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遷延性意識障害の後遺障害等級と解決事例集

最終更新日 2021年 07月27日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠



【動画解説】遷延性意識障害の論点と解決事例

この記事を読んでわかること

この記事では、交通事故による「遷延性意識障害」で後遺症が残った場合の後遺障害等級認定や慰謝料等の損害賠償金などについて解説していきます。

具体的には、この記事を読むことで次の内容がわかります。

☑慰謝料が大幅に増額して解決した実際の事例
☑遷延性意識障害の後遺障害等級
☑後遺障害等級認定の仕組み
☑後遺障害等級の認定基準
☑交通事故の示談交渉における素人と弁護士の違い
☑交通事故の示談金が増額する理由
☑遷延性意識障害で弁護士に依頼すると、どの程度増額するのか?
☑弁護士の正しい探し方

ぜひ、最後まで読んでください。

これから交通事故の遷延性意識障害について解説していきますが、その前に、交通事故解決の全プロセスを解説した無料小冊子をダウンロードしておきましょう

遷延性意識障害とは?


交通事故で頭部に被害を受けた場合、重大な後遺障害が残ってしまうことがあります。
そのひとつに、遷延性意識障害があります。

遷延(せんえん)とは、長引くという意味で、医療用語として使われることが多い言葉です。

そうしたことから、遷延性意識障害とは、被害者の方の意識が回復しないまま、長期間にわたって昏睡状態が続くものをいいます。

被害者ご自身が自発的に活動できないために、植物状態と表現されることも多いので、この言葉でご存知の方もいらっしゃるでしょう。

遷延性意識障害では、つねに介護をする必要がありますし、同時に加害者側の任意保険会社との示談交渉を進めていかなければいけません。

重い後遺障害の場合、慰謝料などの損害賠償金が高額になるため、示談交渉は難航することが多くあります。

そのため、最終的には裁判に発展する可能性が高く、ご家族は二重の苦しみを背負わなければいけないこともあるのです。

では、ご家族の負担を少しでも軽減できる方法はないのでしょうか?

また、ご家族には次のようなさまざまな疑問や不安があると思います。

☑後遺障害等級は何のためにあるのか?
☑後遺障害等級は、どのように認定されるのか?
☑正しい後遺障害等級は、どうやって確認すればいい?
☑慰謝料などの損害賠償金は、いくら受け取ることができるのか?
☑保険会社が提示してきた金額は本当に正しいのだろうか?
☑示談交渉は、どのように進めていけばいいのか?
☑弁護士に相談・依頼すると、どのようなメリットがあるのか?

そこで今回は、交通事故の被害で遷延性意識障害を負った場合、ご家族が知っておくべきこと、また慰謝料等の損害賠償請求などで必要な手続きと、その注意ポイントなどについて解説していきたいと思います。

【参考論文】
「遷延性植物状態の不可逆性につ いて」(塚本泰司著)

遷延性意識障害が認められるための7つの要件


遷延性意識障害が認められるには、日本脳神経外科学会の定義により、医学的に次のすべての要件を満たす必要があります。

①自力での移動が不可能
②自力での摂食(食事や飲物の摂取)が不可能
③糞尿が失禁状態である
④眼球で物の動きを追うことはあっても、それが何であるか確認できない
⑤「手を握って」、「口を開けて」などの簡単な指示には応じることはあっても、それ以上の意思疎通が不可能
⑥声を出すことはできても、意味のある発言が不可能
⑦以上の状態が3ヵ月以上継続している

遷延性意識障害を負った被害者の方はこうした症状であるため、つねにご家族などからの介護が必要になります。

遷延性意識障害と脳死は違う


遷延性意識障害を発症するのは、交通事故で頭部に外傷を受け、脳挫傷(脳組織の挫滅)や、びまん性軸索損傷(回転性の外力による神経線維の断裂)により脳が広範囲にわたって損傷を受けることが原因です。

ところで、脳死状態と遷延性意識障害が混同されることがありますが、これらは同じではありません。

たとえば、遷延性意識障害では自発呼吸や睡眠・覚醒サイクルはありますが、脳死の場合はありません。

また、遷延性意識障害の場合は脳死とは違い、回復や改善する可能性があります。

こうした事実は、今後の損害賠償請求や示談交渉では大きなポイントになってくるので、しっかり認識しておく必要があります。

【参考情報】
「脳死」脳科学辞典

遷延性意識障害の後遺障害等級


遷延性意識障害では、次の自賠責後遺障害等級が認定されます。

【自賠法別表第1】 後遺障害等級第1級

介護を要する後遺障害保険金
(共済金)
1.神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、
  常に介護を要するもの
2.胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、
  常に介護を要するもの
4000万円

 

後遺障害等級1級1号は、遷延性意識障害の他にも高次脳機能障害や脊髄損傷など脳や神経に深刻なダメージを受けたことで、生命を維持するにはつねに介護が必要な状態の場合に認定されます。

自賠責保険金額は最大で4000万円、労働能力喪失率は100%になります。

 

遷延性意識障害の認定で必要な資料等について


遷延性意識障害の認定は、次の資料などに基づいて判断されます。

「高次CT画像」
「MRI画像」
「医師作成の後遺障害診断書」
「頭部外傷後の意識障害についての所見」
「脳外傷による精神症状等についての具体的な所見」

など

被害者の方のご家族は、これらの資料を用意していくことになります。

みらい総合法律事務所の慰謝料増額解決事例集


交通事故の示談交渉や裁判は、どのように行なわれるのでしょうか。

その一端を被害者の方やご家族にも知っていただくために、ここでは遷延性意識障害の後遺障害で、みらい総合法律事務所が増額解決した事例についてご紹介します。

ぜひ、ご自身の状況と照らし合わせながら参考にしていただければと思います。
 

みらい総合法律事務所の増額事例①:70歳男性の慰謝料等が約2450万円増額

70歳の男性が横断歩道を歩行中、自動車にはねられて脳挫傷などの傷害(ケガ)を負った交通事故です。

治療をしましたが、そのかいなく被害者男性には遷延性意識障害の後遺症が残ってしまい、寝たきり状態で生涯にわたる介護が必要となってしまいました。

加害者側の保険会社は、慰謝料などの損害賠償金として約4500万円を提示。

この金額に疑問を感じた被害者の親族の方が弁護士の見解を聞くため、みらい総合法律事務所の無料相談を利用したところ、「まだ増額可能」との意見を得たことで、示談交渉のすべてを依頼しました。

保険会社との交渉では折り合いがつかなかったため、弁護士が提訴。

裁判では、弁護士が将来介護費用を立証したことで、最終的には6950万円で解決することができました。

当初提示額から約2450万円増額したことになります。
 

みらい総合法律事務所の増額事例②:74歳女性が裁判で約3500万円の増額を獲得

交通事故の被害で脳挫傷などを負った74歳女性の事例です。

ケガの状態が重く、遷延性意識障害のために被害者女性には自賠責後遺障害等級1級1号が認定され、加害者側の保険会社は慰謝料などの損害賠償金として約5560万円を提示してきました。

そこで、被害者女性のご家族は弁護士に相談したほうがよいと考え、みらい総合法律事務所の無料相談を利用。

今後の示談交渉の進め方と、まだ増額可能である旨のアドバイスを得たことで、すべてを依頼することを決意されました。

弁護士が保険会社との交渉にあたりましたが、後遺障害慰謝料や逸失利益の基礎収入、将来介護費用などで合意に至らなかったため、解決の場は裁判に持ち込まれました。

裁判でも同様の項目が争点となりましたが、最終的には弁護士の主張が認められ、約3500万円増額の9000万円での解決となりました。

 

遷延性意識障害の介護に関わる損害賠償項目とは?


遷延性意識障害のために介護が必要になった場合には、慰謝料などの損害賠償金額は1億円、2億円を超えることもあります。

被害者の方とご家族が損害賠償請求することができる項目には次のものがあります。
 

①将来介護費

重度の後遺障害が残り、他人の介護を受けなければ生活できない場合に認められる費用。

将来介護費は次の計算式で算出します。

「将来介護費 = 基準となる額 × 生存可能期間に対するライプニッツ係数」

基準となる額については、職業付添人の場合は実費全額、近親者付添人の場合は1日につき8000円が目安とされています。

しかし、この金額はあくまでも目安であるため、具体的な症状や介護状況によって金額が増減する場合があることは覚えておいてください。

なお、適正な損害賠償額は最終的には弁護士による立証で決まってきます。

生存可能期間は、原則として平均余命年数にしたがいます。

ライプニッツ係数は、現時点のお金の価値と将来のお金の価値が違うことから、その差を調整するための数値です。

【参考記事】
【将来介護費】交通事故の被害者と家族が損をしないために知っておくべきこと

②将来雑費

重度後遺障害者の介護のために消費される物品の費用。

手袋や紙おむつ、タオル、防水シート、カテーテルなどが該当します。

将来雑費の算出は、次の計算式を用います。

「将来雑費 = 雑費の年額 × 生存可能期間に対するライプニッツ係数」

なお、仮に裁判になった場合、立証のためには領収書が必要になってきます。

ご家族は領収書などを確実に保存しておくことが大切です。
 

③装具・器具等購入費

後遺障害者が日常生活を送るために必要となる物品の費用。

介護支援ベッドなどが該当します。
 

④成年後見開始の審判手続き費用

被害者ご本人が正常な判断ができなくなってしまった場合は、本人に代わって裁判追行等の手続きを行なわなければいけません。

その際、法定代理人を選任する必要がありますが、成年後見人を選任するためにかかる費用も損害賠償請求することができます。

なお、審判手続きにかかる費用は、必要かつ相当な範囲で損害として認められています。
 

⑤その他の項目

上記の費用以外にも、次の項目などを損害賠償請求できます。

・治療費
・入院付添費(被害者が入院している間に付き添うことに対する費用)
・入院雑費(入院することによって発生する日用品や軽食などの費用)
・損害賠償請求関係費用(診断書、成年後見開始の審判手続き費用など)
・傷害慰謝料
・後遺障害慰謝料
・逸失利益(後遺障害がなければ得られたはずの収入など)
 

成年後見制度とは?

判断能力が低下してしまった場合、不動産や預貯金の管理、遺産相続、裁判などでは自分で判断するのが難しくなってしまいます。

そうした人を保護し、支援するのが「成年後見制度」です。

交通事故で頭部に重傷を負い、遷延性意識障害(植物状態)になってしまった場合、被害者の方は物事を判断したり、話をしたりして意思表示をすることができなくなってしまうので、民法第7条の「精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況にある者」にあたると考えられます。

「民法」
第7条(後見開始の審判)
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

この場合、被害者ご自身では加害者に対する損害賠償請求ができないため、被害者の配偶者や4親等内の親族等が家庭裁判所に後見開始の審判を申し立て、成年後見人に選任してもらうことが必要です。

成年後見人に選任された場合、成年後見人は被害者に代理して法律行為を行なうことができるので、成年後見人や、成年後見人から依頼された弁護士等が加害者に対して損害賠償請求をすることになります。

ただし、実際には被害者の方が遷延性意識障害(植物状態)になってしまっても、配偶者や親族が後見開始の審判の申立てをしないまま、本人の代わりに加害者側と交渉する場合も多くあります。

交渉によって示談が成立し、加害者が問題なく賠償金を支払ってくれれば、事実上解決となるので、後見開始の申立てを行なっていなくても問題ありません。

しかし、加害者との交渉がうまくいかず、調停や裁判を行ないたい場合には、事前に後見開始の審判を申し立てておかないと、調停や裁判を起こすことができないので注意が必要です。
 

成年後見開始の審判の手続きについて

①後見開始の審判の申立は誰ができるのか?
被害者の方の配偶者や4親等内の親族(被害者の両親、祖父母、子供、孫、兄弟姉妹、甥姪、従妹等)であれば申立てができます。

②どこに必要書類と費用を提出するのか?
被害者ご本人の住所地(住民登録をしている場所)を管轄する家庭裁判所に必要書類と費用を提出して申立を行ないます。

③審判までの期間は?
申立後、概ね1~2ヵ月くらいで審判となります。

④申立費用は?
収入印紙800円と3000円程度の郵便切手が必要です。

さらに、家庭裁判所から精神科医に医学的な鑑定を求めることが必要で、この鑑定費用が10万円から50万円程度と高額になります。

なお、成年後見の申立費用と鑑定費用は、損害賠償の請求をするために必要な費用なので、後で加害者に請求することができます。

【参考情報】
「成年後見制度」裁判所

遷延性意識障害の損害賠償請求で注意するべき3つのポイント

①裁判に発展することが多いことを知っておくべき

成年後見人が選任されたら、成年後見人が示談交渉を行なうことになりますが、遷延性意識障害(植物状態)の場合、逸失利益や将来介護費用の請求など、示談金額はかなりの高額になります。

そのような場合、加害者側の任意保険会社は適正な金額より低い金額を提示してくることが多いので、交渉による示談では解決がつかず、裁判に持ち込まれることが多く見られます。

なお、裁判になった場合は弁護士に依頼すると慰謝料などが増額して適正な金額になる可能性が高いのですが、その理由については後ほど詳しくお話します 。

②成年後見の申立はすぐに行なうべき

遷延性意識障害の患者は感染症にかかりやすいという事情から、平均余命までの生存が困難な場合があります。

もし、被害者の方が亡くなってしまったなら、死亡した後の将来介護費や将来雑費を加害者側の保険会社に請求できなくなってしまいます。

そのため、被害者のご家族は早急に成年後見申立の手続きを行なうとともに、裁判の提起を前提に速やかに証拠収集を進める必要があります。
 

③保険会社に生存可能期間を制限させてはいけない

遷延性意識障害の示談交渉で裁判にまで発展する理由のひとつに、加害者側の保険会社が被害者の方の生存可能期間を短く主張してくるという問題があります。

前述のように、確かに遷延性意識障害の患者の場合、感染症にかかって死亡してしまう、というケースもあります。

しかしながら、現代では医療の進歩により延命が可能になったことや、平均余命が短くなるといった統計データや資料等に明らかな根拠が認められていないこと、感染症にかかるかどうか不明であるのに賠償金を減額するのは不当なこと、などの理由から、裁判になった場合、現在では通常の平均余命までの生存可能期間が用いられることが一般的になっています。

ですから、加害者側の保険会社が生存可能期間を短くしようとしてきた場合は、しっかり反論材料を用意して、断固として保険会社の言い分を認めてはいけないのです。
 

遷延性意識障害(植物状態)の介護と裁判での立証について


遷延性意識障害(植物状態)の被害者の方は意識がないため、生命活動を維持するための行為については介護が必要になります。

介護の内容としては、数時間ごとの痰の吸引、床ずれ防止のための体位変換、定期的なおむつの交換、食事、入浴、更衣などがあります。

痰の吸引は、昼も夜もなく365日24時間体制で行なわなければいけません。

体位変換や入浴は、1人の介護者が行なうには困難なほど体力が必要なものです。

また、さまざまな感染症の予防にも配慮しなければいけません。

植物状態の被害者の方を自宅介護している近親者は、毎晩熟睡できないなど大変な日々を送っているのが現実です。

損害賠償で裁判になった場合は、介護の状況を立証するために、医師や介護に携わっている人の意見書や報告書なども裁判で提出します。

また、現在ではビデオ機器の性能が向上して誰でも動画を撮影することができるので、被害者の方の様子をビデオ撮影して、その動画を提出することもあります。
 

保険会社が生存可能期間を制限してきた場合の対応

植物状態の被害者の生存可能期間が損害賠償請求で大きな問題になることがあります。

通常の後遺障害の場合、平均余命にしたがって、将来介護費や将来雑費を算出しますが、植物状態などの重い後遺障害を負った被害者の方の場合は、感染症にかかりやすいなどの理由から通常よりも生存可能期間が短いとされ、保険会社が平均余命年数未満の生存可能期間を主張してくる可能性があります。

しかし、平均余命が短いとした統計資料は未だに貧弱であること、また現代医療の進歩により延命が可能になったことなどから、現在の損害賠償の実務では平均余命までの生存可能期間を用いることが一般的です。

示談交渉では、加害者側の保険会社は生存可能期間を限定した過去の判例を引用しながら将来介護費や逸失利益などの減額を迫ってくることがありますが、これに屈してはいけません。

被害者側としては、平均余命いっぱいの生存可能期間をしっかりと主張することが大切です。

このような場合、被害者側の請求金額と加害者側の保険会社が提示してくる金額には著しい差があることが一般的ですが、この金額の差は交渉を重ねても埋まることはほとんどありません。

ですから、仮にこのような状況になってしまった場合は、すぐに成年後見人を選任して、証拠資料を収集し収取し、法的手続きを取る必要があります。

ただし、こうした手続きは専門家でなければ難しいものですから、将来介護費について問題になった場合は弁護士に相談することをおすすめします。