飲酒運転の死亡事故で被害者の慰謝料を増額させる方法
この記事では、飲酒運転による交通死亡事故の場合の正しい慰謝料額の計算の仕方、
増額を勝ち取るため方法や注意ポイントなどについて解説していきます。
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飲酒運転による交通死亡事故の慰謝料など損害賠償のポイント
交通事故によって親しい方を亡くされたご家族の方には、心よりお悔やみ申し上げます。
交通事故は予期せず突然起こり、当事者とご家族の日常を変えてしまうものです。
死亡事故では、失われた命は帰ってはきません。
突然、命を奪われた被害者の方の無念、大切な人を亡くされたご家族の悲しみは計り知れません。
特に飲酒運転による死亡事故では、加害者に対するご家族の怒りは激烈なものであるでしょう。
悲しみや怒りのあまり何も手につかなくなってしまう、というのも当然だと思います。
しかし、交通事故が起きてしまった以上、加害者との間には損害賠償の問題が発生します。
ご家族は、それを解決していかなければなりません。
適正な損害賠償額を得ることは、被害者の方の当然の権利です。
亡くなってしまった被害者の方も、代わりにご家族が適正な損害賠償額を得ることを望んでいることと思います。
ところが、実際には適正な損害賠償金額を得るということは、そう簡単なことではないのです。
通常、示談の話は加害者が加入している保険会社と行なうことになるのですが、私たち弁護士の経験上、その保険会社が提示してくる損害賠償金額は適正な金額ではなく、本来ご家族が受け取るはずの損害賠償金よりも少ない金額であることが多いからです。
この問題については、後で詳しくご説明します。
適正な損害賠償金額は一体いくら?
それぞれの事故ごとに損害賠償金額は違うので、正確な金額を出すのは、やはり交通事故に詳しい弁護士、損害賠償や示談に強い弁護士に相談することが一番の選択です。
ただ、ご家族が基礎的な知識を知っておくことで、ある程度の判断をご自分でもできるようになると思いますので、ここでは飲酒運転による死亡事故の場合の損害賠償の基礎的な事項についてご説明します。
示談とは?
示談とは、交通事故によって被害者が被った損害がいくらになるのか、支払いはどのようにするのかなどについて当事者の話し合いによって、お互いに譲歩しながら決定し、解決することをいいます。
法律的にいうと、民法上の「和解」(民法第695条)に該当します。
交通死亡事故の場合、まずは被害者の方の通夜や葬儀が行なわれ、その後、四十九日が過ぎたあたりで加害者側からご遺族に連絡がきて、示談の話を進めていくことが多いです。
通常は加害者本人と直接交渉することはなく、加害者が加入している保険会社の担当者が窓口となって交渉を行ないます。
具体的には、保険会社の担当者が、保険会社側で算定をした損害賠償額の見積書等を提示して、ご遺族はその提示された金額を検討し、納得ができたら示談書(「免責証書」という書面の場合もあります)に署名捺印し、示談金が支払われて終了となります。
保険会社が提示した金額に納得できず、その後の話し合いでもお互いが合意できなかった場合には裁判を起こすことになります。
裁判に入った場合は、判決が出ることで解決するケースと、裁判の途中で裁判上の和解をして解決するケースがあります。
示談での注意点
一番やってはいけないのは、保険会社からの提示金額をあまり検討もせずに安易に示談してしまうことです。
署名押印して示談が成立した場合、交通事故の損害賠償の問題が最終的に解決したということになるので、示談した後にその示談金額よりも多額の損害賠償金を請求することができたとわかったとしても手遅れとなってしまいます。
そして、冒頭でもお話ししましたが、保険会社が適正な損害賠償金額を提示してくることは多くありません。
なぜなら、保険会社は利益を追求する会社という組織なので、なるべく支払う保険金額を少なくしたほうが会社の利益になるため、適正な損害賠償金額よりも少ない金額で示談したいと考えているからです。
ですから、保険会社からの提示金額をよく検討する必要があります。
また、飲酒運転による死亡事故の場合は、加害者は刑法上の過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪の他、道路交通法上の酒酔い運転などの罪で逮捕、起訴され、刑事罰を受ける可能性があります。
単なる注意義務違反による死亡事故よりも重い刑罰が科されるのです。
しかし、裁判所がその量刑を判断するときに、先に示談が成立していると被害者に対する賠償がある程度済んでいると考慮されて、加害者の量刑が軽くなるということもあります。
ご家族としては、加害者には刑事罰によってきちんと罪を償ってほしいと思うのが当然だと思います。
そうであれば、加害者の刑事裁判が終わってから示談交渉に入るという選択をすることも考えるべきでしょう。
弁護士は、その場合の防波堤にもなります。
死亡事故では、刑事事件と民事事件など複数の手続の関係なども見ながら、処理を進めていく必要があります。
交通事故の損害賠償請求権には時効がある
示談は慎重に行なうべきなので急いで成立させる必要はありません。
しかし、時効にだけは注意しなければなりません。
もし時効期間を経過してしまうと、加害者に対する損害賠償請求権が消滅し、一切請求できなくなってしまうからです。
加害者に対する損害賠償請求の時効は、「損害及び加害者を知った時」(民法第724条)から物損については3年、人身損害部分については5年です。
なお、後遺障害が残った場合には、人身損害部分について症状固定日から5年です。
あるいは、損害及び加害者がわからなかったとしても、事故日から20年を経過すれば時効により消滅します。
死亡事故の損害賠償請求ができるのは誰か
死亡事故の場合、当事者である被害者の方は死亡しているので、加害者へ損害賠償請求ができるのは被害者の方の相続人となります。
誰が相続人になるかについては、民法で定められています。
相続人について
配偶者(夫または妻)は、つねに相続人となります。
配偶者以外の者の優先順位は次のようになっています。
・第一順位 子供
被害者に子供がいる場合、子供が相続人となります。
配偶者はつねに相続人となるので、この場合は配偶者と子供が相続人となります。
被害者に両親や兄弟姉妹がいたとしても、両親や兄弟姉妹は相続人にはなりません。
子供が先に亡くなっているが孫がいるという場合は、孫が代襲相続をし、この場合は配偶者と孫が相続人となります。
・第二順位 父母
被害者に子供がいない場合は、被害者の両親が相続人となります。
配偶者がいる場合は、配偶者はつねに相続人になるので、配偶者と被害者の両親が相続人となります。
・第三順位 兄弟姉妹
被害者に子供や両親がいない場合は、被害者の兄弟姉妹が相続人となります。
配偶者がいる場合、配偶者はつねに相続人となるため、配偶者と被害者の兄弟姉妹が相続人になります。
相続分について
相続人がいくら請求できるのかについては、被害者の方が生前に遺言を残していて、それが法律的に有効な遺言であればその遺言通りになります。
特に遺言がない場合は、民法で定められている法定相続分に従います。
◆法定相続分は、配偶者と子供が相続人の場合、相続分は2分の1ずつです。
子供が複数いる場合は、子供の相続分である全体の2分の1を、さらに子供の人数で均等に割った分が子供1人あたりの相続分となります。
このように、同順位の相続人の相続分は均等であり、両親や兄弟姉妹が複数いる場合でも同様に考えます。
◆配偶者と両親が相続人の場合は、相続分は配偶者が3分の2、両親が3分の1です。
◆配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、相続分は配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。
死亡事故の損害賠償金の項目について
交通事故の問題では、「慰謝料を請求する」という言い方をすることもありますが、正確には損害賠償金というのは慰謝料のことだけをいうのではなく、さまざまな損害賠償の項目の合計金額のことをいいます。
交通死亡事故の場合に請求できる損害賠償金の項目には、主に次のものがあります。
①葬儀費用
②死亡逸失利益
③死亡慰謝料
④弁護士費用(裁判を起こした場合)
葬儀費用
葬儀費用は、自賠責保険の場合は定額となっていて、金額は60万円です。
任意保険会社は、自賠責保険では足りない部分を補うものですが、葬儀費用については、大体120万円以内の金額で提示してくることが多いです。
裁判を起こした場合に認められる金額は原則として150万円ですが、150万円を下回る場合は実際に支出した額が認められます。
被害者の方の社会的地位が高いなどで、実際に支出した額が相場よりも高額であるような場合は、その必要性が認められれば相場より高額な金額が認められる可能性もあります。
死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、被害者の方が生きていれば労働などによって得られたはずのお金のことです。
死亡逸失利益は、以下の計算式で算定されます。
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
◆基礎収入は、被害者の方が働いていた場合は、原則として事故前年の実際の年収を基礎とします。
幼児や学生であった場合は、賃金センサスの男女別全年齢平均賃金を基礎とします。
主婦であった場合は、賃金センサスの女性労働者の全年齢平均賃金を基礎とします。
◆生活費控除とは、生きていればかかったはずの生活費の分を差し引くことをいいます。
生活費控除率は以下のように大体の目安が決まっています。
<生活費控除率の目安>
被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合 | 40% |
---|---|
被害者が一家の支柱で被扶養者2人以上の場合 | 30% |
被害者が女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合 | 30% |
被害者が男性(独身、幼児等含む)の場合 | 50% |
- 被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合
- 40%
- 被害者が一家の支柱で被扶養者が2人の場合
- 30%
- 被害者が女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合
- 30%
- 被害者が男性(独身、幼児等含む)の場合
- 50%
◆ライプニッツ係数とは、損害賠償の場合は将来にかけて得られたはずのお金を現時点でまとめて受け取ることになるため、本来の将来の収入時までの年5%の利息を複利で差し引く係数のことをいいます。
なお、2020年4月1日以降に発生した交通事故については、この利息は3%となり、その後3年ごとに見直されることになります。
◆就労可能年数とは、働くことが可能であると考えられる年数のことです。
就労の終わる時期は、原則として67歳までとされています。
被害者の方が67歳を超える高齢者であった場合は、簡易生命表の平均余命の2分の1とされています。
幼児や学生であった場合、就労の始まりの時期は、原則として18歳とされていますが、大学卒業が具体的に決まっている場合やその可能性が高い場合などは、大学卒業予定時を就労の始まる時期とします。
死亡慰謝料
死亡慰謝料は、裁判基準である程度の相場が定められています。
<弁護士(裁判)基準による死亡慰謝料の相場金額早見表>
被害者の状況 | 死亡慰謝料の目安 (近親者への支払い分を含む) |
---|---|
一家の支柱 | 2800万円 |
母親、配偶者 | 2500万円 |
独身の男女、子供、幼児等 | 2000万円~2500万円 |
保険会社が提示してきた死亡慰謝料額が上記の金額より低い場合は交渉をしていくことになります。
また、後でご説明しますが、飲酒運転やひき逃げのように事故態様が悪質であるものや、無免許、信号無視など加害者の過失が重いような場合には、上記の相場よりも高い金額が請求できる場合もあります。
弁護士費用
加害者側との交渉がうまくいかず、裁判を起こす場合には弁護士に依頼することになると思いますが、裁判の場合は、裁判で認められた金額の10%程度が、弁護士費用として認められることになります。
たとえば、裁判で認められた損害賠償額が5000万円だった場合、弁護士費用分として10%の500万円が追加され、加害者が支払いを命じられる金額は5500万円となります。
飲酒運転による死亡事故では慰謝料が増額する場合がある
加害者が飲酒運転の場合は、飲酒して運転をするという行為が悪質であるといえるので、裁判基準で定められている死亡慰謝料の相場よりも、高額な慰謝料が認められる可能性があります。
「死亡事故の慰謝料が増額される場合」
(1)通常の場合と比較して精神的苦痛の程度がより大きいと判断される場合
(2)他の損害項目に入らないものを慰謝料で斟酌(しんしゃく)・補完しようとする場合
(3)被害者側に何らかの特別の事情がある場合
飲酒運転で起きた死亡事故の慰謝料増額裁判例
ここでは、実際に起きた飲酒運転による死亡事故で死亡慰謝料が相場金額よりも増額された裁判例を見ていきます。
裁判例①
・被害者 54歳男性
・死亡慰謝料額 3600万円(裁判基準による相場は2800万円)
・事案
被害者が乗用車で走行中、飲酒運転で対向車線に進入してきた加害者の乗用車と衝突し、被害者が死亡した事故で、加害者が、酒気を帯び、アルコールの影響により正常な運転ができない状態で、加害車を対向車線に進入させたこと、救助活動を一切しなかったことから、本人分2600万円、妻と母親各500万円、合計計3600万円の死亡慰謝料を認めた。
(東京地裁 平成16年2月25日判決・自動車保険ジャーナル第1556号)
裁判例②
・被害者 43歳女性(主婦兼アルバイト)
・死亡慰謝料額 3200万円(裁判基準による相場は2500万円)
・概要
被害者が歩行中、飲酒運転で仮眠状態の加害者の乗用車に衝突され死亡した事故で、加害者が事故後の検査で呼気1ℓ中約0.55㎎という高濃度のアルコールが検出されるほど多量に飲酒しており、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態であったにもかかわらず加害車両を走行させ、その後仮眠状態に陥り、時速50ないし55㎞で走行して本件事故を引き起こしたという悪質さ、翌朝も車で出勤したいからという運転動機の身勝手さ、なにも落ち度がないにもかかわらず3人の子供の成長を見届けることなく生命を奪われた被害者の無念さ等から、本人分2700万円、夫200万円、子供3人各100万円、合計3200万円の死亡慰謝料を認めた。
(東京地裁 平成18年10月26日判決 交民集39巻5号1492頁)
裁判例③
・被害者 9歳男子小学生
・死亡慰謝料額 3250万円(裁判基準による相場は2000万円~2500万円)
・概要
9歳の男子小学生が歩行中、背後から飲酒運転の加害者の乗用車に衝突され死亡した事故で、加害者が事故前日の朝まで量がわからないくらい飲酒したこと、事故後、被害者の救護に当たることなく、事故現場から離れたコンビニエンスストアで口臭消しフィルムを購入していること、アルコール濃度検査は行なわれていないが酒臭が認められること、衝突まで被害者に気づいていなかったにもかかわらず捜査段階ではそれを隠す供述をしていたこと、被害者の両親が事故のせいで心療内科に通院するようになったこと等から、死亡慰謝料の基準額の3割増しとして、本人分2750万円、父母各250万円の合計3250万円を認めた。
(大阪地裁 平成20年9月26日判決・自動車保険ジャーナル第1784号)
死亡事故は弁護士に相談してください!
このように、弁護士が入ることで、刑事事件に参加したり、高額の慰謝料を獲得できる場合があります。
死亡事故は、弁護士と相談しながら進めていきましょう。
慰謝料額がわかる自動計算機を活用してください!
みらい総合法律事務所では、どなたでも無料でお使いいただける「慰謝料等の自動計算機」をご用意しています。
指示に従って、必要事項を記入するだけで、本来ご家族が受け取るべき正しい慰謝料等の損害賠償金に近い金額が計算できます。
加害者側の保険会社から示談金の提示があったら、まずはこの自動計算機で金額を出してみてください。
保険会社の提示額がいかに低いか、おわかりいただけると思います。
飲酒運転の死亡事故で慰謝料増額を勝ち取るために
前述したように、加害者に飲酒運転、無免許運転、信号無視など悪質な運転行為があった場合や、被害者の方のご家族に暴言を吐くなど被害感情の悪化が強い場合などでは、通常の事故よりも特に精神的な損害が大きいと判断される可能性があります。
ただし、注意するべきことがあります。
それは、保険会社から慰謝料の増額が持ちかけられることはないですし、裁判所が勝手に増額してくれることもないということです。
つまり、慰謝料の増額を得るためには被害者の方のご家族がその根拠を発見し、強く主張することが必要なのです。
ですから、どのような場合に慰謝料が増額されるのかをご遺族が知っておかなければいけませんが、それは法律の素人には難しいでしょう。
そのような意味でも、飲酒運転による死亡事故の示談交渉は、やはり弁護士に相談・依頼することを検討したほうがよいと思います。
代表社員 弁護士 谷原誠