交通事故による神経症状の後遺障害に対する慰謝料の計算方法
交通事故で後遺障害を負った場合、加害者に対して慰謝料を請求することができますが、受け取れる額は後遺障害の重さによって異なります。
神経症状の後遺障害の程度が軽いと判断されれば慰謝料は少なくなりますし、後遺障害と認められなければ慰謝料は受け取れません。
本記事では、交通事故で神経症状になるケースと、後遺障害に対する慰謝料を請求する際の計算方法について解説します。
目次
神経症状とは
神経症状は、神経系の一部または全部が侵されたことで起る症状をいいます。
神経系は身体機能を制御する役割があることから、神経症状が出た場合には痛みだけでなく機能障害などの症状が表れることもあります。
たとえば身体に強い衝撃を受けたことで脊髄が損傷した場合、神経の圧迫により手足の痺れや麻痺の症状が残ることがあり、怪我の治療が終わったとしても元通りの生活ができるようになるとは限りません。
特に自動車の交通事故は全身に強い衝撃を受けますので、神経症状の後遺障害を負う可能性があり、神経症状は骨折などと違い見た目ではわからないため、医師の診断が不可欠です。
後遺障害の有無は経過観察などをして総合的に判断することから、治療途中で病院へ行かなくなるなど、事故後の処置を適切に行っていないと後遺障害として認められない可能性があります。
後遺障害に該当する神経症状
後遺症は怪我や病気が回復しても、それらの影響が残ってしまうことをいい、「後遺症」と「後遺障害」は似ている言葉ですが意味は違います。
後遺障害とは
後遺障害は、事故等で負った怪我を治療した後も肉体的・精神的な毀損があり、かつ、事故と後遺症に因果関係が認められたものをいいます。
一方、後遺症は事故等の治療後に肉体的・精神的な毀損が残った状態をいいますので、後遺症と後遺障害を区別する際は、交通事故との因果関係の有無がポイントになります。
交通事故による怪我の後遺症を負ったとしても、交通事故との因果関係を証明できないと後遺障害とは認定されず、その部分に対しての慰謝料は請求できません。
神経症状などの後遺障害を負った際は、後遺障害として認定を受けることが重要となりますので、資料を揃えて後遺障害の申請手続きを行う必要があります。
神経症状の後遺障害等級
交通事故の後遺障害は、後遺障害を負った部位や程度によって1級から14級までの等級があり、自動車損害賠償法施行令別表第一・第二で定められています。
交通事故が原因で神経症状を負った場合、後遺障害等級の12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」または、14級9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当する可能性があります。
神経症状が後遺障害と認定されたとしても、認定された等級が12級と14級のどちらに該当するかで請求できる慰謝料の額は変わるため、認定を受けるだけでは不十分です。
交通事故で神経症状が生じる主な怪我
交通事故が原因で神経症状が出る怪我としては、むち打ち・変形性頚椎症・ストレートネックなどがあります。
むち打ち
むち打ち(頸椎捻挫)は、首周りの骨や筋肉、神経などに損傷が起る症状をいい、交通事故など首に強い力が加わることで発症します。
症状としては、首の拘縮(こうしゅく)や頭痛、めまいなどがあり、交通事故直後は痛みが無かったとしても、しばらくしてから症状が表れることもあります。
自動車同士での交通事故はむち打ちを発症するケースが多く、後遺障害として神経症状が残ることも少なくないため、むち打ちになりましたら治療だけでなく、症状の経過観察も怠らないでください。
変形性頚椎症
変形性頚椎症は、頸椎の変形により脊髄や神経を圧迫することで発症し、手足や腕などの痺れや歩行障害などが症状として表れます。
加齢によって変形性頚椎症になることが多いですが、交通事故等の外傷が原因で発症することもあります。
高齢者が交通事故後に変形性頚椎症の診断を受けた場合、変形性頚椎症を発症した原因が交通事故であることを認めさせないと、後遺障害として慰謝料の請求ができません。
したがって、変形性頚椎症を発症した際は治療だけでなく、交通事故が原因で変形性頚椎症になったことを医師に証明してもらうことが大切です。
ストレートネック
ストレートネックは頸椎の湾曲が消失し、首が真っ直ぐになる症状をいいます。
一般的には、長時間のデスクワークやスマホ操作が原因で発症することが多いことから、「スマホ首」としても認知されています。
日常生活の中でも発症しますので、症状は比較的軽いと思われがちですが、頭痛や肩こりだけでなく、痺れが生じることもあるので注意が必要です。
交通事故においては、首に強い衝撃を受けたことで背骨周辺の筋緊張となり、ストレートネックになるケースもあります。
ストレートネックはスマホ首のイメージが強いですが、交通事故でも発症しますので、症状が出た際はレントゲン検査を受けるなどして確認してください。
骨折
骨折は、外部から強い衝撃を受けることで骨が壊れる(折れる)ことをいい、骨に亀裂が入ったり、欠けた場合も骨折に該当します。
骨の周囲には神経などが多数存在しますので、骨折した箇所が動かせなくなるだけでなく、激しい痛みも伴います。
骨折自体は時間の経過で完治することが見込まれる一方、骨折した箇所や骨折の症状によっては、後遺障害として神経症状が残ることがあります。
神経症状の後遺障害等級の認定基準
後遺障害等級の12級13号と14級9号では、認定を受けるための判定基準や症状を証明するための手段が異なります。
14級9号の「局部に神経症状を残すもの」とは
神経症状として「局部に神経症状を残すもの」がある場合、14級9号の後遺障害等級の認定を受けることができます。
「局部に神経症状を残すもの」とは、身体の一部分の神経系統に障害が生じた症状をいい、手足の痺れや握力低下など、神経症状による影響は多岐に渡ります。
治療状況や症状の経過から神経症状が残っているかを総合的に審査するため、認定を受けるためには医師の診断は不可欠です。
神経症状が残る点では12級13号と14級9号は同じですが、14級9号は12級13号とは違い、他覚的所見は必須ではありません。
12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」とは
神経症状として「局部に頑固な神経症状を残すもの」がある場合、12級13号の後遺障害等級の認定を受けることができますが、認めてもらうためには医学的な証明が必要です。
医学的な証明とは、MRI検査や医師の視診などの他覚的所見により、神経症状の残存が確認できる状態をいいます。
後遺障害として痛みや痺れが残っていたとしても、自覚症状だけでは12級13号の後遺障害とは認定されません。
後遺障害が認定されたとしても、神経症状が「局部に頑固な神経症状を残すもの」ではないと判断されれば、等級の低い14級9号の認定を受ける可能性もあります。
そのため、交通事故に遭った際は病院を受診するだけでなく、通院や経過観察等で局部に頑固な神経症状が残っていることを証明しなければなりません。
神経症状の後遺障害を負った際に請求できる慰謝料の額
神経症状が後遺障害として認定されれば、等級に応じて慰謝料を請求できるようになります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、交通事故で後遺障害認定を受けた場合に請求できる慰謝料をいいます。
慰謝料は後遺障害の症状を勘案して請求することになりますが、請求する際の基準としては、自賠責保険基準・任意保険基準・弁護士基準があります。
自賠責保険基準 | 自賠責保険から支払われる慰謝料を計算するための基準 |
---|---|
任意保険基準 | 保険会社ごとに設定している基準 |
弁護士基準 (裁判基準) |
交通事故の慰謝料を計算する際に用いる基準 |
自賠責保険基準は自動車損害賠償保障法施行令に規定されており、慰謝料として受け取れる額は、各基準の中で最も低く設定されています。
任意保険基準は加害者が加入している保険会社が設定していますので、事故対応を行う保険会社によって提示する額が異なります。
弁護士基準は、過去の裁判例などを参考に慰謝料の額を算出し、慰謝料として受け取れる額は各基準の中で最も高いです。
ただし、根拠となる資料等を提示しないと、弁護士基準による慰謝料を得ることは難しいため、弁護士に依頼するなどの対策が必要です。
<神経症状に対する慰謝料相場>
後遺障害等級 | 自賠責保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
第12級 | 94万円 | 290万円 |
第14級 | 32万円 | 110万円 |
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益は、交通事故による後遺障害が残ったことで逸した利益を補償することをいいます。
基礎収入×労働能力喪失率×ライプニッツ係数=後遺障害逸失利益
基礎収入は、交通事故が発生した前年の収入を原則として計算します。
労働能力喪失率は、後遺障害等級に応じて規定されており、神経症状の労働能力喪失率は認定等級が12級の場合は14%、14級については5%です。
ライプニッツ係数は、逸失利益を預金した際に生じる利息を前もって差し引くための係数をいいます。
後遺障害が残った年齢から67歳までの労働能力喪失期間ごとに規定されているため、被害者の年齢が若いほど係数は高くなります。
神経症状の後遺障害等級認定の申請方法
神経症状に伴う後遺障害等級の申請は、次の流れに沿って手続きすることになります。
- 医師に症状固定の診断を受ける
- 医師に後遺障害診断書の作成を依頼する
- 加害者が加入する保険会社に必要書類を提出し、後遺障害等級認定申請を行う
- 損害保険料率算出機構で審査
- 審査内容に応じた後遺障害の等級認定を受ける
症状固定は、交通事故による怪我が治療を受け続けても改善する見込みがない状態をいい、症状固定の該当の有無は医師が判断します。
症状が改善する見込みがないと判断する時期についても医師が見極めることになるため、病院への通院は治療を受けるだけでなく、症状固定の有無を判断してもらうためにも必要です。
後遺障害診断書は、交通事故の治療を受けた後に残っている後遺症の内容や、程度について記載した診断書です。
医師に依頼して後遺障害診断書を作成してもらいましたら、加害者が加入している保険会社に診断書を提出し、後遺障害等級認定の申請を行います。
後遺障害等級の認定審査を行う損害保険料率算出機構は、認定の可否だけでなく症状に応じた等級も決定します。
しかし、資料不足などにより低い等級認定がされてしまう場合もあります。
低い等級認定を放置していると、後遺障害慰謝料や逸失利益が後遺障害等級によって計算されることから、本来受け取れる賠償金より低い金額しか受け取れなくなってしまいます。
そこで、そのような場合には、「異議申立」という手続があります。
異議申立により、正しい後遺障害等級認定をし直してもらうことにより、賠償金も適正な金額にすることができます。
異議申立には、専門知識が必要ですので、交通事故に精通した弁護士に依頼することをおすすめします。
後遺障害認定を受ける際の注意点
後遺障害と認定されるためには、交通事故と後遺症の因果関係があることを証明する必要があるため、医師の診察を受ける当初から自覚症状を正確に伝えなければなりません。
治療を途中で止めたり、加害者に配慮して症状が軽度であると伝えてしまうと、後遺障害等級が低くなる場合や、交通事故との因果関係が認められない可能性も出てきます。
後遺障害申請手続きでは資料として後遺障害診断書が必須ですが、診断書の内容が不十分だと後遺障害認定の結果に影響を及ぼします。
そのため、交通事故に遭った際は病院で診察・治療や通院による経過観察を行い、交通事故が原因で神経症状が残ったことを証明できるようにしてください。
交通事故の慰謝料請求は弁護士に要相談
交通事故に遭った後、痛みや手足の痺れが残ったとしても、それらの症状と交通事故の因果関係が認められないと慰謝料を請求することができません。
神経症状が後遺障害の認定を受けたとしても、認定等級が12級ではなく14級となれば、受け取れる慰謝料の額は少なくなります。
後遺障害として認めてもらうためには、症状があることはもちろんのこと、医師の診断や通院履歴などの資料を揃えることも大切です。
また、示談交渉の場では、加害者や加害者が加入している保険会社が少しでも支出を抑えるために、様々な主張をしてくることが想定されます。
一般の方が被害を受けた状況下で示談交渉に臨むのは大変ですので、納得できる補償を受けたいときは交通事故に強い弁護士に相談し、委任することも選択肢に入れてください。