追突事故でむち打ち症などの慰謝料の相場金額は?計算方法と示談の注意ポイントも解説
目次
【動画解説】頸椎捻挫・腰椎捻挫後遺障害(12級、14級)の慰謝料獲得法
交通事故にもさまざまな種類がありますが、自動車同士の事故の中でもっとも多いのが追突事故です。
追突事故では比較的、被害者の方は軽傷であったり、ケガがない場合もあります。
しかし、首や腰のむち打ち症などでは治療が長引くこともあります。
むち打ち症や骨折などでは、被害者の方は入通院をして治療を受けます。
後遺症が残った場合は、ご自身の後遺障害等級の認定を受け、その後に示談交渉に進んでいく、という流れになっています。
突然、後ろから追突されるのですから、追突事故というのは一方的なものです。
そのため被害者の方は、
「自分には何の過失もないのだから、当然、慰謝料などの示談金をすぐに受け取ることができるだろう」
と思われるかもしれませんが、じつはそう単純ではなく、注意するべきポイントがあります。
では、慰謝料などの示談金(損害賠償金)はどのように計算するのでしょうか?
軽傷でも、しっかり示談金を受け取ることはできるのでしょうか?
示談の流れを知っておくと、スムーズに交渉を進めていくことができます。
示談金の相場金額を知っておくと、加害者側の保険会社から金額の提示があった時、それが正しい金額かどうかの判断ができます。
そして、金額が低い場合は、適切な金額を示談交渉で主張していくことができます。
本記事では、追突事故にあった場合の慰謝料などの示談金や示談交渉について、被害者の方が感じる疑問と対処法について考えていきたいと思います。
これから、追突事故の示談交渉と慰謝料の注意ポイント等について解説していきますが、その前に、交通事故解決までの全プロセスを説明した無料小冊子をダウンロードしておきましょう。
追突事故とは?
ある相談者・Sさんの体験談です。
休日に家族でドライブに出かけた帰宅途中のこと。
前方の信号が赤に変わったため、ブレーキを踏んで停車したところ、突然、後ろから追突されました。
大きな衝撃を受けたSさんは、すぐには何が何やら、わけがわからなかったといいます。
少しして、「追突された」と気づいたSさんは、車内の家族の安否状況を確認。
そして、車を路肩に移動し、周囲の安全確認をして、車から降りて後ろの加害車両に近寄り、加害者に自動車から出てくるように促しました。
すると、加害者はこんなことを言ったといいます。
「警察には通報しないでもらえませんか? この場で示談にしませんか?」
そう話す加害者の目を見つめながら、Sさんは首に痛みがあることに気づきました……。
このように、信号待ちなどで被害車両が停車中または低速で前進中、後ろから衝突されるのが追突事故です。
状況によっては、何台もの車両が連なって衝突してしまう玉突き事故が発生する場合もあります。
なお、追突事故が発生した場合は、必ず警察に通報し、たとえケガはしていないと思っても必ず病院にいてください。
これらを行なわないと、あとで被害者の方が不利になってしまうリスクがあります。
追突事故では過失割合も問題になってくる
追突事故では「過失割合」が重要になってきます。
過失割合とは、その交通事故の原因となる過失が加害者と被害者それぞれで、どのくらいの割合なのかを決めるもので、慰謝料などの示談金(損害賠償金)に大きく関わってきます。
たとえば、損害賠償金の算定で1000万円の金額が出た場合で、加害者と被害者の過失割合が6:4とされると、被害者の方は600万円しか受け取ることができなくなってしまいます。
示談金を支払う加害者側の保険会社としては、少しでも被害者の方の過失割合を高く主張することで、自分たちの支払う金額を低く抑えようとしてきます。
そのため、示談交渉では過失割合が大きな争点にもなるのです。
追突事故の場合、通常は被害者の方には何の落ち度もなく、過失割合は0になるのですが、加害者側の保険会社は、被害車両も動いていたとして、被害者側の過失割合を主張してくることがあるので、注意が必要になります。
追突事故の損害賠償請求で気をつけるべきポイント
他の交通事故と比べて、追突事故に特有の損害賠償の請求方法があるわけではないのですが、被害者の方には知っておいていただきたいポイントがあります。
(1)治療費の支払いを一定期間で打ち切られていないか?
ケガの治療を受けてから3~6か月くらいになると、加害者側の保険会社からこんなことを言われる場合があります。
「もう治療費の支払いを打ち切るので、症状固定としてください」
保険会社としては、被害者の方への治療費や慰謝料などの支払いをできるだけ減らしたいと考えるため、このようなことを言ってきます。
しかし、ここで保険会社の言うことをそのまま受け入れてはいけません。
症状固定というのは医師が判断するものであって、保険会社が判断するものではないからです。
治療の効果があるなら医師は症状固定の診断はしないのですから、そのまま治療を受けてください。
仮に治療費の支払いを打ち切られた場合は、ご自身で支払い、あとで行なう示談交渉で請求することができます。
ですから、領収書などはすべて捨てずに保管しておきましょう。
(2)後遺障害等級が正しく認定されているか?
ケガが完治せず後遺症が残ってしまった場合は、慰謝料などの損害賠償金を受け取るためにも、ご自身の後遺障害等級の認定を受けることが必要です。
しかし、後遺障害等級が認めらなかったり、低い等級しか認められないという場合があります。
すると、被害者の方は損害賠償金で損をしてしまうので注意が必要です。
(3)慰謝料などを低く見積もられていないか?
追突事故では被害者の方のケガが比較的、軽傷のケースが多くあります。
そのような場合、治療費や休業損害、慰謝料といった損害賠償項目の金額を低く見積もられてしまうので、加害者側の保険会社の提示金額をチェックすることが大切です。
(4)後遺症と交通事故の因果関係で争いになっていないか?
追突事故で負ったケガと後遺症の関係について疑われるケースがあります。
つまり、被害者の方の後遺症は追突事故とは関係ない、と加害者側の保険会社が主張してくることがあるということです。
こうした場合、被害者の方はその因果関係を立証していく必要があるので、一度、交通事故に強い弁護士に相談することも検討されるといいでしょう。
では、これらのケースが起きた場合どう対処すればいいのか、これからお話ししていきたいと思います。
交通事故の発生から示談成立までの流れと手続きは?
追突事故の被害にあい、その後に示談交渉をへて、被害者の方が慰謝料などの示談金(損害賠償金)を受け取るまでには、どのような流れで進んでいくのでしょうか。
おおまかな流れを理解しておくと、各手続などをスムーズに行なうことができますし、不当に低い金額で示談を成立させてしまうことを防ぐことができます。
交通事故の対応・手続きで重要な8つのステージ
(1)追突事故が発生した時にやるべきこと
追突事故の被害にあった場合、被害者の方には、警察への通報や加害者の身元確認などすぐに行なうべきことがあります。
(2)傷害(ケガ)の症状固定
ケガの治療をしても完治しない場合、これ以上の改善が見込めない場合、医師から症状固定の診断を受けます。
症状が固定するので、被害者の方には後遺症が残ってしまいます。
(3)後遺障害等級の認定
ご自身の後遺症について、後遺障害等級の認定を受けることが必要です。
加害者側の任意保険会社は、被害者の方の後遺障害等級が確定すると、慰謝料や逸失利益などの各損害賠償項目の金額を算出して、その合計である損害賠償金(示談金)の金額を提示してきます。
ですから、あせって示談交渉を進めようとしなくても大丈夫です。
ご自身の後遺障害等級が認定されてから示談交渉が始まります。
【参考情報】国土交通省「自賠責後遺障害等級表」
なお、後遺障害等級が認定されなかったり、認定された等級に不満がある場合は「異議申立」をすることができます。
(4)損害賠償金額(示談金額)の算出
加害者側の任意保険会社が、被害者の方が被った各損害項目の金額の計算を行ない、慰謝料や逸失利益などの損害賠償金額(示談金額)を算出します。
(5)保険会社が示談金額を提示
加害者側の任意保険会社から示談金額の提示がありますが、電話などの口頭の場合は必ず書面でもらってください。
というのは、書面が残っていると示談交渉時の証拠・材料になるからです。
また、とても大切なことなのですが、その際は書面の内容と金額を必ずチェックしてください。
入通院慰謝料や後遺障害慰謝料など、さまざまな項目が記載されていると思いますが、これらの金額は本来であれば被害者の方が受け取るべき金額より低い金額であることがほとんどです。
なぜなら、保険会社は営利法人ですから、収入を増やして支出を減らすために示談金をできるだけ低く見積もり、提示してくるからです。
慰謝料の相場金額については、のちほど詳しくお話しします。
(6)示談金額について交渉を開始
被害者の方が保険会社から提示された示談金額に納得がいくなら、交渉には進まず示談成立となります。
しかし、ここで問題になるのは、ほとんどの場合で保険会社が提示してくる金額は、被害者の方が受け取るべき適切な金額の半分以下であり、ひどい時には10分の1以下という低い金額だということです。
そこで、示談交渉に入っていくわけですが、基本的に加害者側の保険会社は被害者の方の主張は認めませんし、受け入れません。
そのため、交渉が長引いてしまうのですが、この問題についても、のちほど詳しくお話しします。
(7)示談書に署名・捺印をして返送する
示談が成立すると、加害者側の任意保険会社から示談書(免責証書)が届くので、署名・捺印をして返送します。
示談書には決められた形式・書式はありませんが、どのような内容が書かれているのか知っておくことは大切ですから、次の記事を参考にしてください。
(8)慰謝料などの損害賠償金(示談金)が支払われて手続き完了
示談金が多額でなければ、通常は2週間~1か月程度で慰謝料などの損害賠償金(示談金)が支払われます。
被害者の方が指定した銀行などの口座に金額が振り込まれれば、示談の手続きは完了となります。
示談金の3つの基準を知らないと損をする
慰謝料などの損害賠償金(示談金)を計算する際、次の3つの基準が用いられます。
①自賠責基準
法律で定められた、自賠責保険による基準。
自賠責保険は、その設立の目的が被害者救済であることから、最低限の補補償内容になっています。
そのため、3つの基準の中ではもっとも金額が低くなるように設定されています。
②任意保険基準
被害者の方に重度の後遺障害が残ってしまった場合などでは、自賠責保険だけでは損害賠償金のすべてを支払えないという事態が発生します。
このような事態に備えて自動車の所有者やドライバーが加入するのが、各損害保険会社が扱っている任意保険で、その支払い基準となるのが任意保険基準です。
各社非公表としているので明確な数値はわからないのですが、自賠責基準より少し高いくらいの金額になると考えておいてください。
③弁護士(裁判)基準
裁判になった場合に認められる基準であり、弁護士は示談交渉の段階からこの基準による慰謝料などの損害賠償額を主張していきます。
過去の膨大な判例から導き出されているため法的根拠が整っている基準となります。
3つの基準の中ではもっとも高額になるので、被害者の方はこの弁護士(裁判)基準による示談金を目指すことが大切です。
被害者が請求できる損害賠償項目とは?
被害者の方は加害者側に損害賠償請求をすることができますが、加害者が任意保険に加入しているなら、相手はその保険会社になります。
請求できる損害項目にはさまざまなものがあるので見ていきましょう。
なお、次の記事ではケガの症状別の慰謝料の相場金額や損害賠償請求できる項目などについて解説していますので、ご覧いただくとよりわかりやすいと思います。
【交通事故の慰謝料】通院5か月/6か月でいくらになる?計算方法は?
(1)ケガがなかった場合に請求できる項目は?
被害者の方にケガがなかった場合には人身損害は発生していないので、治療費や入通院慰謝料などは請求できませんが、物損による項目は請求することができます。
物損事故について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
【参考記事】
交通事故で自動車など物損事故にあった場合の損害賠償
(2)1つだけではない慰謝料の種類
慰謝料には次の4つの種類があります。
①入通院慰謝料(傷害慰謝料)
交通事故でケガを負って入院・通院した被害者の方に対して支払われるものです。
②後遺障害慰謝料
被害者の方に後遺症が残った場合、被った精神的苦痛に対して償われるものです。
③死亡慰謝料
被害者の方が死亡した場合、被った精神的損害に対して支払われるものです。
④近親者慰謝料
死亡事故や重傷事故などで、被害者の方の慰謝料とは別に近親者が被った精神的損害に対して支払われるものです。
(3)入通院慰謝料の計算方法
入通院慰謝料は、自賠責基準によって1日あたりの金額が決められていて、次の計算式から求められます。
4300円(1日あたりの金額)×対象日数=入通院慰謝料
<注意ポイント>
※2020年4月1日から改正自賠法が施行されているため、2020年3月31日以前に発生した交通事故では、1日あたりの金額は4200円になる。
※治療の対象日数については、次のどちらか短いほうが採用される。
①「実際の治療期間」/②「実際に治療した日数×2」
※自賠責保険の損害賠償の上限は120万円のため、120万円を超える部分は加害者側の任意保険会社に請求していくことになる。
<ケガの状況別の入通院慰謝料の例>
ケガの状況 | 入通院慰謝料の目安 |
---|---|
むち打ちで3か月通院し、通院日数が30日で完治した場合 | 53万円 |
むち打ちで6か月通院し、通院日数が80日で完治した場合 | 89万円 |
骨折で1か月入院し、12か月通院した場合 | 136万円 |
(4)後遺障害慰謝料の計算方法
後遺症が残ってしまった場合は、後遺障害慰謝料を請求することができます。
前述したように、慰謝料の計算ではどの基準を使うかによって金額に大きな差が生まれてしまいます。
ですから、被害者の方は基準の違いを知り、もっとも高額となる弁護士(裁判)基準で計算した金額を受け取ることが大切になってきます。
外傷性頚部症候群(むち打ち症)の場合の注意ポイント
むち打ち症は、頸椎捻挫、外傷性頚部症候群、頚部挫傷など、様々な名称で診断名が書かれます。
【参考記事】
「外傷性頚部症候群」公益社団法人日本整形外科学会
追突事故の被害でもっとも多い「むち打ち症」の場合、後遺症の程度の違いによって、後遺障害等級は12級、もしくは14級が認定されます。
ただし、むち打ちの症状は外側からはわかりにくいという特徴があります。
被害者の方には首の痛みや手足のしびれ、頭痛、吐き気、耳鳴りなどさまざまな症状が現れるからです。
そのため、交通事故の損害賠償実務では、むち打ち症は扱いがとても難しいものですから、被害者の方は軽視せず、交通事故に強い弁護士に相談することも検討をするといいでしょう。
ちなみに、むち打ち症の慰謝料は、14級の場合は自賠責基準では32万円、弁護士(裁判)基準では110万円となります。
やはり弁護士(裁判)基準のほうが、自賠責基準よりかなり金額が高くなることがわかります。
損害賠償金の相場金額はいくらくらいになるのか?
では、慰謝料や逸失利益、休業損害などを合計した損害賠償額はいくらくらいになるのでしょうか?
たとえば、追突事故でむち打ち症を負った50歳の兼業主婦(女性)の方で計算してみると、約265万円という金額がはじき出されます。
後遺障害等級10級が認定された、41歳の会社員(男性)の場合では、約1740万円という金額です。
これらの計算方法については、こちらの記事で詳しく解説しているので、とにかくまずはご覧ください。
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※実際の損害賠償実務では、交通事故の状況やケガの状態によってさらに詳しく計算していくので、この自動計算機では、おおよその金額を知ることができます。
※保険会社から提示されている金額と自動計算機で出た金額を比較してみて、保険会社の提示額が低いなら、それは正しい金額ではないということがわかります。