交通事故の過失割合は誰が決める?9対1に納得できないときの覆し方を弁護士が解説

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「被害者なのに、保険会社から『あなたにも1割の過失があります』と言われた」
「9対1という数字にどうしても納得できない」
交通事故のあと、こうした悩みを抱える方は少なくありません。
交通事故の被害に遭った場合、死亡事故の場合は49日が終わってから、怪我の場合は治療が終了してから、示談交渉が始まります。いよいよ慰謝料などの損害賠償金額を決める手続が始まることになります。
そこで問題となってくることに「過失割合」というものがあります。
過失と聞くと、加害者に関係することと思う人もいるかもしれませんが、じつは被害者自身にも関わってきます。
被害者の過失、と聞くと違和感があるかもしれませんが、これは、被害者に責任がある、というわけではなく、被害者に生じた損害のどれだけが加害者に負担させるべき責任で、どれだけの損害を被害者が負担すべきか、という問題です。
この記事では、この過失割合について詳しく説明していきます。
交通事故の過失割合は誰が決める?
警察ではない
結論からいうと、過失割合を決めるのは警察ではなく、事故の当事者同士や裁判所です。
実際には、まずは加害者側の保険会社が「過失割合は9対1です」などと提示し、被害者がそれに合意するかどうかを判断する流れが一般的です。
「警察が現場で決めてくれるのでは?」と考える方が多いのですが、警察は民事上の責任である過失割合の判断には関与しません。これは「民事不介入」という原則によるものです。
ただし、警察が作成する実況見分調書などの記録は、事故状況を証明する重要な証拠になります。後述するとおり、過失割合を争う場面では大きな役割を果たします。
なぜ被害者にも「過失」が
認められてしまうのか?
交通事故の損害賠償の交渉では、加害者側の任意保険会社から「過失相殺(かしつそうさい)」というものを主張されることがあります。
加害者の故意または過失によって交通事故が起きるのですから、当然、加害者側に過失があることは明らかです。
加害車両による追突事故や信号無視、センターラインオーバーによる事故などは、もちろん被害者の過失はゼロとなります。
しかし、被害者も車で道路を走っているような場合には、多くの場合に、被害者にも過失が認定されてしまいます。
仮に、あなたが車やオートバイで優先道路を走っていて信号のない交差点に差しかかったところ、脇道から飛び出してきた車に衝突されたという場合でも、過失割合が発生してしまうのです。
このように、交通事故の被害者側にも、交通事故発生の原因となる何らかの事情(過失や不注意など)があった場合に、加害者に賠償させる金額からその事情の割合の分だけ差し引くことを「過失相殺」といい、その割合を過失割合といいます。
過失相殺は「損害を公平に
分担する」ための法律の仕組み
「過失」といわれると、後遺障害などでつらい思いをしている被害者も悪いと言われているように感じる人もいると思いますが、必ずしもそういう意味ではありません。
法律的には、加害者の不法行為に基づく被害者の損害賠償請求権というものは、そもそも損害の公平な分担という理念から認められた権利であるため、被害者にも一定の事情がある場合には、その割合を損害賠償金額から差し引くことが公平である、という考え方によるものだからです。
感情的には受け入れがたいかもしれませんが、法的な観点からはこのような解釈になります。
たった1割の差で数百万円!?
過失割合が金額に与える影響
さて、過失割合は全体を100として、「90対10」とか「75対25」というように表現します。
これは、被害者にも10%なり25%の過失が認められたということで、損害賠償金額からその割合の分が減額されることになるのです。
たとえば、全体の損害額が2,000万円、過失割合が80対20であれば、被害者の過失分400万円が差し引かれて、1,600万円しか被害者は請求ができなくなってしまうのです。被害者にとって、これは大きなことです。
もう少し身近な「9対1」のケースでも試算してみます。
被害者の損害額が2,000万円、加害者側の車の修理費が100万円だったとします。
過失割合10対0なら2,000万円を全額受け取れますが、9対1になると受け取れるのは1,800万円に減り、さらに相手の損害の1割(10万円)を負担する立場になります。
この例では、わずか1割の違いで実質210万円の差が生じる計算です。提示された過失割合をそのまま受け入れる前に、根拠を確認する価値は十分にあります。
ですから、被害者としては相手の保険会社が過失割合を主張してきた時には、できるだけその割合を低くするための証拠集めや主張が大切になってくるのです。
過失割合はどのように決まるのか?
過失割合については、裁判所や弁護士、保険会社もすべて同一の基準を用いて算定しています。
この基準は、東京地裁にある、交通事故を専門に扱う「民事27部」という部署が中心となって作成していることから、全国の基準となっています。
しかし、事故の状況によって過失割合がいつでも一律に決まるわけではありません。
というのは、この認定基準では多数の事故の状態について、まず基本の過失割合を明確にし、その後に修正要素によって加害者側に5~20%程度過失を加算したり、被害者側にも5〜20%程度過失を加算したりという調整を図っているからです。
そして最終的に、事故の具体的事情によって適正な過失割合に落ち着くように作成されています。
つまり、実際の交渉では
②著しい速度違反、夜間、子どもや高齢者が相手といった個別事情(修正要素)で加算・減算する
という2段階で決まっていきます。
少し専門的な話なので、わかりにくいかもしれませんが、次に具体的にどのような場合に過失が加算されるのかを、加害者側と被害者側でそれぞれ見てみましょう。
加害者側に過失が加算される
場合
以下のようなケースでは、「加害者側の注意義務違反が重い」と判断され、加害者の過失割合が通常よりも増分(加算)される傾向にあります。
- 住宅地・商店街における事故
- 被害者(歩行者)が児童・老人
- 歩行者が集団
- 速度違反・飲酒・合図なしなどの
道路交通法違反がある - 著しい過失・重過失がある
被害者側に過失が加算される
場合
以下のようなケースに該当する場合、被害者側の過失割合が通常より引き上げ(加算)される可能性があるため注意が必要です。
- 夜間
- 幹線道路(歩行者の場合)
- 横断禁止場所の横断
- 速度違反などの道路交通法違反がある
- 著しい過失・重過失がある
過失割合の決定には実況見分調書
が重要
過失割合において、交通事故での状況判断では、事故現場の写真や被害者自身が作成した図なども使用されますが、もっとも重視されるのは警察が作成した「実況見分調書」です。
警察は、交通事故の現場で実況見分という現場検証を行い、事故当時の様子や被害状況などを調べます。さらには、加害者と被害者の双方から話を聞いて事故についての記録を書類に書いていきますが、この書類のことを実況見分調書といいます。
実況見分調書は被害者が取り寄せることもできますし、弁護士が取り寄せることもできます。また、裁判所から文書送付嘱託によって取り寄せることもできます。
訴訟を起こしてから実況見分調書取り寄せるのでは、それだけ時間が無駄になってしまうので、示談交渉で過失割合が争点になりそうな場合は訴訟提起前に取り寄せておいてください。
最近では、被害者自身が警察などに問い合わせて所在を確認し、自分で取り寄せてから弁護士のところに持っていき、相談するケースもあります。
実況見分調書は、警察が作成したということもあり、示談交渉でも裁判でも大きな影響力を持ちます。
また、一度作成された内容を変更するのは非常に難しいので、事故後の実況見分では嘘や勘違いで証言しないように十分慎重に対応することが大切です。
なお、物損事故として届け出ていると実況見分調書は作成されません。ケガがあるのに物損扱いになっている場合は、人身事故への切り替えを検討しましょう。
みらい総合法律事務所の
解決事例
ここで、実際に実況見分調書が重要となったみらい総合法律事務所の解決事例をご紹介します。
保険会社は、被害者の過失が15%あると主張しましたが、遺族はその過失割合が妥当かどうか判断できませんでした。そこで、納得のいかない遺族が当法律事務所に法律相談しました。
当事務所で実況見分調書などを検討したところ、被害者の過失割合はもっと低いはずだと判断。
そこで、加害者側の任意保険会社と交渉しましたが、保険会社は強硬な態度で被害者の過失を譲らなかったため、裁判をすることになりました。
我々は、事故状況で加害者の過失が大きいことを主張し、被害者の過失を5%に抑えることに成功。最終的に賠償金として、3,500万円を獲得しました。
過失相殺では、賠償額の全体から被害者の過失分を差し引くので、賠償金が3,500万円だとすると、過失が10%違うだけで約350万円も賠償金が異なってきます。
そのために、被害者側と加害者側で激しく争われた事案だったのです。
みらい総合法律事務所の解決実績はこちら
「9対1」に納得できないときの
覆し方5ステップ
保険会社の提示はあくまで「案」であり、合意しない限り確定しません。納得できない過失割合を覆すためのステップは、次の5つです。
1つずつ詳しく解説します。
保険会社に過失割合の根拠の
説明を求める
まず、「どの事故類型の基準を使ったのか」「どの修正要素を考慮したのか」を保険会社に確認します。根拠が曖昧なまま提示されているケースや、被害者に不利な修正要素だけが反映されているケースもあるためです。
ドライブレコーダーなどの
客観的証拠を集める
過失割合の争いは、最終的には事故状況の証明力で決まります。自分や相手のドライブレコーダー映像、周辺の防犯カメラ映像、目撃者の証言、事故直後の現場や車両の写真などを、できるだけ早く確保しましょう。時間が経つと映像が上書きされてしまうことがあります。
実況見分調書・交通事故証明書を取り寄せる
前の章で解説したとおり、人身事故の場合、警察が作成した実況見分調書を取り寄せることで、事故状況を客観的に示せます。また、事故の発生自体を証明する交通事故証明書は、自動車安全運転センターに申請して取得できます。
修正要素を具体的に主張して
交渉する
集めた証拠をもとに、「相手に著しい前方不注視があった」「一時停止を怠っていた」など、相手側に不利な修正要素を具体的に主張します。感情論ではなく、基準と証拠に基づいた主張が、割合を動かす近道です。
弁護士への相談やADR・調停・
訴訟を検討する
交渉が平行線になった場合は、第三者を入れた解決を検討します。交通事故紛争を扱うADR(裁判外紛争解決手続)、簡易裁判所の民事調停、訴訟という選択肢があります。
弁護士に依頼すると、証拠の評価や修正要素の主張を法的な観点から組み立て直せるため、過失割合の交渉で有利に働くことが多くあります。過失割合だけでなく、慰謝料が弁護士基準(裁判基準)で計算し直されることで、賠償金全体が増額されるケースも少なくありません。
過失割合の交渉で被害者が
やってはいけない3つのこと
過失割合を争ううえで、被害者側の対応が原因で不利になってしまうことがあります。避けたいのは次の3つです。
1つずつ詳しく解説します。
事故直後にその場で
安易に非を認める
事故直後は気が動転しており、正確な状況判断ができません。その場で「自分にも非があった」と発言すると、後の交渉で不利な事情として扱われるおそれがあります。事実の確認は、証拠がそろってから冷静に行いましょう。
根拠を確認しないまま
示談書にサインする
示談が成立すると、原則としてあとから過失割合を覆すことはできません。「早く終わらせたい」という気持ちからサインしてしまう前に、過失割合の根拠と金額の計算内容を必ず確認してください。
証拠を確保せずに時間を置く
ドライブレコーダーや防犯カメラの映像は、一定期間で消えてしまうことが多くあります。目撃者の記憶も薄れていきます。過失割合に少しでも疑問があるなら、証拠の確保だけは早めに動くことが大切です。
交通事故後の治療で被害者の
過失割合が大きくなる場合もある
ところで、過失割合では交通事故における過失以外のことが問題になるケースもあります。それは、事故後の治療過程で被害者に過失があり、損害が拡大してしまった場合です。
交通事故で傷害を負った場合、被害者自身は損害を拡大させてはならない「注意義務」を負担します。しかし、中には仕事が忙しいなどの理由で治療や通院に間を空けたり、適切な治療を受けない被害者もいます。これは問題です。
なぜなら、医師から指示された治療方針に従わなかったことが原因でケガによる傷害が悪化して損害が拡大したような場合には、その拡大した損害部分については被害者自身の負担になってしまうからです。
また、事故にあった直後は問題がなかったのに、後から体のどこかが痛んできたり体調が悪くなったりするケースがあります。
この場合、その症状が本当に交通事故によるものなのか、それとも他の要因が関係しているのか医学的に証明できなくなってしまい、結局、示談交渉で被害者の主張が受け入れられないといったケースもあります。これは被害者にとっては大きな損失になってしまいます。
ですから、ケガの治療は医師の指示に従うこと、一定期間は治療をしっかり受けること、通院中に何らかの体調の変化があった時には些細なことでも医師に相談して判断をあおぐこと、これらのことは必ず守ってほしいと思います。
「被害者側の過失」が認められる
条件と判例
交通事故の過失相殺をするためには、被害者が事理を弁識する知能を有していることが必要です。
これはどういうことかというと、「事故で被害者の落ち度(過失)を問うためには、その人に『なにが危険か』を正しく判断できる頭の働き(知能)が必要」ということです。
しかし、損害の公平な分担という理念から、被害者と一定の関係がある者に過失があった場合には、「被害者側の過失」として過失相殺ができることとされています。
この点について、最高裁昭和42年6月27日判決(出典:判例時報490号47頁)は、
としています。
過去の事例では、夫の運転する自動車に同乗中の妻が、その自動車と第三者の自動車との交通事故でケガを負った事案において、運転者である夫に過失がある場合には、その夫婦の婚姻関係がすでに破綻に瀕しているなどの特段の事情のない限り、第三者が妻に対して負担する損害賠償を定めるについて、夫の過失を被害者側の過失として斟酌するとしたものがあります(最高裁平成19年4月24日判決、出典:判例タイムズ1240号118頁)。
しかし、約3年前から恋愛関係にあり、将来結婚する予定であった被害者の女性については、被害者側に含まれない、とした判例もあります(最高裁平成9年9月9日判決、出典:判例時報1618号63頁)。
過失割合の交渉をする
タイミングはいつがいいのか?
交通事故の被害者から相談を受けていると、事故直後から慰謝料や過失割合について加害者側の任意保険会社と激しく争って、疲れ果ててしまっている方がいます。
では、過失割合の交渉をするタイミングは、いつがいいのでしょうか?
これは、死亡事故では49日が終わってから、怪我の場合は病院でのケガの治療が完全に終了してから、が正しい答えになります。
なぜなら、治療中に過失割合や慰謝料について保険会社と交渉しても、後でひっくり返されることがあるからです。
治療が完了しなければ慰謝料が計算できないし、後遺障害等級も決まりません。また、過失割合も治療完了後の示談交渉の中で変わっていくこともよくあります。
ですから、ケガの治療中は治療に専念しつつ、治療費、付き添い看護費、交通費、その他の実費と休業損害をもらうことについての交渉に集中しましょう。
そして、治療が完了し、後遺障害等級が確定してから、最終的な損害賠償金と過失割合についての交渉を始めるのがいいと思います。
ここまで、交通事故被害にあった時の過失割合について説明してきました。
自賠責保険の場合には、70%未満の過失については全額が被害者に支払われます。これは、自賠責保険の制度が被害者の救済を目的に作られた制度だからです。
しかし、任意保険では、被害者側に過失があれば加害者の保険会社側は過失割合を主張してきます。
その場合、被害者の方はご自身の過失割合を少しでも下げるための交渉をしていかなければいけないのですが、相手は交通事故と保険のプロですから、とても手強い相手です。
相手の主張に納得がいかない場合や不安を感じた場合は、決してそのまま示談に応じず、まずは交通事故の対応に詳しい弁護士へご相談ください。
事故パターン別の基本過失割合を図解で確認したい方は、こちらの記事を参考にしてください。
自賠責保険の重過失減額
自賠責保険においては、示談交渉で行われるような過失相殺は行われません。
自賠責保険は、交通事故の被害者保護を目的としています。
本来であれば、被害者の過失に合わせて過失相殺をし、賠償額を減額すべき、とするのが不法行為法の理念である公平の原則となります。
しかし、自賠責保険では、被害者保護を優先させ、多少の過失の場合には、過失減額を行わないこととされています。
一定以上の過失があった場合のみ、減額するという扱いです。
では、どの程度の過失がある場合に減額されるのか、というと、傷害部分と後遺障害部分により、以下のように定められています。
| 傷害部分 | 7割以上10割未満 2割減額 |
|---|---|
| 後遺障害部分 | 7割以上8割未満 2割減額 8割以上9割未満 3割減額 9割以上10割未満 5割減額 |
このように、自賠責保険では、被害者の保護が図られていますので、被害者の過失がある程度あるときは、示談交渉の前に自賠責保険に被害者請求をしておくことも検討すると良いでしょう。
自賠責保険への被害者請求について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
よくある質問
Q. 過失割合はいつ、どの
タイミングで決まりますか?
A. 法律で決まった時期はありません。実務では、損害額が確定する治療終了(または症状固定)後の示談交渉の中で、賠償金の計算とあわせて最終的に合意するのが一般的です。合意するまでは確定しません。
Q. 交通事故証明書に
過失割合は書いてありますか?
A. 書いてありません。交通事故証明書は事故の発生日時・場所・当事者などを証明する書類で、責任の割合には触れていません。過失割合は当事者間の交渉で決めるものです。
Q. 物損部分と人身部分で
過失割合は変わりますか?
A. 基本的には同じ事故状況から判断するため、同じ割合になるのが原則です。ただし交渉は別々に進むことがあり、物損で先に合意した割合が人身の交渉に影響することがあるため、安易な合意は避けましょう。
まとめ
交通事故の過失割合は、警察ではなく当事者間の合意や裁判で決まります。保険会社の提示は過去の裁判例に基づく「案」にすぎず、証拠と修正要素の主張によって覆せる可能性があります。
過失割合が1割違うだけで、賠償金は数十万円から数百万円単位で変わることがあります。9対1などの提示に少しでも疑問があるなら、示談書にサインする前に、根拠の確認と証拠の確保、そして専門家への相談を検討してください。
みらい総合法律事務所は人身事故による怪我・後遺症と死亡事故について、無料相談を行なっています。ぜひご利用ください。
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【動画解説】交通事故の示談金が減額される「過失相殺」とは?
代表社員 弁護士 谷原誠




















