされています。
注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。
例外:元請業者に指示の
ミス(過失)があれば責任を負う
ただし、元請業者から下請業者への「注文や指図(指示)」に過失があった場合は例外です。元請業者側の落ち度が原因で事故が起きたと判断されれば、元請業者も損害賠償責任を負うことがあります。
運行供用者として
責任を負う場合もある
また、先ほど説明したように、民法の規定とは別に、自動車損害賠償保障法による運行供用者としての責任を負う場合もあります。
運行供用者とは、自動車損害賠償保障法第3条に規定されている「自己のために自動車を運行の用に供する者」のことで、自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者を意味します。
元請業者に工事車両の使用についての支配権及び利益の帰属が認められれば、運行供用者に該当することになります。
この場合、元請業者は、その交通事故に関して、
- 自己及び運転者が自動車の運行について
注意を怠らなかったこと - 被害者または運転者以外の第三者に
故意または過失があったこと - 自動車に構造上の欠陥または機能の障害が
なかったこと
(自動車損害賠償保障法3条ただし書)
をすべて証明できない限り、運行供用者としても責任を負いますので、被害者は元請業者に対し損害賠償を請求することができます。
元請業者の損害賠償責任に関する
判例
ここでは、元請業者の損害賠償責任に関する判例について、「元請業者の責任を認めた事例」と「元請業者の責任を否定した事例」を元に解説します。
元請業者の責任を認めた裁判例
裁判例では、下請業者が、下請現場に向かう途中で起こした交通事故について、下請業者の作業について、
配車の指示をするほか、
②随時現場作業の状況を見回り、運搬途中の
監督に当たるなどして
③間接的には下請業者の運転者に対して業務の監督をしていたと評価できると認定して、元請業者の運行供用者責任を認めたものがあります(最高裁昭和46年12月7日判決)。
また、定期路線の貨物運送業における下請業者が、営業所間を移動中に起こした交通事故について、被害者は、元請事業者に対して損害賠償請求をしました。
この事案に関して、最高裁は、
としました(最高裁昭和50年9月11日判決、判例時報797号100頁)。
元請業者の責任を否定した
裁判例
しかし、元請人の責任を否定した判例もあります。
この事案では、元請人から下請人に加害自動車が売却されていますが、自動車売却された後も自動車検査証の使用者、自賠責保険の契約者は元請人名義のままでした。
しかし、
- 代金決済と同時に下請人に名義変更の
手続きをする予定だったこと - 元請人と下請人の間に専属的関係が認められず、出資、役員派遣、事務所等の営業財産の貸与、自動車保管場所の提供等の事実はなく、両者に緊密な一体性があるとは言えないこと
- 下請作業においても元請人が指揮監督に
当たったことがないこと
等を理由として元請人の運行供用者責任を否定しました(最高裁昭和46年12月7日判決)。
また、同じ作業現場の仕事を下請している別の下請業者が所有する自動車を借り受けて運転中に交通事故を起こした事例について、元請業者の損害賠償責任を否定した事例があります(大阪地裁平成16年8月27日判決、出典:交民37巻4号1138頁)。
この事例では、裁判所は、
- 元請業者は下請業者を雇用したことも
専属的下請関係にあったこともないこと - 指揮監督していたと認められないこと
- 当該自動車が仕事に使われたことは
一度もないこと - 当日、たまたま当該自動車で現場に
行ったにすぎないこと
などから、元請業者は当該自動車について、何らの運行利益も運行支配もないとして、運行供用者責任を否定しました。
したがって、元請業者が、下請業者の作業について、具体的な指揮監督等を行っていないなどの事情がある場合には、元請業者の責任が認められない可能性もあります。
したがって、このように判断が分かれるため、交通事故の事案ごとに判断をしていく必要があります。
元請業者に請求できるかどうかの
ケース別判断基準
ここまで紹介した判例を整理すると、元請業者に損害賠償を請求できるかどうかは、主に次の4つの要素から判断されます。
1つずつ詳しく解説します。
指揮監督の有無
最も重視されるのが、元請業者が下請業者の作業を具体的に指揮監督していたかどうかです。
配車の指示をしていた、運行表でコースやスケジュールを指定していた、現場を見回って作業を監督していた、といった事情があれば、元請業者の責任が認められやすくなります。
下請業者の専属性
下請業者が、もっぱらその元請業者の仕事だけを請け負っている「専属的下請」であれば、元請業者との一体性が強いと評価され、責任が認められやすくなります。
反対に、下請業者が複数の会社と独立して取引しているような場合には、元請業者の責任は否定されやすくなります。
事故車両の所有・提供関係
事故を起こした車両を元請業者が所有・提供していた場合や、車検証・自賠責保険の名義が元請業者のままである場合には、運行供用者責任が問題となりやすくなります。
ただし、判例では、名義が元請業者のままでも、実態として売却済みで支配が及んでいなければ責任が否定された例もあり、名義だけで決まるわけではありません。
利益の帰属(報酬の配分など)
運送の運賃や工事の報酬の一部を元請業者が取得しているなど、車両の運行による利益が元請業者にも帰属している場合には、運行供用者責任が認められる方向に働きます。
先ほど紹介した最高裁昭和50年判決でも、元請業者が運賃の40%を取得していた事実が重視されました。
交通事故の被害者がとるべき
具体的な手順
下請業者の車両との事故にあった場合、被害者は次の手順で進めるとスムーズです。
1つずつ詳しく解説します。
手順①:警察への届出と
事故状況の記録
まず、必ず警察に届け出て、交通事故証明書を取得できる状態にします。
あわせて、事故現場や車両の写真、相手運転者の氏名・連絡先・勤務先(所属する会社名)を記録しておきましょう。
手順②:相手方の契約関係と
保険加入状況を確認する
相手が工事車両や運送車両の場合、運転者本人だけでなく、どの会社の仕事中だったのか(下請か、元請はどこか)を確認することが重要です。
車体に書かれた社名、車検証の名義、任意保険・自賠責保険の契約者名は、後で請求先を判断する際の重要な手がかりになります。
手順③:治療と証拠の確保
ケガをした場合は、事故後できるだけ早く医師の診断を受け、完治または症状固定(これ以上治療しても良くならない状態)まで治療を続けます。
診断書や領収書、休業の証明など、損害を裏付ける資料は必ず保管しておきましょう。
手順④:請求先を決めて
損害賠償請求を行う
運転者・下請業者・元請業者のうち、誰にどの根拠で請求できるかを整理し、任意保険会社または相手方本人に損害賠償請求を行います。
元請業者への請求を検討する場合は、前述の判断基準(指揮監督・専属性・車両の所有関係・利益の帰属)を裏付ける資料が必要になります。
手順⑤:早めに弁護士に
相談する
下請業者が起こした事故は、請求先の判断や証拠収集が通常の事故より複雑です。
元請業者の責任が認められるかどうかで賠償金の回収可能性が大きく変わるため、示談交渉を始める前に、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
下請業者に保険がない場合の
救済手段
下請業者に任意保険がない、あるいは自賠責保険にすら加入していないという場合でも、被害者が泣き寝入りする必要はありません。
次のような救済手段が考えられます。
1つずつ詳しく解説します。
元請業者など他の責任主体に
請求する
ここまで解説したとおり、元請業者に指揮監督や専属的関係、車両の提供などの事情があれば、使用者責任や運行供用者責任に基づいて元請業者に請求できる可能性があります。
元請業者は下請業者よりも資力があり、任意保険に加入していることも多いため、下請業者が無保険の場合には特に重要な請求先となります。
政府保障事業を利用する
(自賠責保険もない場合)
加害車両が自賠責保険にすら加入していない場合や、ひき逃げで加害者が不明の場合には、国土交通省が行う政府保障事業(自動車損害賠償保障法第72条)を利用できます。
請求の受付窓口は、各損害保険会社(共済組合を含む)の店舗です。
てん補される金額の限度は自賠責保険と同じ水準ですが、健康保険や労災保険など他の社会保険から給付を受けられる場合には、その分が差し引かれる点に注意が必要です。
被害者自身の保険を使う
(人身傷害保険・
無保険車傷害保険)
被害者自身や家族が加入している任意保険に、人身傷害保険や無保険車傷害保険が付いている場合には、相手の保険加入状況にかかわらず、自分の保険から支払いを受けられることがあります。
人身傷害保険は過失割合にかかわらず実際の損害に応じて支払われ、無保険車傷害保険は相手が無保険で十分な賠償を受けられない場合に備える保険です。
まずはご自身の保険証券を確認し、保険会社に問い合わせてみましょう。
仕事中・通勤中の事故なら
労災保険も使える
被害者自身が仕事中や通勤中に事故にあった場合には、労災保険から治療費や休業補償の給付を受けられます。
労災保険の給付と加害者側への損害賠償請求は調整されますが、相手が無保険の場合には、確実に給付を受けられる労災保険の利用が大きな支えになります。
よくある質問
Q. 一人親方が起こした
事故でも、元請業者に
請求できますか?
A. 請求できる可能性があります。一人親方でも、元請業者が具体的な指揮監督をし、専属的に仕事をさせていた場合には、使用者責任や運行供用者責任が認められることがあります。契約の形式ではなく実態で判断されます。
Q. 下請業者にも元請業者にも
請求できない場合、泣き寝入り
するしかありませんか?
A. 泣き寝入りする必要はありません。加害車両が自賠責保険にも未加入なら政府保障事業を利用でき、ご自身の人身傷害保険・無保険車傷害保険や、仕事中の事故であれば労災保険も活用できます。
Q. 元請業者に請求する
ためには、どのような証拠が
必要ですか?
A. 運行表や配車指示の記録、元請と下請の契約内容、車検証や自賠責保険の名義、報酬の配分などがわかる資料が有力です。指揮監督や専属性を示す証拠の収集は難しいため、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
みらい総合法律事務所は無料相談を行なっています。ぜひご利用ください。
弁護士へのご相談の流れ
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代表社員 弁護士 谷原誠














