交通事故の示談交渉が「もめる原因」と「対処法」
交通事故の被害者の方は慰謝料などの損害賠償金を受け取ることができます。
加害者が任意保険に加入していれば、まずその保険会社から示談金の提示があります。
その金額で納得がいくなら、示談成立です。
しかし、保険会社の提示額は、じつはかなり低く、被害者の方が本来受け取るべき金額の2分の1や3分の1、さらには10分の1以下という場合があります。
ご自身の正確な慰謝料額まで知らなくても、「この金額は低すぎるのではないか?」、「この金額では納得できない」と感じる被害者の方は、保険会社との示談交渉に進みます。
しかし、この示談交渉が問題で、「もめる」「なかなか進展しない」「和解できずにいつまでも解決できない」といったことが起きがちです。
・なぜ、保険会社は低い示談金を提示してくるのか?
・どうして、示談交渉はもめてしまって、なかなか解決できないのか?
本記事では、保険会社の論理・言い分を分析しながら、示談交渉がもめる原因と対処法について、お話ししていきます。
これから、交通事故の示談がもめる原因と対処法について解説していきますが、その前に交通事故解決までの全プロセスを説明した無料小冊子をダウンロードしておきましょう。
交通事故の示談が重要な理由
交通事故の示談とは?
☑交通事故が発生すると、傷害(ケガ)を負った被害者の方は精神的、肉体的な苦痛と損害を被るわけですから、そこでかかった治療費や入院費、慰謝料、逸失利益などさまざまな項目からなる損害賠償金を受け取ることができます。
コラム①:損害賠償金と示談金、保険金の違いとは?
「損害賠償金」
被害者側から見た場合、加害者から被った損害をお金で賠償してもらうもの。
「示談金」
被害者側と加害者側(保険会社)双方による示談によって賠償金額が合意されるもの。
「保険金」
加害者側の任意保険会社の立場からは、保険契約に基づいて被害者に支払うもの。
というわけで、この3つは状況や見る側の立場によって呼び方が変わるだけで、同じものということになります。
☑損害賠償金は、加害者が任意保険に加入している場合は、その保険会社から示談金として提示されます。
被害者の方が、この金額で納得であれば示談書にサイン、押印をして、示談成立となります。
☑示談とは、被害者側と加害者側が争って、白黒の決着をつけることではありません。
次の内容について、話し合いによって決め、和解する(「民法第695条(和解)」)ものです。
②その賠償額はいくらになるのか
③賠償金の支払い方法はどうするか
交通事故の示談で後悔しないでください!
☑示談が成立した段階で、被害者の方が受け取ることができる慰謝料などの損害賠償金額が確定するので、示談交渉は非常に重要なものです。
☑しかし前述したように、加害者側の任意保険会社が提示してくる金額はかなり低いのが現実です。
そのため、ここで安易に保険会社の言うことを受け入れてしまったり、示談交渉の知識や現実を知らないまま示談書にサインをしてしまうと、後で後悔することになってしまいます。
☑示談が成立した後で、「やはり金額に納得がいかない」「交渉をやり直したい」といっても、変更することは基本できません。
残念ながら、私たち弁護士でもそれを覆すことはできないのです。
☑ですから、後悔のないように示談の知識を身に着けて、保険会社の論理や言い分を知って、交渉を進めていくことが大切になってくるのです。
示談交渉開始からの流れを確認
通常、示談交渉には流れがあり、各ポイントでは行なうべき手続きがあるので、それらを見ていきましょう。
次のフローチャート図は、交通事故の発生から示談解決までを流れを追って表したものです。
まずは、全体の流れを把握してください。
それから、示談交渉の具体的な説明に進みます。
症状固定の診断から後遺障害等級認定まで
☑傷害(ケガ)を負った場合は、入院・通院をして治療を受けると思います。
ところが、ある時点で医師から症状固定の診断を受ける場合があります。
☑症状固定とは、これ以上の治療を行なっても改善が見込めない、完治は難しいという状況で、症状固定の診断以降は、被害者の方に後遺症が残ってしまうことになります。
☑後遺症が残っても、そのままでは慰謝料などを受け取ることはできません。
後遺障害等級認定の申請を行ない、ご自身の等級認定を受けることが必要になります
【参考情報】
「自賠責後遺障害等級表」(国土交通省)
☑後遺障害等級は、もっとも重度の1級から順に14級まであり、身体の部位の違いなどによって各号数が設定されています。
後遺障害等級認定から示談交渉まで
☑認定された後遺障害等級は、とても重要なものです。
なぜなら、等級が認定されて初めて、加害者側の任意保険会社は慰謝料などの計算をすることができるようになり、被害者の方に損害賠償金(示談金)の提示がなされるからです。
☑ここで注意していただきたいのは、認定された等級は必ずしも正しいわけではない、ということです。
申請のために提出した書類や資料に不足や不備があると、そのまま認定されてしまい、結果として本来よりも低い等級が認定されたり、等級自体が認定されないということもあるのです。
☑認定された等級に不服な場合は「異議申立」をすることができます。
ただ、異議申立の際の資料や書類は、正しい等級認定のためのしっかりとした根拠が記されていなければいけません。
☑そのためには、交通事故の後遺障害認定に詳しい医師に新たな診断書を作成してもらい、後遺障害事案に精通した弁護士の確認を受けていただくことも必要になってきますので、一度、弁護士に相談されることをおすすめします。
☑後遺障害等級が決定すると、加害者側の任意保険会社から慰謝料や逸失利益などの損害賠償金の提示があります。
ここで金額に納得すれば、示談交渉には進まず、示談成立となります。
☑金額に納得がいかない場合は、示談交渉に進んでいきます。
示談解決までにかかる日数は?
示談解決までに、どのくらいの期間が必要なのかは事案によってケースバイケースですが、ここではおおよその目安についてお話しします。
まず、事故発生からの流れで考えると、次の3つのステージに分けることができます。
ケガの治療期間
ケガの状況、症状に同じものはなく、それぞれのケースによって違ってきます。
たとえば、むち打ち症の場合では通院期間が1年以上というケースもありますが、通常3~6か月が目安になります。
後遺障害等級の認定にかかる期間
後遺障害等級認定の申請は、被害者の方が直接、加害者側の自賠責保険に申請する「被害者請求」と、加害者側の任意保険会社を通して申請する「事前認定」という方法があります。
通常、申請から1~2か月で認定結果が届きますが、異議申立をした場合は、さらに2~4か月ほどかかると考えておくといいでしょう。
示談交渉で和解に至るまでの期間
交通事故の事案ごとに和解に至るまでの期間は違ってくるのですが、ここではおおよその期間をまとめてみました。
<示談成立までの期間>
物損事故 | 交通事故発生日から 2~3ヶ月 |
---|---|
後遺障害のない人身事故 | 治療終了(症状固定)から 半年程度 |
後遺障害がある人身事故 | 後遺障害の認定から 半年~1年程度 |
死亡事故 | 葬儀・相続確定後から 半年~1年程度 |
これらの合計期間よりも、示談交渉の時間が長くかかっているのであれば、示談交渉が長引いている、もめていると考えていいと思います。
コラム②:弁護士が示談解決か裁判かを選択するとき
示談交渉がなかなか進まない、もめているといった場合、当然ですが弁護士はいつまでも長引かせるようなことはしません。
通常、3か月ほどで「示談で解決できるのか」、「提訴して裁判を起こさないと解決できないのか」の見通しを立てられることが多いので、ここが分岐点になります。
加害者側の任意保険会社が弁護士の主張を受け入れ、和解に向けての見込みがない場合、弁護士は示談交渉を終わらせ、提訴して、裁判での決着に舵を切るのです。
ですから、示談の早期解決を目指すなら、交通事故に強い弁護士に相談・依頼することが大きなポイントになってくるのです。
示談交渉がもめる理由とは?
なぜ示談交渉はもめるのか?
☑被害者の方としては、いつまでも交通事故を引きずらず、早く示談を成立させたいと思うでしょう。
しかし、示談はなかなか成立しないのが現実です。
☑なぜなら、保険会社から提示される示談金は被害者の方が受け取るべき本当の金額より、かなり低く設定されているからです。
☑保険会社は利益を上げることを目的とした営利法人ですから、売上を増やして、支出をできるだけ抑えようとします。
☑一方、被害者の方は突然の交通事故で精神的、肉体的な苦痛、損害を被っていますし、将来的な収入の不安もあるでしょう。
そのため、金銭的な補償はできるだけ多く受取りたいと考えるでしょうし、低い金額を提示されたら納得がいかないのは当然です。
☑つまり、双方の利害はまったく真逆なため、示談交渉がなかなか進まない、示談がまとまらないということが起きてしまうわけです。
保険会社の論理・言い分を分析してみる
では、保険会社はどういった論理で、どのような言い分を主張してくるのか、保険会社の交渉の進め方を分析してみましょう。
①上位権限者のテクニック
加害者側の任意保険会社の担当者が、こんなことを言ってくる場合があります。
「上司から、これ以上の金額の提示は難しいと言われまして・・・」
「社内規定上、この金額が、当社がご提示できる限度額です」
これは交渉術では「上位権限者のテクニック」と呼ばれるものです。
「(担当者である)私は、もっと金額を増やしたいのですが、上司(会社)が増額は難しいと言っているのです。だから、どうしようもないのです」
と言って、相手を納得させようとしているわけです。
②グッドガイ・バッドガイのテクニック
保険会社の担当者が、こんなことを言ってくるケースもあります。
「もう少し増額できるように上司に掛け合ってみます」
そして、少し経ってから、このように言います。
「やはりダメでした……」
初めは被害者の方の味方(グッドガイ)であるかのように振る舞い、あとで「私は、頑張がんばりました。しかし上司(バッドガイ)からダメだと言われました」と言ってくるわけです。
被害者の方としては、「ここまでやってくれたのだから」と示談書にサインをしてしまうこともあると思いますが、ここで示談してしまっては、本来よりかなり低い金額しか受け取ることができない、ということになってしまいます。
③最後の譲歩
「なんとか〇〇円の増額を会社から認めてもらいました」
このように相手が言ってくるのは、最後の譲歩と呼ばれるテクニックです。
交渉について、人は「勝ち・負け」で判断しがちです。
そうすると、「最後に自分が勝った」「自分のほうが有利になった」という状況になると、交渉妥結となりやすい心理が働きやすくなるのです。
保険会社は、最後に少しだけ増額することで、じつは自分たちが有利な結果を得るという交渉テクニックを使ってくる場合もあるのです。
④内心の表れ
「弁護士に依頼しても増額しませんよ」
「弁護士に頼んでも無駄ですよ」
保険会社の担当者が、こうしたこと言ってくる場合もあります。
この場合の心理は、「弁護士に依頼されると困る」という内心の表れだと読み替えることができます。
ですから、弁護士に示談交渉を依頼することが有効な手段になるわけです。
示談交渉がもめる5つの理由とその対処法
次に、保険会社が慰謝料などの損害賠償金の増額を認めない理由と、その対処法についてお話しします。
保険会社が支払い基準の限界を主張してきた場合
慰謝料などの計算では次の3つの基準が使われます。
1.自賠責基準
自賠責保険の基準で、金額がもっとも低くなる。
2.任意保険基準
各任意保険会社が、それぞれ独自に設けている基準(各社非公表)。
自賠責基準よりも少し高い金額になるように設定されている。
3.弁護士(裁判)基準
・金額がもっとも高額になる基準。
・過去の裁判例から導き出されているため、弁護士が被害者の方の代理人として加害者側の任意保険会社と示談交渉をする場合や、裁判になった場合に主張する。
・裁判で認められる可能性が高くなる基準で、被害者の方が本来受け取るべき金額になる。
つまり、慰謝料の増額を実現するには、弁護士に依頼して、弁護士(裁判)基準で計算した慰謝料額で示談解決するべきなのです。
被害者の過失割合を主張してくる場合
交通事故の示談交渉では、過失割合が争点になることも多くあります。
過失割合とは、交通事故の原因となった過失(責任)が、被害者と加害者それぞれにどのくらいの割合であるのかを表すものです。
たとえば、被害者30%対加害者70%というように表されるのですが、被害者の方としては過失割合が高くなれば、その分を損害賠償金から減額されてしまうことに注意が必要です。(これを過失相殺といいます)
過失割合については、交通事故の損害賠償実務に詳しい弁護士でないと、保険のプロである保険会社には太刀打ちできません。
ですから、ここでも弁護士に依頼するのが示談解決への近道になるのです。
被害者の逸失利益を認めない場合
交通事故の被害にあい、後遺障害が残った場合は、以前のように働くことができない可能性があります。
その場合は、今後の収入に直結してくるので、被害者の方にとっては大きな問題です。
このように、交通事故にあっていなければ将来的に得られるはずだった収入(利益)を逸失利益といいます。
加害者側の任意保険会社は、示談交渉で被害者の方の逸失利益を低く見積もったり、否定してくる場合があります。
こうした場合でも、交通事故に強い弁護士に依頼することで逸失利益が増額し、示談が解決する可能性が高くなります。
加害者が無保険の場合
自賠責保険は、すべての運転者が加入しなければならない強制保険です。
それにもかかわらず、加害者が加入していない、期限が切れていた、というケースがあります。
また、加害者が任意保険に加入していないケースもあります。
こうしたケースでは、交渉相手が保険会社ではなく加害者本人になるため、示談交渉がなかなか進まない、もめる場合が多くあります。
加害者が自賠責保険に加入していない場合は、「政府補償事業」という制度があります。
また、加害者が任意保険に加入していない場合は、被害者ご自身やご家族が任意保険の「人身傷害補償特約」や「搭乗者傷害保険」に加入しているなら、そこから保険金を受け取ることができます。
いずれの場合でも、まずは弁護士に相談していただきたいと思います。
被害者が単独で示談交渉をしている場合
保険会社は、被害者の方が単独で示談交渉に臨んでいるうちは増額しなくてもいいと考えています。
わざわざ正確に求められていないのに弁護士(裁判)基準での金額を提示する必要はない、と考えているのでしょう。
しかし、示談交渉に弁護士が入っ
てくると、最終的には提訴されて、裁判での決着となれば、裁判所から弁護士(裁判)基準での金額を求められてしまうので、その前に和解しようという判断をしてくるわけです。
ですから、被害者の方が単独での示談交渉は避けるべきだといえます。
以上、交通事故の示談交渉がもめる理由と対処法について解説しました。