交通事故の示談金額に納得できない場合の対処法
目次
交通事故にあい、被害者の方が傷害(ケガ)を負った場合、加害者が任意保険に加入していれば、その保険会社から示談金(損害賠償金、保険金)の提示があります。
そのタイミングは、被害者の方に後遺症が残った場合は後遺障害等級が認定された後、ということになります。
ところで、ここで大きな問題があります。
それは、交通事故の損害賠償実務でも最大級のポイントの1つである、示談金の提示がかなり低い、という問題です。
加害者側の任意保険会社は、被害者の方が本来受け取るべき正しい金額を提示してきません。
- それはなぜなのか?
- では、適切な示談金の相場はいくらになるのか?
- 保険会社との示談交渉のポイントは?
- 正当な示談金を受け取るための対処法とは?
本記事では、これらのテーマを中心、お話ししていきます。
これから、交通事故で裁判を起こす時の方法や流れ、費用などについて解説していきますが、その前に交通事故解決までの全プロセスを説明した無料小冊子をダウンロードしておきましょう。
交通事故の示談金とは? 損害賠償金、保険金と何が違う?
交通事故の被害者の方は、負ってしまった傷害(ケガ)や後遺症の程度によって示談金を受け取ることができます。
加害者が任意保険に加入していれば、その保険金が示談金額を提示してきます。
ところで、交通事故の損害賠償では、示談金の他に、損害賠償金、保険金、慰謝料などがポイントになりますが、これらは何が違うのでしょうか?
示談金、損害賠償金、保険金の違いについて
「示談金」
被害者側と加害者側(任意保険会社)の双方が示談によって賠償金額が合意されるため、示談金といいます。
「損害賠償金」
被害者側から見た場合、加害者から被った物質的、精神的両方の損害をお金で賠償してもらうものであるため、損害賠償金といいます。
「保険金」
加害者側の任意保険会社の立場からは、保険契約に基づいて被害者の方に支払うもののため、保険金といいます。
つまり、これらはすべて同じもので、状況や見る側の立場によって呼び方が変わるだけ、ということです。
(※本記事では、基本的に「示談金」を使ってお話ししていきます)
慰謝料と示談金は何が違う?
交通事故で損害を被った場合、被害者の方はさまざまな損害項目を請求することができます。
治療費、入通院費、休業損害、逸失利益、将来介護費などがありますが、その中の1つが慰謝料になります。
つまり、さまざまな損害項目を合計したものが示談金で、この中に慰謝料も含まれるということになります。
家計で考えると、家賃、光熱費、食費など1か月の支出を合計したものが、その月の支出の合計になりますが、それと仕組みは同じようなものになるわけです。
慰謝料には4つの種類がある!?
慰謝料は、1つのみと思っていませんか?
じつは、慰謝料には次の4種類があることを知っておいていただきたいと思います。
1.入通院慰謝料(傷害慰謝料)
・入通院をして傷害(ケガ)の治療をした場合に被った精神的苦痛に対する慰謝料です。
・ケガの治療を開始してから、症状固定(これ以上の回復が見込めない状態)までの期間が対象になります。
・1日でも通院していることが受け取ることができる条件になります。
こちらの「交通事故の症状固定が被害者にとって重要な理由と注意ポイント」の記事もよく読まれています。
2.後遺障害慰謝料
・治療をしたものの症状固定し、後遺障害が残った場合の精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
・被害者ご自身が認定された等級によって金額が変わってきます。
・症状固定後、後遺障害等級が認定されると、入通院慰謝料の代わりに後遺障害慰謝料が支払われるようになります。
詳しい解説は「交通事故の入通院慰謝料と後遺障害慰謝料を解説」
3.死亡慰謝料
・亡くなった被害者の方の精神的苦痛を慰謝するために支払われる慰謝料です。
・受取人は家族などの相続人になります。
こちらの記事「誰が慰謝料・損害賠償金をもらえるのかを解説」でも詳しく解説しています
4.近親者慰謝料
・被害者の方の近親者(家族など)が被った精神的苦痛に対して支払われる慰謝料です。
こちらの動画でも解説しています
(傷害、後遺障害、死亡)
大幅に増額される!
消えてなくなる「消滅時効」
慰謝料は算定基準の違いで金額が大きく違ってくる
慰謝料の計算では、次の3つの基準が使われます。
「自賠責基準」
・自賠責保険による、もっとも金額が低くなる基準で、加害者側の任意保険会社は、この基準で計算した金額を提示してくる場合もあります。
「任意保険基準」
・各任意保険会社が独自に設定している基準で各社非公表としていますが、自賠責基準より少し高い金額になるように設定されています。
「弁護士(裁判)基準」
・もっとも金額が高くなる基準で、被害者の方が受け取るべき正しい金額が算定されます。
・過去の多くの判例から導き出された基準のため法的根拠がしっかりしており、裁判で認められる可能性が高くなります。
・被害者の方から依頼を受けた弁護士が代理人となって示談交渉する際にも用いる基準です。
ここで大切なのは、被害者の方が受け取るべき正しい金額が算定されるのは弁護士(裁判)基準だということです。
被害者の方が請求できる損害賠償項目とは?
損害賠償項目は大きく次のように分けることができます。
・後遺障害が認定された場合に受け取ることができるもの
・被害者の方が死亡した場合に受け取ることができるもの
今後、示談交渉に臨む前に、示談金には、どういった項目が含まれるのか知っておくことが大切です。
詳しい内容は「【交通事故】人身事故でもらえるお金の種類(損害項目)」でも解説しています。
よくわかる動画解説はこちら
お金のまとめ
入通院して治療を受けた場合
1.治療関係費用
- 治療費
- 手術費
- 薬品代
これらの費用は、必要かつ相当な範囲での実費分として受け取ることができます。
<注意ポイント1:過剰診療など>
しかし、たとえば特別個室、過剰診療などの費用は加害者側の保険会社と争いになることが多いものです。
そのため、補償されない可能性があるので注意が必要です。
ただし、医師の指示があった場合や特別の事情(空室がないなど)があれば認められる可能性が高くなります。
<注意ポイント2:整骨院やマッサージなどを利用する場合>
整骨院や整体、鍼灸、マッサージなどに通う場合も注意が必要です。
というのは、交通事故の損害賠償は原則、西洋医学によって必要性が判断される傾向があるからです。
これらの費用を治療費に組み込みたい場合は、西洋医学の医師から証明してもらうために、指示書や診断書を作成してもらうことが必要です。
<注意ポイント3:治療費の打ち切り>
治療中に、加害者側の任意保険会社が治療費の支払い打ち切りを言ってくる場合があります。
保険会社としては、被害者の方の治療費は支出になるので、いつまでも支払い続けることはできません。
そこで、自賠責保険からの支払額を超えて、自社で治療費を負担することになる前に、被害者の方に治療費の打ち切りを言ってくるわけです。
これは、任意保険会社は、ケガに対する自賠責保険支払限度額である120万円までは、まず自社で支払っておいて、後から自賠責保険にこの120万円を請求できる、という仕組みになっているからです。
その場合、どう対応すればいいのかについては次の記事を参考にしてください。
2.入通院関係費用
看護師・介護福祉士等の場合:実費全額
近親者が介護する場合:
入院の場合は1日6500円
通院の場合は1日3300円
入院雑費
1日あたり、1500円
交通費
原則として、本人分の実費
3.慰謝料など
休業損害
ケガによって仕事を休業したことによる現実の収入減分
3ヵ月の給与額の合計額 ÷ 90日 × 休業日数 = 休業損害額
入通院慰謝料(傷害慰謝料)
入通院をして治療をした場合に被った精神的苦痛や損害に対する慰謝料
4300円(1日あたり) × 入通院日数 =
入通院慰謝料
<注意ポイント4:対象日数について>
対象日数については、次のどちらか短いほうが採用されます。
A)「実際の治療期間」
B)「実際に治療した日数×2」
たとえば、入院は0(ゼロ)、治療期間が3か月(90日)で、おおよそ5日に1回=約20日間通院した場合で考えると、
B) 4300円×(20日×2)=172,000円
となるので、入通院慰謝料はB)の172,000円が採用されるという仕組みになっています。
なお、計算基準によって金額が大きく変わってくるので、詳しくは「入通院慰謝料は1日いくら?相場金額は?」の記事を参考にしてください。
4.その他
通院交通費 | 電車、バス等、自家用車利用の実費相当額 ※看護のための近親者の交通費も認められる ※タクシー利用の場合は相当とされる場合のみ認められる |
---|---|
宿泊費 | 入院先が遠隔地にある等、付添看護を泊まり込みでする必要がある場合に認められる |
装具・器具等購入費 | ギブス、車椅子、義手や義足、眼鏡・コンタクトレンズ、等 |
損害賠償請求関係費用 | 診断書等の文書料、保険金請求手続費用、刑事記録の閲覧・謄写のための費用、等 |
通院交通費 | 電車、バス等、自家用車利用の実費相当額 ※看護のための近親者の交通費も認められる ※タクシー利用の場合は相当とされる場合のみ認められる |
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宿泊費 | 入院先が遠隔地にある等、付添看護を泊まり込みでする必要がある場合に認められる |
装具・器具等 購入費 |
ギブス、車椅子、義手や義足、眼鏡・コンタクトレンズ、等 |
損害賠償請求 関係費用 |
診断書等の文書料、保険金請求手続費用、刑事記録の閲覧・謄写のための費用、等 |
後遺障害等級認定を受けた場合
後遺症が残ってしまった場合は、ご自身の後遺障害等級認定を受ける必要があります。
もっとも重度の1級から14級までが設定されており、後遺障害慰謝料の金額はこの等級によって変わってきます。
国土交通省:「自賠責後遺障害等級表」
1.将来介護費
近親者:常時介護が必要な場合は1日8000円
(平均寿命までの期間について、中間利息を控除した金額)
よくわかる動画解説はこちら
将来介護費
2.家屋・自動車等の改造費
自動車/家の出入り口・風呂場・トイレ等の改造費/介護用ベッド等の購入費などの実費額
3.後遺障害慰謝料
等級の違い、算出に用いる基準の違いによって次のように金額が変わってきます。
<自賠責基準・弁護士(裁判)基準による後遺障害慰謝料の金額表>
4.後遺障害逸失利益
後遺障害が残ってしまったために以前のようには働くことができなくなり、そのために失った(得られなくなった)利益(収入)です。
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
= 後遺障害逸失利益
こちらの記事「【後遺障害の逸失利益】職業別の計算と早見表」でも詳しく解説しています。
よくわかる動画解説はこちら
逸失利益の算定方法とは?
被害者の方が死亡した場合
1.葬儀関係費
自賠責保険:60万円
(100万円以内まで認められる可能性あり)
弁護士基準:150万円以内
なお、墓石建立費や仏壇購入費、永代供養料は、それぞれの事案によって判断されます。
2.死亡慰謝料
被害者の方の家庭での立場や状況、算定基準の違いによって、次のように相場金額が決まっています。
<死亡慰謝料の相場金額:弁護士(裁判)基準の場合>
被害者が一家の支柱の場合 | 2800万円 |
---|---|
被害者が母親・配偶者の場合 | 2500万円 |
被害者がその他(独身者・幼児・高齢者など)の場合 | 2000万~2500万円 |
- 被害者が一家の支柱の場合
- 2800万円
- 被害者が母親・配偶者の場合
- 2500万円
- 被害者がその他(独身者・幼児・高齢者など)の場合
- 2000万~2500万円
この金額は、あくまでも目安であって事故の状況などによって増額する可能性があります。
詳しい解説はこちら
死亡事故の慰謝料増額法とは?示談交渉から被害者参加までの全知識
3.近親者慰謝料
4.死亡逸失利益
(年収)×(就労可能年数に対するライプニッツ係数)×(1-生活費控除率)=(死亡逸失利益)
5,弁護士費用
最終的に裁判になり、判決までいった場合、認められた損害賠償額の10%程度が相当因果関係のある損害として損害賠償額に加算されます。
なぜ保険会社は低い示談金を提示してくるのか?
加害者が任意保険に加入している場合、一般的にはその保険会社から示談金の提示があります。
しかしここでは、本来であれば被害者の方が受け取るはずの金額よりも、かなり低い金額が提示されることが多いです。
保険会社は営利会社ですから、利益を出すために活動しています。
そうすると、できるだけ収入を増やして、支出を抑えようという動きが起きてきます。
そのため、被害者側と加害者側の主張が食い違い、求めることも正反対なことから、示談交渉がなかなか進まず、長引いてしまうことがよくあります。
被害者の方がいくら、「この示談金額は適切ではないから不服だ」「示談金額が低すぎるから上げてほしい」と主張しても、保険会社はまず応じることはありません。
それは、なぜなのか…動画と記事で解説しました。
ぜひ、ご覧になって、その理由を確かめてみてください。
よくわかる動画解説はこちら
増額しない理由は?
示談金の正しい相場金額とは?(慰謝料自動計算機)
では、正しい示談金の相場金額は、一体いくらくらいになるのでしょうか?
じつは、
・交通事故の態様
・被害者の方のケガの程度や入通院期間
・後遺症の有無
・後遺障害等級で何級が認定されたか
・被害者の方の職業
・被害者の方の会社や家庭での立場
・加害者の悪質性
・慰謝料などの計算基準
などなど、示談金額を算出するには、さまざまな要素があり、その交通事故の全体の状況によって示談金額は変わってきます。
ですから、明確に、わかりやすく、「相場はこの金額です」とは言えないのです。
でも、がっかりしないでください!
みらい総合法律事務所では、WEB上にどなたでも使える「慰謝料自動計算機」を設置しています。
指示に従って数字などを入力すると、慰謝料などの損害賠償金額の概算金額がすぐにわかるようになっているので、ぜひご活用ください。
交通事故の示談金額に納得いかない場合の対処法
加害者側の任意保険会社から提示された示談金額に納得できない場合、どうすればいいのでしょうか?
じつは、示談金額を可能な限り増額させる方法があります。
損害賠償項目の内訳と金額の確認する
被害者の方に後遺障害等級が認定されると、加害者側の任意保険会社から、損害賠償項目と金額が書かれた書類が届きます。
まず、内容をよく見てください。
❏損害項目に漏れはないか?
❏適切な金額の基準は正確にはわからないが、あきらかに低すぎると違和感を覚えないか?
記載されている損害項目と金額を必ず確認してください。
よくわかる動画解説はこちら
後遺障害等級が正しく認定されているか確認する
実際、正しい後遺障害等級が認定されていない場合もあります。
というのは、最終的な等級認定は損害保険料率算出機構(損保料率機構)という機関が行なうのですが、出された申請書や書類などからのみ等級認定を行なうからです。
ということは、提出書類に不足や不備があると、その通りに審査されてしまうということです。
弁護士が被害者の方やご家族から依頼を受けた場合は、まず後遺障害等級が正しいかどうかの調査から始めます。
等級が違うと慰謝料などの金額が大きく違ってくるからです。
なお、等級に納得がいかない場合は、「異議申立」をすることができます。
詳しい解説はこちら→「【交通事故の後遺症】等級認定と慰謝料・弁護士相談の必要性」
よくわかる動画解説はこちら
ポイント
弁護士基準で慰謝料などを計算して主張していく
前述したように、慰謝料などの計算では3つの基準が使われます。
その中では、弁護士(裁判)基準がもっとも高額になるので、この基準で算定した金額を主張していくことが大切です。
示談交渉は交通事故に強い弁護士に依頼する
なんとか、ご自身で加害者側の任意保険会社と示談交渉を行なおうとする被害者の方がいらっしゃいます。
しかし、ここまでお話ししたように、交通事故の示談交渉では、交通事故と後遺障害の法的知識だけでなく、医学的な知識も必要です。
また、加害者側の保険会社は被害者の方がいくら主張しても、示談金の増額にはなかなか応じることはありません。
ですから、やはり、まずは、
・交通事故に強い弁護士に無料相談してみる。
・そして、説明に納得がいけば正式に示談交渉を依頼する
という流れで、示談交渉は交通事故に強い弁護士に任せてしまうことが、結果的にすべてが上手くいく選択だともいえます。
詳しい内容はは「交通事故示談の流れと弁護士に相談・依頼するメリット・デメリット」でも解説しています。
よくわかる動画解説はこちら
7つの理由
最終的には提訴して裁判での決着も検討する
「裁判までするのは嫌だ」という方がいらっしゃいます。
しかし、知っておいていただきたいのは、裁判をすると得な場合もある、ということです。
つまり、最終的な示談金が増額するのです。
裁判を起こして判決までいった場合、被害者の方には「弁護士費用相当額」と「遅延損害金」が追加で支払われます。
ですから、示談金を増額させたい場合は、裁判も検討することをおすすめします。
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