交通事故の後遺障害と身体障害者手帳との関係
交通事故の後遺障害とは、怪我をして治療効果が上がらなくなった状態で身体に残った障害のことで、自賠責後遺障害等級1級~14級が認定された障害のことです。
後遺障害が残った場合には、その程度に応じた後遺障害慰謝料(110万円~2,800万円)、後遺障害逸失利益などが認められます。
これに対して、身体障害者とは、法的には「障害者の雇用の促進等に関する法律」に規定された障害もつ人で、原則として身体障害者手帳の交付を受けている人になります。
身体障害等級には、もっとも重度の1級から順に6級までがあり、さらに、手帳の交付のない7級もあります。
交通事故で負った障害には、後遺障害等級と身体障害等級の2つが認定される可能性がありますが、その目的や役割、内容が違うので知っておくと役に立つと思います。
本記事では、
・後遺障害等級
・身体障害等級
・身体障害者手帳
これらの関係や違いなどについて網羅的に解説していきます。
交通事故の被害者は、この記事を読んで、決して損をしないように注意してください。
後遺障害等級で損害賠償額が決まる
後遺障害等級とは?
☑交通事故で負った傷害(ケガ)の治療を続けたものの、これ以上の回復は見込めない、完治は難しいという段階になると、医師から「症状固定」の診断を受けます。
☑症状固定後は、後遺症が残ってしまうことになりますが、損害賠償金を受け取るためには、後遺障害等級認定を申請し、ご自身の等級を確定する必要があります。
☑後遺障害等級は、後遺障害が重い1級から順に、14級まであり、障害の程度や部位によって各号数が定められています。
☑等級が決定して初めて、加害者側の任意保険会社は慰謝料などの算定ができるようになるので、後遺障害等級はとても大切なものになります。
なお、等級が高いほど、自賠責保険金や慰謝料などは金額が大きくなります。
参考情報:「自賠責後遺障害等級表」(国土交通省)
後遺障害等級の申請方法
☑後遺障害等級を申請するには、次の2つの方法があります。
1.「被害者請求」
加害者が加入している自賠責保険会社に、被害者の方ご自身が直接請求をする方法。
<被害者請求のメリット>
・加害者側の任意保険会社を通さず、被害者自身で提出資料や書類を用意するので、内容を把握できて主導権を握ることができる。
・最終的な示談の前にまとまった金額を先に受け取ることができる。
<被害者請求のデメリット>
・被害者自身が提出する資料を集め、手続をしなければいけないために手間がかかる。
2.「事前認定」
加害者が加入している任意保険会社に申請手続きを行なってもらう方法。
<事前認定のメリット>
保険会社が手続きをしてくれるので、被害者の方の手間がかからない。
<事前認定のデメリット>
被害者の方には、どういった書類や資料が提出されたのかわからないため、仮に間違った等級が認定されても、その理由を把握しにくい。
どちらの方法にもメリットとデメリットがあるので、家族の状況や経済的な状態などを考えながら選択するのがいいでしょう。
等級に納得がいかない場合の対処法
☑ここで注意していただきたいのは、認定された後遺障害等級は正しいとは限らないことです。
等級が低すぎる、等級が認定されなかった、といった不服がある場合、被害者の方はは「異議申立」をすることができます。
・後遺障害等級は、加害者側から支払われる損害賠償金(示談金)に関わる。 |
・後遺障害等級は、もっとも重度の1級から順に14級まである。 |
・認定された等級に不服がある場合は異議申立を行なうことができる。 |
身体障害者手帳と等級について
身体障害等級とは?
☑身体障害者とは、法的には「障害者の雇用の促進等に関する法律」に規定された障害もつ人で、原則として身体障害者手帳の交付を受けている人になります。
☑身体障害等級には、もっとも重度の1級から順に6級までがあり、さらに、手帳の交付のない7級もあります。
ただし、7級の障害が2つ以上ある場合、7級以外に6級以上の障害がある場合は交付の対象になります。
☑身体障害等級では、障害の種類、程度は同じでも後遺障害等級とは違う等級が認定される可能性があることに注意が必要です。
<等級の違いに要注意!>
たとえば、肢体不自由の障害で見てみると、自賠責後遺障害等級では「両手の手指の全部を失ったもの」は3級5号が認定されます。
一方、身体障害等級では「両上肢のすべての指を欠くもの」は2級になります。
また、自賠責後遺障害等級では「脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの」は、6級5号ですが、身体障害等級では「体幹の機能の著しい障害」として5級が認定されます。
このように、後遺障害等級と身体障害等級では障害の状態が同じものが違う等級になることに注意が必要です。
☑身体障害等級の対象となる障害は次のように分類されています。
・視覚障害 |
・聴覚又は平衡機能の障害 |
・音声機能、言語機能又はそしゃく機能の障害 |
・肢体不自由 |
・心臓、じん臓又は呼吸器の機能の障害 |
・ぼうこう又は直腸の機能の障害 |
・小腸の機能の障害 |
・ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害 |
・肝臓の機能の障害 |
※これらの障害が、一定以上で永続することが要件とされています。
☑等級は障害の種類や程度によって決定されますが、その際の指標となるのが、「障害程度等級」です。
条件等が細かく分類されているため、下記のサイトを参考にされるといいでしょう。
参考情報:「身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)」(厚生労働省)
身体障害者手帳とは?
☑身体障害者手帳とは、「身体障害者福祉法」が定める「身体上に障害がある者」に対して、都道府県知事や指定都市の市長が交付するものです。
☑身体障害者手帳を取得すると、各種手当を受け取ることができ、医療費の助成、税金の控除、公共料金の減税、福祉サービスの利用など生活や仕事の面でさまざまなサービスを受けることができるので、メリットがあります。
※各自治体によって内容が異なるため要確認。
☑身体障害者手帳の申請方法の流れと手順は次のようになります
<身体障害者手帳の申請方法>
被害者の方が自ら、各自治体(市区町村)の福祉事務所、障害福祉課などの窓口に行って、申請をする必要があります。
1.各自治体の障害福祉課などの窓口で問い合わせ・相談する。 |
2.申請書類の入手や必要な手続きを確認 |
3.指定医から診断書と意見書を取得 |
4.申請書類をそろえ、写真、身分証明書等とともに窓口に提出 |
※本人が申請するのが難しい場合は、ご家族などの代理申請が可能な場合もあります。
※「交付申請書」の他に、申請書類には「身体障害者診断書」と医師の「意見書」があります。
※通常、申請から1~2か月で交付されます。
身体障害者手帳をもつメリット
1.障害年金の受け取り
・障害年金を受け取ることができます。
・障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があり、受け取るためには受給要件を満たす必要があります。
参考情報:「障害年金」(日本年金機構)
「障害年金の制度」(日本年金機構)
2.更生医療費の助成
- ・身体障害の症状緩和のための更生医療(自立支援医療)の費用に関する支給を受けることができます。
- ・自己負担額は原則、1割となります。
3.補装具購入・修理費などの助成
- ・車いす、補聴器・義肢、盲人安全杖、歩行器、義眼などの購入費について、自己負担額は原則、1割となります。
- ・住宅のリフォーム費用や修理費などの助成が受けられます。
4.税金の軽減
- ・所得税・住民税・相続税・贈与税などについて、優遇措置(障害者控除)が設けられています。
- ・納税者本人・配偶者・扶養親族に障害がある場合は所得控除が受けられます。
- ・1級・2級の場合は「特別障害者」として、通常の障害者控除よりも高い控除を受けることができます。
5.自動車税等の控除
- ・自動車税、軽自動車税、自動車取得税が控除されます。
- ・障害のある本人が運転する場合、障害のある方の通院や通学、通勤などのために本人と生計をともにする方が運転する場合など、条件は各自治体によって違うので確認が必要です。
6.公共料金などの割引
各自治体によって内容は変わってきますが、次のような優遇が受けられます。
- ・JRやバス、航空運賃などの公共交通機関の割引
- ・携帯電話の基本料金の割引
- ・博物館などの公共施設の割引
- ・NHK受信料の免除
- ・公営住宅の優先入居 など
参考情報:「障害者と税」(国税庁)
・身体障害等級には、もっとも重度の1級から順に7級までがあるが、7級は身体障害者手帳が交付されない。 |
・身体障害等級では、後遺障害等級と障害の種類、程度は同じでも違う等級が認定される可能性がある。 |
・身体障害者手帳を取得すると、各種手当を受け取ったり、福祉サービスを受けることができるといったメリットがある。 |
ここまでのまとめ
交通事故の後遺障害とは?
交通事故による後遺障害とは、治療効果が見られなくなった状態で身体に残る障害を指します。
この障害には自賠責後遺障害等級1級から14級までの認定があります。
後遺障害が認定された場合、被害者は後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益などの補償を受け取ることが可能です。
後遺障害と身体障害者の違い
後遺障害: 交通事故等による外的要因で生じた身体の障害。
身体障害者: 法的に定義された身体に障害を持つ人。主に「障害者の雇用の促進等に関する法律」で規定されており、身体障害者手帳の交付を受けることが一般的です。
後遺障害等級と身体障害等級
交通事故での障害認定には、後遺障害等級と身体障害等級の2つの認定が考慮されることがあります。それぞれの認定の目的や役割、内容には違いがあるため、交通事故の被害者として知っておくことが重要です。
交通事故の被害者が知っておくべきポイント
被害者は、後遺障害の程度に応じた適切な補償を受け取る権利があります。
適切な障害等級の認定を受けることで、適正な補償を受け取ることができます。
交通事故の被害に遭われた方は、適切な補償を受け取るためにも弁護士のアドバイスが必要です。
特に後遺障害の認定や補償に関する手続きは複雑なため、弁護士への相談をおすすめします。適切なアドバイスとサポートで、被害者の権利を守るための手続きを進めてください。
代表社員 弁護士 谷原誠