交通事故でPTSD・RSD・非器質性精神障害の後遺障害が残った場合の等級・慰謝料
本記事では、交通事故でPTSD・RSD・非器質性精神障害の後遺障害が残った場合に認定される後遺障害等級や慰謝料の計算方法、正しい相場金額などについて解説します。
「PTSD」は、交通事故などで命に関わるような重大な被害にあい、非常に大きなストレスを受けた方が発症する精神疾患です。
突然、交通事故時の苦しい記憶がよみがえり、それを現実のように感じてしまい、自分では制御できないために、すべての思考や行動が停止するなどして、正常な日常生活を送ることができなくなるといったフラッシュバックの後遺症が残ってしまう場合があります。
「RSD」は、交通事故で骨折などの傷害(ケガ)を負った後、治療をして完治したのに患部に痛み(疼痛)やしびれなどを感じる後遺障害です。
「非器質性精神障害」とは、脳自体の損傷はない状態で現れる精神障害で、PTSDの他、外傷性うつ病などが該当します。
PTSD・RSD・非器質性精神障害では、程度の違いなどによって後遺障害9級、12級、14級が認定されます が、これらの苦しみや痛みは本人にしかわからず、外から客観的に判断するのが難しい後遺症です。
そのため、後遺障害等級認定では正しい等級が認められないなどの問題が起きることがあり、慰謝料などの損害賠償請求で被害者の方が損をしてしまう可能性があります。
被害者の方は、これ以上の損害を被ることなく、正しい慰謝料などを受け取るために本記事で正しい知識を身につけてください。
目次
PTSD・RSD・非器質性精神障害の特徴と症状について
(1)PTSDとは?
交通事故の被害者の方は身体的な傷害(ケガ)だけでなく、大きな精神的なショックにより後遺障害が残ってしまう場合があります。
「PTSD(ピーティーエスディー)」は、交通事故などで命に関わるような重大な被害を経験したことで、非常に大きなストレスを受けた方が発症する精神疾患で、「心的外傷性ストレス障害」とも呼ばれる後遺障害です。
PTSDの主な症状には、フラッシュバック(侵入症状)があります。
突然、交通事故時の苦しい記憶がよみがえり、それを現実のように感じてしまい、自分では制御できないために、すべての思考、行動が停止し、正常な日常生活を送ることができなくなる状態です。
その他にも、PTSDではさまざまな症状が現れます。
- フラッシュバックによる再体験により、強い不安や恐怖を感じる
- 感情のコントロールができない
- 感情の麻痺
- 何度も悪夢を見る
- 睡眠障害
- 集中力の低下
- 現実感の喪失
- 記憶の一部喪失 など
こういった症状が生涯に渡って続く場合は、後遺障害と認定される可能性があります。
PTSDは、脳や神経に障害を与えるものではないため、器質(臓器や器官)的な障害ではなく精神的症状(精神的障害)であることが特徴です。
(2)RSDとは?
「RSD(アールディーエス)」は、交通事故で骨折などの傷害(ケガ)を負い、治療をして完治したにもかかわらず、被害者の方が患部に痛み(疼痛)やしびれなどを感じる後遺障害です。
検査をしても異常が見当たらないのに、被害者の方は明らかに痛みを感じるもので、神経性疼痛の代表的な症状です。
RSDは、以前は反射性交感神経性ジストロフィーと呼ばれていました。
しかし現在では、複雑な原因により発症する「CRPS(シーアールピーエス)症候群」(複合性局所疼痛症候群)のうちの神経損傷をともなわないものに分類されています。
ちなみに、神経損傷をともなうものは、カウザルギーに分類されます。
- 疼痛(とうつう):焼けるような激しい灼熱痛、触っただけでも感じる痛み
- しびれ
- 関節拘縮(こうしゅく):関節のこわばり、動かしにくさ
- 腫脹(しゅちょう):炎症などのために手足等が腫れ上がったり、むくむ
- 皮膚の変化:皮膚の張りやツヤが失われる、皮膚が赤くなったり、血の気が引いたように白くなる、乾燥、皮膚温の異常など
- その他:筋力の低下、異常な発汗、局所的骨粗鬆症、手足のやせ細り など
これらの症状が、時間の経過とともに現れる場合は、RSDの可能性が高いと判断されます。
RSDは神経症状ではなく、神経系統の損傷によって発症する点でPTSDとは区別されます。
(3)非器質性精神障害とは?
非器質性精神障害とは、脳の器質的な損傷ではなく現れる精神障害で、前述のPTSDや外傷性うつ病などが該当します。
- 抑うつ
- 不安
- 意欲低下
- 慢性化した幻覚や妄想性
- 記憶、知的能力の障害
- その他(衝動性の障害、不定愁訴など)
後遺障害等級認定の実務では、PTSDや外傷性うつ病などは「非器質性精神障害として〇級」というように評価されます。
PTSD・RSD・非器質性精神障害の後遺障害等級
(1)PTSDや外傷性うつ病(非器質性精神障害)の診断基準
PTSDの診断方法は、国際的に使われている次の2つが基本とされています。
- 「精神疾患の診断統計マニュアル第5版(DSM-5)」(米国精神医学会)
- 「国際疾病分類第10版」(世界保健機関/WHO)
(2)PTSDや外傷性うつ病(非器質性精神障害)で認定される後遺障害等級
PTSDや外傷性うつ病(非器質性精神障害)では、症状の程度の違いなどによって次の後遺障害等級が認定されます。
「9級10号」
後遺障害の内容 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
---|---|
自賠責保険金額 | 616万円 |
労働能力喪失率 | 35% |
「12級13号」
後遺障害の内容 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
---|---|
自賠責保険金額 | 224万円 |
労働能力喪失率 | 14% |
「14級9号」
後遺障害の内容 | 局部に神経症状を残すもの |
---|---|
自賠責保険金額 | 75万円 |
労働能力喪失率 | 5% |
参考情報:「後遺障害等級表」(国土交通省)
(3)PTSDや外傷性うつ病(非器質性精神障害)の後遺障害認定のポイント
非器質性精神障害は、症状を外から客観的にとらえるのが難しいため、後遺障害等級認定の判断が難しい後遺症のひとつになります。
たとえば、12級と14級の後遺障害の違いは次のようになっています。
他覚所見により神経系統の障害が医学的に証明されるもの。
神経系統の障害が医学的に説明可能なもの
認定基準上では、「頑固な」神経症状かどうかの違いだけです。
そのため、客観的に判断するためには、CTやMRIなどの画像や検査資料等の医学的な材料が必要になります。
そのうえで、医学的に証明できるものであれば12級、医学的に説明可能なものであれば14級が認定されるのです。
RSDの後遺障害等級
(1)RSDの診断基準
RSDの判断では、次の判定指標、診断基準が使われます。
参考情報:「厚生労働省研究班による複合性局所疼痛症候群のための判定指標」(2008年)
(2)RSDで認定される後遺障害等級
RSDでは、PTSDや外傷性うつ病(非器質性精神障害)と同様に、症状の程度の違いなどによって次の後遺障害等級が認定されます。
「9級10号」
後遺障害の内容 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
---|---|
自賠責保険金額 | 616万円 |
労働能力喪失率 | 35% |
「12級13号」
後遺障害の内容 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
---|---|
自賠責保険金額 | 224万円 |
労働能力喪失率 | 14% |
「14級9号」
後遺障害の内容 | 局部に神経症状を残すもの |
---|---|
自賠責保険金額 | 75万円 |
労働能力喪失率 | 5% |
RSDの疼痛も客観的にとらえるのが難しいため、後遺障害等級認定の判断が難しい後遺症のひとつといえます。
PTSD・RSD・非器質性精神障害の後遺障害等級認定の裁判例
PTSD・RSD・非器質性精神障害の後遺症が、どの程度、労働能力に影響するのか判断するのは難しく、訴訟で争われる場合もあります。
また、実際の裁判での等級認定の判断は一定ではなく、ケースごとに多様な判断がされていることに留意するべきです。
ここでは参考事例として、裁判例の一部を紹介します。
PTSDについて後遺障害7級を認めた裁判例
(横浜地裁平成10年6月8日判決 判タ1000号221頁)
(大阪地裁平成11年2月25日判決 自保ジ1287号2頁)
※近時の裁判例の流れとしては、7級は認定されない傾向にあります。
PTSDについて後遺障害9級を認めた裁判例
(大阪高裁平成13年3月27日判決 自保ジ1392号1頁)
労働能力喪失を認めた裁判例
- ・RSDにともなう神経症状に対して、20%の労働能力喪失を認めた
(横浜地裁平成13年10月12日判決 自保ジ1421号2頁) - ・RSDにともなう神経症状に対して、27%の労働能力喪失を認めた
(東京地裁平成20年3月18日判決 交民41巻2号355頁)
ただし、PTSDについて多くの裁判例では発症自体を否定している点には注意が必要です。
PTSDを否定した裁判例
(宮崎地裁平成11年9月7日判決 自保ジ1314号1頁)
(京都地裁平成12年8月31日判決 自保ジ1368号1頁)
(大阪地裁平成12年9月13日判決 判時1765号86頁)
(東京高裁平成15年8月28日判決 自保ジ1515号5頁)
遺族のPTSDを否定した裁判例
交通事故で死亡した被害者の遺族が起こした、PTSDなどの精神的疾患を被ったことに対する損害賠償請求を否定した。
(京都地裁平成19年10月9日判決 判タ1266号262頁)
なお、後遺障害等級認定で間違った等級が認定されたり、等級が認定されず不服がある場合は、異議申立をすることができます。
【関連動画】等級認定がされたら必ず異議申立を検討しないと損。弁護士解説。
PTSD・RSD・非器質性精神障害の慰謝料について
(1)交通事故で受け取れる慰謝料の種類は?
交通事故に関わる慰謝料には、次の4種類があります。
①入通院慰謝料(傷害慰謝料)
交通事故で傷害(ケガ)を負った被害者の方の精神的苦痛に対して支払われるもの。
②後遺障害慰謝料
後遺症が残り、後遺障害等級が認定された場合に支払われるもの。
③死亡慰謝料
被害者の方が死亡したことで被った精神的損害に対して支払われるもの。
④近親者慰謝料
死亡事故や重傷事故などで、被害者の方の慰謝料とは別に近親者が被った精神的損害に対して支払われるもの。
PTSD・RSD・非器質性精神障害の被害者の方は、入通院慰謝料(傷害慰謝料)と後遺障害慰謝料を受け取るということになります。
(2)慰謝料計算で使われる3つの基準とは?
慰謝料の計算には3つの基準があり、どの基準を使うかによって、被害者の方が受け取ることができる金額が大きく変わってくるので注意が必要です。
①自賠責基準
自賠責保険により定められた基準で、3つの基準の中ではもっとも低い金額で設定されている。
②任意保険基準
自賠責保険以外に加入する任意保険による基準で、各損害保険会社が独自で基準を設けており、自賠責基準より少し高いくらいの金額になる。
③弁護士(裁判)基準
- ・弁護士が被害者の方から依頼を受けて、代理人として交渉する場合や裁判になった場合に主張する基準で、3つの基準の中ではもっとも高額になる。
- ・過去の交通事故の裁判例から導き出された基準のため法的根拠があり、裁判をした場合に認められる可能性が高くなる。
- ・弁護士(裁判)基準で計算した金額が、被害者の方が本来受け取るべき金額になる。
【関連動画】交通事故で、被害者が弁護士基準で示談する方法
(3)PTSD・RSD・非器質性精神障害の慰謝料の計算方法
①自賠責基準による入通院慰謝料
自賠責基準では、1日あたりの入通院慰謝料の金額が決められているため、対象となる入通院の日数が何日間になるのかで金額を計算します。
4300円(1日あたりの金額)×対象日数=入通院慰謝料
<具体的な計算での注意ポイント>
計算式にある「対象日数」については、次のどちらか短いほうが採用されることに注意が必要です。
たとえば、PTSDで5か月通院して(1か月を30日で計算)、実際に治療を受けたのは週に2日とした場合は次のようになります。
- ・実際の治療期間=150150日間
- ・実際に治療した日数は約45日×2=約90日間
日数が短いほうが採用されるので、この場合の入通院慰謝料は次のようになります。
(実際の治療日数を90日として計算)
②任意保険基準による入通院慰謝料
前述したように、任意保険基準は各損害保険会社によって独自に設定されています。
また非公表のため具体的な金額を示すことができないのですが、基本的には自賠責基準による金額より少し上乗せされた金額になると考えておくといいでしょう。
つまり、被害者の方としては任意保険基準による金額で示談するべきではない、ということになります。
③弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料
弁護士(裁判)基準による計算は複雑なため、あらかじめ決められた算定表から入通院慰謝料を算定します。
算定表は、日弁連交通事故相談センター東京支部が毎年発行している「損害賠償額算定基準」という本に記載されており、裁判官や弁護士も使用しているものです。
算定表には、軽傷用と重傷用があります。
「自賠責基準・弁護士(裁判)基準による後遺障害慰謝料の金額表」
「弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料(重傷)の算定表」
「弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料(重傷)の算定表」 」
たとえば、入院なし、5か月通院した場合、上記の算定表(重傷用)の「ヨコ軸の入院0」と「タテ軸の通院5か月」が交わっている部分を見ます。
「105」となっているので、この場合の入通院慰謝料は、105万円になります。
このように、自賠責基準と弁護士(裁判)基準では単純に計算しても、
105万円-38万7000円=66万3000円の差が出ることになります。
④後遺障害慰謝料の計算方法と相場金額
後遺障害慰謝料は、1級から14級の等級によってあらかじめ概ねの金額が決められており、後遺障害が重度なほど金額は大きくなります。
ここでは、自賠責基準と弁護士(裁判)基準による金額を等級別の早見表にしています。
<自賠責基準・弁護士(裁判)基準による後遺障害慰謝料の早見表>
たとえば、RSDで後遺障害9級が認定された場合の後遺障害慰謝料は自賠責基準で249万円、弁護士(裁判)基準で690万円となり、その差は441万円にもなります。
慰謝料は弁護士(裁判)基準で算定するべき、ということがおわかりいただけると思います。
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【関連動画】被害者が弁護士に相談・依頼するメリット・デメリット。弁護士解説。
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