【交通死亡事故】慰謝料請求…ご家族がやるべきことは?
もし、家族や大切な人が交通事故で死亡したら、どうすればいいのでしょうか?
あなたは家族として何をしてあげられるでしょうか?
初めてのことでは、わからないことが多いと思います。
私たち、みらい総合法律事務所は年間1000件以上の交通事故の相談を受けています。
そうした経験を踏まえ、死亡事故が起きた時にご家族がやるべきこと、やってはいけないことなどを包括的かつ網羅的に説明していきます。
この記事を読むと、次のことがわかります。
- 慰謝料請求ができるのは誰か?
- 示談交渉開始のタイミング
- 過失相殺の知識
- 刑事事件への対処法
- 死亡事故の慰謝料の相場
- 相場以上の慰謝料が認められる条件
目次
死亡事故のご遺族は、まず、
こちらの動画解説をご覧ください。
死亡事故でご遺族がやるべきこと
死亡事故で大切な方を亡くされた場合、ご遺族は大変深い悲しみにつつまれます。
突然の出来事のため、どうしていいのかわからず途方に暮れてしまう方や、あまりのショックから茫然自失になる方もいます。
しかし、どなたかが交通事故で死亡された場合、その瞬間から、ご遺族と加害者との間で損害賠償など法的な問題が発生します。
交通事故の加害者は罪を犯したことになるので、刑事事件が進んでいくことになります。
同時に、刑事事件とは別に、ご遺族と加害者との間では、慰謝料などの損害賠償における民事事件が進んでいきます。
民事事件というのは、加害者に対して、ご遺族(相続人)が行なう慰謝料などの損害賠償請求です。
死亡事故のことは思い出したくない、という方も多いと思いますが、損害賠償金は当然、ご遺族が手にすることができる権利です。
亡くなったご家族のためにも権利の放棄などしないようにしなければいけません。
死亡事故の慰謝料などの賠償金は、亡くなった方の「命の値段」ともいえます。
不当に低い損害賠償金額で示談をすることは、亡くなった方に低い値段をつけた、ということにもなりかねないのです。
みらい総合法律事務所で解決した実際の増額事例
これまでに私たちが依頼を受けて解決した、実際の慰謝料等の増額事例をご紹介します。
死亡事故の実際の解決事例(1)
71歳の女性が、交差点を青信号で渡っているときに、右折してきた自動車に衝突され、死亡しました。
加害者側の保険会社は、ご遺族に対し、示談金として、2475万3114円を提示。
つまり、保険会社は、被害女性の命の値段を約2500万円と見積もった、ということです。
ご遺族は、この金額に納得がいかず、みらい総合法律事務所に示談交渉を依頼しました。
弁護士が交渉しましたが、決裂したため裁判に突入。
法廷では弁護士の立証が成功し、慰謝料などが大幅に増額。
最終的に、5350万円で解決しました。
約2850万円の増額です。
保険会社が提示したのは約2500万円でしたが、実際に支払われるべき慰謝料などは5350万円だった、ということです。
保険会社の言うことを信じていたら、2850万円以上も損をしていた、ということです。
これでは、命を落とした被害者の方も無念という他ありません。
次にもう1つ、私たちが実際に解決した増額事例をご紹介します。
死亡事故の実際の解決事例(2)
11歳の女子小学生が、青信号で交差点を横断していたところ、左折トラックに衝突され死亡した交通事故です。
ご遺族は加害者を許せず、加害者の刑事事件に参加することにし、その助言から示談交渉までのすべてを、みらい総合法律事務所に依頼されました。
当初、保険会社は慰謝料など約3800万円を提示してきました。
しかし、弁護士が増額を主張し交渉したところ、最終的に6150万円での解決となりました。
保険会社提示額から約2300万円増額したことになります。
保険会社は、約2300万円も低い金額を適正な示談金額として提示していたのですから、弁護士に依頼しないで示談していたら、ご遺族は大きな損失を被るところだったわけです。
こうした事例を見ても、保険会社の言うとおりに示談してはいけないことがわかると思います。
ではなぜ、弁護士に依頼すると、示談金額がこのように増額するのでしょうか?
その理由を動画でわかりやすく解説していますので、ぜひご覧ください。
【動画解説】交通事故で弁護士に相談しないと損をする7つの理由
慰謝料等の損害賠償請求の時効について
通常、加害者側の保険会社の担当者と示談交渉をしていくことになりますが、死亡事故の場合、治療や後遺障害は発生しないため、損害額がすぐに決まります。
しかし、保険会社からの提示額は、適正な金額よりも低いことが多いので、ご遺族としては示談交渉をしていくことになるのですが、じつは、損害賠償請求する権利には時効があります。
時効を過ぎると請求できなくなるので注意してください。
加害者に対する損害賠償請求の時効は、「損害及び加害者を知った時」(民法第724条)から物損については3年、人身損害部分については5年です。
あるいは、損害及び加害者がわからなかったとしても、事故日から20年を経過すれば時効により消滅します。
死亡事故の示談交渉の進め方
ここからは具体的に、死亡事故の示談交渉の進め方の手順やポイントについて解説していきます。
死亡事故では慰謝料を含めた損害賠償額が多額になるので、適正金額を獲得するためには慎重に進めていくことが大切です。
死亡事故の示談交渉はいつ始めるのか?
ご家族が交通事故で死亡されたら、通夜と葬儀を行なうと思いますが、加害者が刑事事件として逮捕されていない場合は本人が参列することが多いです。
ところが、参列しない加害者もいるため、保険会社の担当者が代わりに参列するケースもあります。
加害者が香典などを持参する場合がありますが、ご遺族としては、これを受け取るかどうかも検討しなければなりません。
香典を受け取った場合には、加害者は自分の刑事事件の公判において、「葬儀に参列し、香典を受け取ってもらい、ご遺族に謝罪を受け入れていただきました」と主張して、ご遺族の被害感情が強くないことを印象づけようとするかもしれません。
あるいは、ご遺族が示談を急ぎ、示談が成立したとすると、「示談が成立し、慰謝料の支払いにより、ご遺族の精神的苦痛が緩和されました」と主張し、刑の軽減を狙うかもしれません。
死亡事故では、このようなことも考えておかなければならないのです。
また、交通死亡事故のご遺族は、警察や検察から事情聴取されるのですが、何を証言するのかも重要です。
さらに、ご遺族が加害者の刑事裁判に参加できる「被害者参加制度」というものもあります。
どのように参加していけばいいのか、弁護士はご遺族に適切な助言をし、かつ代理人として刑事事件に参加することもあります。
このように、交通死亡事故の場合には、民事だけでなく、刑事事件でも多くの難しい問題がありますので、必ず弁護士に相談し、進めていくのがよいでしょう。
被害者参加制度について、詳しく知りたい方は、裁判所のホームページもご参照ください。
【参考情報】裁判所ホームページ
http://www.courts.go.jp/saiban/wadai/2103_higaisya_songai/index.html
なお、死亡事故の場合の慰謝料などの示談交渉については、通常は死亡後の手続きが終了して、ご遺族の方々が落ち着いた四十九日が過ぎた頃から開始されます。
交通死亡事故のご遺族は、大切なご家族を亡くした悲しみの中で大変なことだと思いますが、
・警察・検察への対応
・刑事事件への参加
・保険会社との示談交渉
など経験したこともない事態に、間違いがないよう適切に対応していかなければならないのです。
交通死亡事故では誰が損害賠償請求できるのか?
死亡事故の場合、加害者に慰謝料などの損害賠償請求をすることができるのは被害者の方の相続人です。
家族全員が損害賠償請求できるわけではないことに注意が必要です。
そのため、死亡事故の場合には、まず損害賠償請求権を持っている人は誰かを確定する必要があります。
では次に、相続人が誰になるのかについて考えてみます。
たとえば、交通事故で亡くなった方には、配偶者(夫、妻)と親、兄弟姉妹、子などがいるとします。
配偶者がいる場合は、つねに相続人になり、他の相続人と共に損害賠償請求権を相続することになります。
配偶者以外の相続人の場合には、順番があります。
第一順位の相続人は子になります。
子がすでに死亡しており、子の子供(被害者の孫)がいれば、孫が第一順位で相続人になります。
つまり、子や孫がいれば被害者の配偶者と一緒に相続人になりますが、親や兄弟姉妹は相続人にはなりません。
第二順位の相続人は親になります。
子がいない場合には、親が相続人になり、兄弟姉妹は相続人になりません。
ただし、被害者の配偶者は一緒に相続人になります。
第三順位は兄弟姉妹です。
子も親もいない場合には、兄弟姉妹が相続人になります。
兄弟姉妹がその時点で死亡している場合には、兄弟姉妹の子が同順位で相続人になります。
もちろん、この場合でも配偶者は一緒に相続人になります。
すぐに示談してはいけない理由とは?
ご遺族の中には死亡事故のことを早く忘れたい、もう触れたくないなどの理由から、すぐに示談をしようと考える方もいますが、これはやめてください。
なぜなら、次の2つの理由があるからです。
(1)加害者の量刑が軽くなってしまうから
死亡事故では、「刑事手続」「民事手続」「行政手続」の3つが並行して進んでいきます。
刑事手続ではまず、警察、検察による捜査(実況見分、取り調べ等)が行なわれます。
被害者のご遺族には、生前の被害者の方の様子、ご遺族の無念さ、加害者への処罰感情などについて聞き取りが行なわれます。
捜査が終了すると、加害者を起訴するかどうか検察官が決め、起訴された場合は、刑事裁判が行なわれることになります。(罰金刑となり、法廷で開かれる裁判が行なわれない場合もあります)
じつは、この刑事裁判で量刑が確定する前に損害賠償額の示談が成立してしまうと、加害者は刑事事件の法廷で、「ご遺族とは示談が成立したので、被害感情はある程度癒やされている」などと主張する場合があります。
すると、加害者に対する量刑が軽くなってしまうのです。
そのため、ご遺族としては刑事裁判の進行具合も考えながら、損害賠償の示談交渉を進めることが必要になってきます。
こうした間にも、加害者側の保険会社からは連絡が来ますので、代理人として弁護士を立てて、保険会社からの連絡が来ないようにし、防波堤となってもらうことも検討しましょう。
(2)保険会社は適正金額より低い損害賠償額を提示してくるから
多くの場合、加害者側の保険会社がご遺族に提示する損害賠償額は、本来であれば手にするべき適正な金額より低いことが多い、というのが現実です。
一体、それはどういうことでしょうか?
じつは、交通事故の慰謝料などの損害賠償には、
①自賠責基準、②任意保険基準、③弁護士(裁判)基準
の3つの基準があります。
「自賠責基準」
3つの中で、自賠責基準がもっとも金額が低い基準になります。
保険会社は、死亡事故でも、この自賠責基準を示談金として提示してくることがありますが、この金額で示談しないように気をつけましょう。
自賠責保険の支払い基準については、国土交通省のホームページをご参照ください。
【参考情報】国土交通省・自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/kijyun.pdf
「任意保険基準」
任意保険会社が独自に定めている基準です。
通常、任意保険会社は、この金額で示談金を提示してきます。
しかし、死亡事故のご遺族が本来受け取ることができる適正金額は「弁護士(裁判)基準」で算出したものです。
つまり、任意保険基準で算出した金額は正しい金額よりも低いということになります。
「弁護士(裁判)基準」
裁判で認められる金額の基準が弁護士(裁判)基準であり、慰謝料などの損害賠償金がもっとも高くなります。
被害者の方やご遺族から依頼された弁護士が交渉の際に主張するのも、弁護士(裁判)基準で算出した金額になります。
適正金額というのは、裁判を起こせば判決で認められる金額のことですから、保険会社が提示してきた示談金額で安易に示談しないようにしましょう。
「有名な大手保険会社が適当な損害賠償金額を言うわけないだろう」と思っている方もいるかもしれませんが、実際には適正な金額よりも低い任意保険基準で提示してくることが多いので注意が必要です。
なぜかというと、そこには秘密があります。
保険会社も多くは営利企業ですから、利益を出さなければなりません。
利益とは、収入から支出を差し引いて算出されます。
したがって、支出をなるべく少なくしないといけないわけですが、保険会社の場合、支出の多くは支払保険金ですから、慰謝料など損害賠償金が低くなればなるほど利益が増える、ということになるのです。
とても残念なことですが、これが保険会社が弁護士(裁判)基準ではなく、任意保険基準で示談交渉をしてくる理由です。
死亡事故で保険会社が示談金を提示してきたときは、その金額が妥当かどうか、必ず弁護士に相談するようにしましょう。
そうしないと、死亡事故でご家族を失い、さらに示談交渉で本来受け取れる慰謝料を失う、という二重の被害にあってしまうことになります。
そして、低い金額が提示されているときは、さらに示談交渉を続けていくことになりますが、相手は交通事故の示談交渉のプロです。
ご遺族が納得のいく金額を引き出すのは、かなり難しいと言わざるを得ません。
そのような場合には、弁護士に示談交渉を依頼することになると思いますが、弁護士が保険会社と交渉すると慰謝料などの損害賠償金額が増額することが多くあることを、ぜひ知っておいてください。
実際の解決実績を見ると、弁護士が入ることでかなりの増額を勝ち取っていることがわかると思います。
この理由も、保険会社が営利企業だからです。
弁護士が交通事故で死亡した被害者のご遺族の代理人として出てきた場合、保険会社は適正な金額を提示しないと、すぐに裁判を起こされてしまいます。
すると、どうなるかというと、
・保険会社は、弁護士(裁判)基準に基づく適正な損害賠償金を支払わなければならなくなる。
・裁判で判決までいった場合には、適正な損害賠償金に加え、遅延損害金や弁護士費用相当額という、示談では支払わなくてもいい金額を追加で支払うことになってしまう。
・さらに、裁判をするためには、保険会社も弁護士費用を負担しなければいけない。
そうであれば、弁護士が出てきた段階で、ある程度譲歩して示談したほうがいい、という判断になるのです。
これが、弁護士に依頼すると、示談金が増額する理由です。
交通死亡事故の慰謝料・損害賠償請求はどのように行なえばいいのか?
交通事故で後遺障害を負った場合と同様に、死亡事故の場合も自賠責保険会社と任意保険会社の両社に対して、損害賠償請求をすることができます。
請求の仕方には2通りあります。
被害者が直接自賠責保険に損害賠償額の請求をする「被害者請求」と、任意保険会社が自賠責分も含めて被害者に一括払いし、その後任意保険会社が自賠責保険会社に請求をする「一括払い」があります。
被害者請求
被害者請求のメリットは、ご遺族に経済的な余裕がない場合などでは、まずは自賠責保険からある程度まとまったお金を得て生活を安定させてから、任意保険会社と示談交渉を進めることができる点です。
ただし、裁判の判決までいった場合、損害賠償金には事故時からの遅延損害金が付加されるのですが、まず自賠責保険から保険金を受け取ると、遅延損害金が付加されなくなるため、裁判での解決の可能性のある場合には、結果的にはご遺族が受け取る金額が少なくなってしまうので注意が必要です。
2020年4月1日より前の交通事故の場合は、事故時から年5%の遅延損害金が付加されることになります。
遅延損害金は、民法改正により、2020年4月1日以降に発生した交通事故については、年3%の割合で計算し、その後3年ごとに率が見直されることになっています。
一括払い
一括払いのメリットは、裁判をした場合には、かかってくる遅延損害金の額が大きくなるため、ご遺族が受け取る損害賠償金額が増額することです。
また、ご遺族側には手続き上の負担が少なく済むいというメリットもあります。
ちなみに、自賠責保険の損害賠償額は、3000万円が上限になっています。
ご遺族は、経済状況などを考えながら、もっとも適した方法を選ぶことが大切です。
損害賠償金の項目とは?
死亡事故の場合に被害者の方のご遺族が保険会社に請求できる主な項目は、大きく分けると次のようになります。
・葬儀関係費
・逸失利益(生きていれば得られたはずのお金)
・慰謝料(被害者の慰謝料、近親者の慰謝料)
・弁護士費用(裁判をした場合)
上記以外でも、即死ではなく、治療の後に死亡した場合は、実際にかかった治療費、付添看護費、通院交通費等を請求することができます。
「葬儀関係費」
葬儀関係費は、自賠責保険では定額で60万円、任意保険は120万円以内が大半です。
また、弁護士に依頼して訴訟を起こしたときに認められる葬儀関係費の相場は、150万円前後になります。
【出典】「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部)
https://n-tacc.or.jp/book
なお、墓石建立費や仏壇購入費、永代供養料などは、個別で判断されることになります。
「逸失利益」
逸失利益とは、被害者の方が生きていれば将来働いて得られたはずのお金(収入)です。
金額の算定では、今、一時金として受け取ることを前提とするため、将来の時点までの中間利息を控除することになります。
死亡事故の場合には、その時点で100%所得がなくなるので、「労働能力喪失率」は100%になります。
また、生きていれば生活費にお金がかかるはずなので、生活費としてかかるであろう割合を差し引くことになりますが、これを「生活費控除」といいます。
少し難しいのですが、計算式は次のようになります。
【死亡逸失利益の算定式】
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
・基礎収入は前年の年収です。
・ライプニッツ係数とは、損害賠償の場合は将来受け取るはずであった収入を前倒しで受け取るため、将来の収入時までの年5%の利息を複利で差し引く係数のことをいいます。
なお、2020年4月1日以降の事故では民法改正により、ライプニッツ係数の率は3%となり、以降3年ごとに率が見直されます。
【参考情報】国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表」
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/resourse/data/syuro.pdf
・生活費控除率の目安は以下の通りです。
被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合 | 40% |
---|---|
被害者が一家の支柱で被扶養者2人以上の場合 | 30% |
被害者が女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合 | 30% |
被害者が男性(独身、幼児等含む)の場合 | 50% |
- 被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合
- 40%
- 被害者が一家の支柱で被扶養者が2人の場合
- 30%
- 被害者が女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合
- 30%
- 被害者が男性(独身、幼児等含む)の場合
- 50%
逸失利益の計算は難しいので、正確に計算したい場合は、弁護士に相談するようにしてください。
「死亡慰謝料」
死亡事故では、被害者の方の慰謝料と近親者の慰謝料があります。
被害者の方が死亡するとき(即死の場合を含む)、その瞬間に極度の精神的苦痛を味わうために慰謝料が発生し、それが相続人に相続される、という考え方です。
慰謝料というのは、精神的苦痛に対する損害です。
精神的苦痛は人それぞれに違い、他人である裁判所が内心を判断するのは不可能なので、過去の膨大な裁判例の集積により、一定の基準が形成されています。
裁判を起こしたときは、原則として、その基準に従って判決が出されます。
死亡事故の場合の慰謝料は、被害者の方の家庭における立場によって金額が設定されており、おおよそ以下のようになります。
被害者が一家の支柱の場合 | 2800万円 |
---|---|
被害者が母親・配偶者の場合 | 2500万円 |
被害者がその他の場合 | 2000万~2500万円 |
- 被害者が一家の支柱の場合
- 2800万円
- 被害者が母親、配偶者の場合
- 2500万円
- 被害者がその他の場合
- 2000万~2500万円
しかし、これらの金額は、あくまでも慰謝料の相場に過ぎません。
じつは、裁判を起こした場合には、相場以上の慰謝料の支払いが命じられる場合があります。
いくつかの条件があるのですが、その条件を満たす場合には、ご遺族は慰謝料増額事由を主張する必要があります。
というのは、法律では被害者に主張立証責任があるので、慰謝料増額事由がある場合は被害者が主張立証しない限り、裁判所は勝手に慰謝料を増額することができないのです。
ですから、死亡事故で相場より慰謝料が増額される条件を満たす場合には、被害者側は積極的に慰謝料増額を主張立証していくことが必要です。
「弁護士費用相当額と遅延損害金」
交通事故で裁判を起こし、判決までいった場合、判決では、被害者に対する逸失利益、慰謝料など損害賠償額の他に、その損害賠償額の約10%程度が交通事故と相当因果関係のある損害と認められ、 「弁護士費用相当額」として上乗せされます。
つまり、死亡事故の被害者側ご遺族としては、裁判を起こすことによって、本来自分で負担しなければならない弁護士報酬の一部を加害者に負担させることができるわけです。
これは、示談交渉ではほぼ認められませんので、裁判を起こした場合のみ、と考えておいたほうがよいでしょう。
また、死亡事故の場合には、事故の日から、損害賠償金に対し「遅延損害金」が付加されます。
裁判はしたくないというご遺族もいらっしゃいますが、裁判は必ずしも避けるものではない、ということになります。
「損害賠償シミュレーション(死亡事故編)」
みらい総合法律事務所では被害者の方やご遺族が、ご自分で損害賠償額を計算できるように、WEB上の自動計算機を設置しています。
個別の事情があるため完璧ではありませんが、一般論的な数字は算出できるので、ぜひ活用してください。
慰謝料は相場の金額より増額させることができる
加害者が悪質だったり、悲惨な事故であったり、被害者本人やご遺族の悲しみが大きいと考えられる場合は、慰謝料が増額されて相場金額よりも高額で認められます。
いくつか事例を紹介します。
【増額事例①30歳男性で4000万円に増額】
30歳の男性が、交差点を歩行中、無免許飲酒運転の被告自動車にひかれ、さらに約2.9メートル引きずられて死亡した事案。
引きずられながら絶命した被害者の苦痛苦悶は筆舌に尽くしがたいことを考慮し、死亡慰謝料は以下のように認められた。
【慰謝料基準額】
2800万円
【認められた額】
本人分 3500万円
近親者 500万円
計 4000万円
(大阪地裁 平成25年3月25日判決 自動車保険ジャーナル・第1907号・57頁参照)
【増額事例②17歳男性で3900万円に増額】
17歳男性が、横断歩道を青信号で横断中、無免許・飲酒運転の被告自動車にひかれた事案。
被告は10年以上無免許で通勤にも車を使用し、飲酒運転が常態化。
衝突後、被害者を「危ない」と怒鳴りつけたことなど悪質なことから、死亡慰謝料は以下のように認められた。
【慰謝料基準額】
2000~2500万円
【認められた額】
本人分 3000万円
近親者 900万円
計 3900万円
(大阪地裁 平成18年2月16日判決 交通事故民事裁判例集39巻1号205頁参照)
【増額事例③19歳男性で3750万円に増額】
19歳男性が、原付自転車を運転中、不良少年グループによる2台の危険運転行為がある中で衝突。
212メートル引きずられた後、轢過され死亡した事案。
少年らの生命を軽視した身勝手な危険運転行為で惹起された事故であり、通常の交通事故と同列に扱うのは相当でないとして、死亡慰謝料は以下のように認められた。
【慰謝料基準額】
2000~2500万円
【認められた額】
本人分 3000万円
近親者 750万円
計 3750万円
(大阪地裁平成18年7月26日判決・交通事故民事裁判例集39巻4号1057頁参照)
交通事故の場合には、おおよその相場金額が決まっているのですが、そのとおりに決定されるわけではありません。
事情によっては、死亡慰謝料が増額する場合があることを覚えておいてください。
しかし、慰謝料の増額は、被害者側が主張しない限り保険会社は認めてくれませんし、裁判所も認定してくれません。
したがって、慰謝料増額事由があるときは、その事由を被害者側が積極的に主張していかなければならないのです。
また、示談交渉で保険会社が慰謝料を相場以上にしてくれることは期待できません。
なぜなら、基準以上の支払いをしてしまうと、保険会社の支出が増え、利益が下がってしまうからです。
示談交渉が決裂し、被害者側に裁判を起こされ、裁判で基準以上の支払いを命じられてから支払いに応じる、というのが一般的です。
死亡事故の場合、まずは交通事故に強い弁護士に相談するのが必須といえるでしょう。