取締役(会社役員)の交通事故の慰謝料・逸失利益・休業補償の計算
目次
【動画解説】交通事故で慰謝料は相場から大幅に増額される!
交通事故で傷害(ケガ)を負い、後遺症が残った場合、被害者の方は加害者側に対して慰謝料の他に逸失利益や休業損害なども請求することができます。
その際、たとえば会社で働いている人で考えた場合、会社員と会社役員では算定の基準などに違いはあるのか、という問題について解説します。
これから、交通事故の慰謝料などが会社役員の場合どう判断されるのかなどについて解説していきますが、その前に、交通事故解決までの全プロセスを解説した無料小冊子をダウンロードしておきましょう。
みらい総合法律事務所の増額解決事例
ここではまず、みらい総合法律事務所で実際に解決した慰謝料などの増額事例をご紹介します。
「解決事例①71歳の会社経営者の死亡事故で慰謝料等が約2.1倍の増額」
71歳の女性経営者が青信号の交差点を横断歩行中に右折自動車にひかれた交通事故。
四十九日が明けた後、加害者側の保険会社はご遺族に対し、慰謝料等の損害賠償金として、2475万3114円を提示。
ご遺族は、この金額が妥当なものかどうか確認するため、みらい総合法律事務所の無料相談を利用したところ、弁護士から「まだ増額は可能」との意見があったことから示談解決のすべてを依頼されました。
弁護士が保険会社と交渉しましたが、なかなか増額に応じなかったため提訴。
裁判では、逸失利益と生活費控除率が争いとなりましたが、最終的には5350万円まで増額して解決した事例です。
保険会社の当初提示額から、約2.1倍に増加したことになります。
「解決事例②44歳の会社代表者の慰謝料等が約6倍に増額」
44歳(男性)の会社代表者の方が車で停車中に後ろから追突された交通事故。
被害者男性は、頸椎捻挫、腰椎捻挫、馬尾神経障害などの傷害を負い、自賠責後遺障害等級を申請したところ、12級が認定されました。
そこで、加害者側の保険会社から提示された慰謝料などの損害賠償金(示談金)は、418万1323円でした。
この金額と後遺障害等級に疑問を感じた被害者の方は、まずご自身で異議申立を行ないました。
すると、後遺障害等級が7級に上がったため、この時点で、みらい総合法律事務所の無料相談を利用。
弁護士の説明に納得されたため、示談解決のすべてを依頼されました。
弁護士が保険会社と交渉しましたが、決裂したため提訴。
裁判では弁護士の主張が認められ、最終的には自賠責保険からの保険金も含めて2571万円で解決しました。
保険会社の当初提示額から約6倍に増額したことになります。
会社の役員とは?
会社の役員とは、会社の業務執行や監督などを行なう経営者や幹部、上位管理者などをいい、日本の「会社法」という法律では、会社の役員は取締役、会計参与、監査役を指す、と規定されています。(会社法第329条)
またさらに、「会社法施行規則」では、執行役、理事、監事などを含めています。
被害者が損害賠償請求できる項目について
交通事故の被害で後遺症を負ってしまった場合、被害者の方は加害者側に対して損害賠償請求をすることができます。
その際、よく「慰謝料」や「損害賠償金」という言葉を使いますがこれらを同じものと捉えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
じつは慰謝料というのは、さまざまある損害賠償項目のひとつだということを覚えておいてください。
(1)交通事故の主な損害賠償項目
治療費、入院雑費、通院交通費、付添費、休業損害、傷害慰謝料、弁護士報酬、後遺障害慰謝料、逸失利益、将来介護費、将来雑費、損害賠償請求関係費用、装具・器具等購入費、家屋・自動車等改造費、修理費、買替差額、評価損、代車使用料、休車損、登録関係費、など。
(2)慰謝料には3種類ある!?
普段、何気なく慰謝料という言葉を耳にして、漠然と使っていると思いますが、じつは慰謝料には次の3つの種類があります。
① 傷害慰謝料
交通事故で傷害(ケガ)を受けたことに対する肉体的な苦痛や、入院や通院を余儀なくされることなどへの精神的苦痛を緩和するために支払われるもの。
傷害慰謝料は、事案により異なるが、入院日数や通院日数をもとに、慰謝料計算表に基づいて計算される。
② 後遺傷害慰謝料
交通事故で負った後遺症のために後遺障害が残ってしまった場合、その被った精神的苦痛に対して償われるもの。
裁判基準による
後遺障害慰謝料の相場金額
等級 | 保険金額 |
---|---|
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
精神的苦痛というのは、それぞれの事故ごと、被害者ごとにその程度が違い、各事案によって判断するのが難しいことから、上記のような概ねの相場金額が決まっている。
③ 死亡慰謝料
交通事故で死亡したことにより被った精神的損害に対して支払われるもの。
被害者の方の立場や置かれている状況などによって金額は異なる。
<死亡慰謝料の概ねの相場金額>
・一家の支柱の場合 2800万円
・母親・配偶者の場合 2500万円
・その他の方の場合 2000万~
2500万円
※その他の方=独身の男女、子供、幼児、高齢者など
※死亡慰謝料の受取人=配偶者や子などの相続人
(3)交通事故の休業損害とは?
交通事故で傷害(ケガ)を負い、その治療などのために仕事を休まざるを得なくなったことで得られなかった利益=被った損害を、休業損害といいます。
休業損害は、会社員や個人事業者、主婦など就労形態の違いによって算定方法が異なります。
休業損害について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
【参考記事】
【休業補償】交通事故で仕事や家事を休んだ時にもらえる休業損害を解説
(4)交通事故の逸失利益とは?
交通事故による後遺障害などのために仕事ができなくなることで失われた利益=本来であれば得られたはずの収入を、逸失利益といいます。
逸失利益は、被害者の方が死亡した場合も請求することができます。
会社役員の休業損害の計算
会社役員の休業損害
会社の役員の報酬は、「純粋な役員報酬」と「労務提供に対する対価の部分」に分けられます。
労務提供の対価の部分が休業により支払われなかった場合には、もちろん休業損害となります。
それに対して、役員報酬の部分は利益配当の性質をもつと考えられ、休業していても得られるため休業損害にはなりません。
ただし、注意が必要なのは、労務提供の対価部分と利益配当部分を明確に分類するのは困難な場合もあることです。
その場合は、賃金センサスの平均賃金を参考にして、会社の規模、被害者の方の役職や地位、業務内容などを総合的に考慮しながら、個別に判断することになります。
つまり、具体的にどのような労務を提供していたかを細かく立証してゆくことが必要となるわけです。
その際に考慮すべき点は、
・会社の規模
・利益状況
・役員の地位、職務内容
・年齢
・役員報酬の額
・他の役員、従業員の職務内容や報酬の額
・事故後の役員や他の役員の報酬の額
などということになります。
会社役員の休業損害に関する裁判例
裁判所は、会社は事故当時は営業損失を出していたものの、年間1200万円の役員報酬が支払われていたこと、賃金センサス、他の役員報酬や従業員の賃金との比較などをした上で、役員報酬額の70%相当額を労務の対価と認めました(東京地裁平成11年10月20日判決、出典:交民32巻5号1579頁)。
裁判所は、
・会社の規模が7名であること
・利益状況として、事故後の次期に売上高が減少し、営業損失を計上したこと
・事故後の役員報酬の減収状況、学歴等
を考慮し、労務対価部分を従前の月額130万円の70%相当額と認めました(東京地裁平成17年1月17日判決、出典:交民38巻1号57頁)。
会社役員の逸失利益
逸失利益の計算方法
逸失利益の算定式は次のようになります。
<後遺障害逸失利益>
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
<死亡逸失利益>
基礎収入 × (1-生活費控除率) × 就労可能年数に対するライプニッツ係数
ここでは、会社役員の死亡逸失利益について解説します。
「基礎収入」
・交通事故の被害で死亡しなければ、将来の労働により得られるはずだった収入。
・会社役員の場合、役員報酬を「従業員としての給与に相当する労務提供の対価の部分」と「純粋な役員報酬に相当する利益配当の部分」とに分けて考え、労務提供の対価の部分についてのみを基礎収入とする。
・休業損害と同様に、この両方の報酬を明確に分類するのは困難な場合もあるため、実際の算定では会社の規模や収益の状況、被害者の方の地位や職務、業務内容などを考慮しながら、具体的な事案ごとに判断することになる。
「生活費控除率」
・生きていればかかったはずの生活費分を、基礎収入から差し引くことを生活費控除という。
・裁判所や弁護士も使用する『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準』という書籍(通称、赤い本と呼ばれている)に記載されている生活費の控除率(目安)は次のとおり。
被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合 40%
被害者が一家の支柱で被扶養者2人以上の場合 30%
女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合 30%
男性(独身、幼児等含む)の場合 50%
「就労可能年数」
・原則として67歳までを就労可能年数とする。
・ただし、職種等によっては67歳を過ぎても就労することが可能であったと考えられる事情がある場合には、67歳を超えた分についても認められることがある。
・たとえば、定年が60歳で定められているような会社に勤務していた場合、定年後も以前と同程度の収入を得ることは困難な場合が多いため、定年後から67歳までの期間は、賃金センサスの平均賃金を基礎としたり、死亡時の実収入に一定の割合で減額した金額を基礎として計算する。
「ライプニッツ係数」
・将来、受け取るはずであった収入を前倒しで受け取るため、将来の収入時までの期間について年5%の利息を複利で差し引く係数。
・専門的には、中間利息を控除する、ともいう。
・2020年4月1日以降の事故では、民法改正により、ライプニッツ係数の率は3%となり、以降3年ごとに率が見直されることになっている。
【参考情報】国土交通省「就労可能年数とライプニッツ係数表」
会社役員の逸失利益に関する裁判例
裁判所は、稼働状況、年収、会社の業績等から、2社からの役員報酬960万円の全額を労務対価部分と認めました(札幌地裁平成9年1月10日判決、出典:判例タイムズ990号228頁)。
裁判所は、年収1620万円の中には利益配当部分も含まれており、会社の経営状況からみて収入の継続性・安定性にも問題があるとして、年収の70%を労務対価部分と認めました(大阪地裁平成7年2月27日判決、出典:交民28巻1号257頁)。
交通事故の慰謝料などを弁護士に相談するメリットとは?
冒頭の増額解決事例でお話したように、交通事故の示談交渉では被害者の方が単独で交渉しても、加害者側の保険会社はなかなか増額には応じません。
ところが、弁護士が交渉に入ると、慰謝料などの損害賠償金(示談金)が大きく増額することがよくあります。
これは一体なぜなのでしょうか?
次のページで、交通事故の示談交渉を弁護士に依頼すると慰謝料などが増額する理由と、それ以外のさまざまなメリットについて解説していますので、ぜひ参考にしてください。
今まで知らなかった事実を知ることになると思います。
詳しい解説はこちら