片側賠償とは?仕組み・メリット・デメリットを弁護士が解説
交通事故の過失割合は、「加害者:被害者=10:0」や「9:1」のように、合計が10となる形が一般的です。
しかし、「加害者:被害者=9:0」のように、通常の過失割合とは異なり、加害者のみが賠償を負担する「片側賠償」と呼ばれるケースも存在します。
本記事では、交通事故における片側賠償の仕組みや過失割合が9対0となる事例、そして片側賠償のメリットとデメリットを弁護士の視点からわかりやすく解説します。
目次
片側賠償とは?
意味と仕組みをケース別に
わかりやすく解説
片側賠償とは、交通事故などで双方に過失がある場合でも、加害者側が被害者に対する損害賠償請求権を放棄することで、加害者側のみが賠償責任を負う解決方法です。
過失割合「9:1」の事故で
「9:0」となる仕組み
交通事故では、過失割合に応じて損害賠償金の額が調整されます。
過失割合が「9:1」のようなケースでは、被害者側にも一定の過失があるため、通常は加害者への賠償義務が生じます。
しかし、被害者側に過失がある場合でも、加害者側が損害賠償請求権を放棄すれば、被害者は加害者の損害を負担せずに済みます。
このように、過失割合が「9:1」であっても、実質的には「9:0」として処理されるのが片側賠償です。
加害者側のみが賠償する
仕組みの背景と目的
片側賠償が選択される背景には、迅速かつ円満な紛争解決を実現する目的があります。
加害者の立場では、過失割合が「10:0」と「9:1」では賠償金の額が異なりますが、「9:0」とすることで、「10:0」の場合より負担額を抑えることができます。
被害者の立場では、加害者の損害を賠償するために保険を使うと、等級ダウンなどの不利益が生じることがあります。
しかし、過失割合が「9:0」として処理されれば、「10:0」の場合より受け取れる賠償金は減るものの、被害者に自己負担は生じません。
そのため、過失割合が9対1程度の場合には、早期解決を優先して「9:0」とする和解を提案されることがあります。
過失割合9対0と9対1における
損害賠償額の計算例
交通事故における過失割合が「9:0」と「9:1」では、被害者が受け取れる損害賠償額は異なります。
<過失割合9対0のケース>
| 加害者 | 被害者 | |
|---|---|---|
| 過失割合 | 9 | 0 |
| 損害額 | 500万円 | 1,000万円 |
| 損害賠償請求額 | 0円 | 900万円 |
<過失割合9対1のケース>
| 加害者 | 被害者 | |
|---|---|---|
| 過失割合 | 9 | 1 |
| 損害額 | 500万円 | 1,000万円 |
| 損害賠償請求額 | 0円 | 850万円 |
上記の計算例では、過失割合が「9:0」の場合、被害者は損害1,000万円の9割(1,000万円 × 90% = 900万円)を請求することが可能です。
一方、過失割合「9:1」の場合には、加害者が損害500万円の1割(500万円 × 10% = 50万円)を請求できるため、被害者が請求できる900万円から50万円を過失相殺によって差し引かなければなりません。
そのため、被害者が最終的に請求できる金額は、「9:1」よりも「9:0」の方が多くなります。
片側賠償のメリット
片側賠償は、被害者の負担を軽減し、紛争の長期化を防ぐための合理的な選択肢です。
ここでは、片側賠償の具体的な利点を4つの観点から解説します。
加害者に対する支払いが
ゼロになる
過失割合が「9:1」のようなケースでは、被害者側にも過失があるため、本来は損害の1割を補償する義務があります。
しかし、片側賠償によって過失割合が「9:0」と処理されれば、被害者側の支払い義務はゼロになるため、経済的負担は生じません。
迅速な示談成立・支払いが
可能になる
通常、過失割合は損害賠償額に直接影響するため、交渉が難航し、補償までに時間を要するケースも少なくありません。
しかし、過失割合を「10:0」ではなく「9:0」にすれば、加害者の負担額が減るため、示談交渉がスムーズに進みやすく、賠償金を受け取るまでの時間も短縮されます。
話し合いが早期にまとまれば、保険会社の支払いも迅速に行われるので、被害者は速やかに損害回復を受けることができます。
保険の等級が下がるのを
回避できる
被害者に過失がある場合、加害者に対して賠償金を支払う義務が生じます。
任意保険を使えば実費負担を抑えられますが、保険を利用すれば等級が下がり、翌年以降の保険料が上がるというデメリットが生じます。
一方、片側賠償では加害者側が一方的に賠償責任を負うため、被害者は保険を使う必要がなくなります。
そのため、事故後の影響を抑えられることも、片側賠償の利点の一つです。
精神的・時間的コストの
削減効果
過失割合を巡る争いや長期化する交渉は、被害者にとって大きな精神的ストレスとなります。
加害者が被害者の過失を主張する場合、話し合いが平行線になることもありますが、過失割合「9:0」とする片側賠償であれば、速やかに合意に至る可能性があります。
片側賠償で双方が合意できれば、交渉や証拠収集に要する労力が軽減され、時間的な拘束も少なくなります。
その結果、事故後の生活再建や治療に集中できる環境が整い、心理的な安定にもつながります。
片側賠償のデメリット・注意点
片側賠償には、交通事故を迅速に解決できる利点がある一方で、被害者に不利益をもたらす場合もあります。
本来の過失割合が反映されない可能性
片側賠償は早期解決を優先するため、交渉次第で認められる可能性がある「過失ゼロ(10:0)」を放棄することになります。
過失割合9対0であれば、被害者側に賠償義務は生じません。
しかし、10対0のケースに比べると受け取る賠償金が少なくなるため、損害額が大きい場合には注意が必要です。
加害者側の合意がなければ
成立しない
片側賠償は、当事者が合意しないと成立しません。
過失割合9対0が加害者側にとって不利な条件となる場合には、片側賠償に応じない可能性があります。
また、加害者側が片側賠償に応じる代わりに、損害賠償金の減額を求めるなど、交渉の材料として利用されるリスクもあります。
片側賠償を行った方がいいケース、
適用されるケース
片側賠償はすべての事故に適しているわけではなく、状況に応じた判断が必要です。
ここでは、制度の選択が合理的とされる典型的なケースを紹介します。
加害者の過失が大きく、
被害者の過失が軽微な場合
追突や前方不注意など、交通事故の原因のほとんどが加害者にある場合、片側賠償が選ばれやすくなります。
全面的な責任が加害者にあるときは「10:0」を目指すのが基本ですが、被害者側にも軽微な過失があるときは、過失割合を「9:0」にすることも選択肢です。
被害者が受け取る賠償金は減ってしまいますが、賠償責任がなくなることで自動車保険の等級が下がるリスクを避けられます。
被害者側が早期解決を
希望する場合
治療や修理を早く進めたい、精神的負担を減らしたいなどの理由で、早期解決を望む場合も片側賠償は有効です。
過失割合の争いや訴訟リスクを避けることで、損害回復までの時間が短縮され、被害者は事故後の生活再建や治療に集中できます。
そのため、仕事や家庭への影響を最小限に抑えたい場合も、片側賠償は合理的な選択肢となります。
片側賠償のトラブルを防ぐための
ポイント
片側賠償は便利な制度ですが、内容を十分に理解せずに合意すると、損害回復に支障が出ることがあります。
示談内容と根拠を
十分に確認する
片側賠償を選択する際には、示談内容を細部まで確認することが求められます。
損害項目に見落としがないよう注意するだけでなく、過失割合や損害額の算定根拠についても、事故状況・修理見積・診断書などの客観的資料を基に明示されているかを確認することが重要です。
算定根拠が不明確なまま合意すると、損害が過小評価されるリスクが高まるため、専門家の意見を交えて適正かどうかを判断することが望ましいです。
弁護士に事前相談する
片側賠償を選択する前には、弁護士や交通事故に詳しい専門家へ相談し、制度の適用が妥当かどうかを確認することが重要です。
交通事故による損害額が大きい場合、過失割合が「10:0」と「9:0」では受け取れる金額が異なります。
交渉が難航して妥協によって過失割合が変われば、賠償金が減額し、事故後の生活に影響が及ぶ可能性もあります。
また、交通事故で後遺症を負った場合には、後遺障害等級の申請手続きが必要です。
認定される等級によって慰謝料の金額は大きく変動するため、専門家のサポートが欠かせません。
さらに、保険会社との交渉力にも差が出るため、事前に助言を受けることで、損害回復の最大化とトラブル回避の両立が可能になります。
弁護士特約を活用して
依頼することも可能
弁護士特約は、任意保険のオプションの一つで、保険会社が弁護士費用を負担する制度です。
交通事故の被害者となった場合、通常は賠償金の支払いがなければ保険を利用しません。
しかし、弁護士特約を付けている場合には、この特約を利用して弁護士に相談・依頼することが可能です。
弁護士特約の上限は一般的に300万円とされており、損害賠償金が高額にならないケースであれば、自己負担ゼロで弁護士に交渉を任せることができる可能性もあります。
片側賠償の対応は
弁護士に相談・依頼すること
片側賠償はメリットのある制度ですが、損害賠償金が減額されるなど、被害者に不利益が生じる可能性もあります。
適正な賠償を受けるためには、交通事故に詳しい弁護士へ相談し、示談内容や損害評価を専門的に確認することが重要です。
弁護士に示談交渉を依頼すれば、アドバイスやサポートを受けることで損害賠償金の増額が期待できます。
さらに、交渉対応を一任することで精神的負担が軽減され、被害者は治療に専念できるという大きなメリットがあります。
示談交渉の初期段階から弁護士が担当すれば、交渉はスムーズに進みやすく、納得のいく解決につながります。
そのため、片側賠償を検討する際には、一度弁護士に相談することを強く推奨します。
交通事故で片側賠償でお困りの場合は、まずは一度、みらい総合法律事務所の無料相談をご利用ください。
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代表社員 弁護士 谷原誠















