むち打ち後遺障害14級の慰謝料の計算方法と注意ポイント
目次
【解説動画】交通事故のむち打ち後遺障害(12級、14級)のポイントと増額事例
交通事故の傷害(ケガ)というと、「むち打ち」をイメージする人も多いかもしれません。
実際、もっとも多いケガのひとつが、むち打ちであり、同時に損害賠償実務での扱いが非常に難しいのも、むち打ち症なのです。
むち打ちになると、どのような症状が現れるのか?
後遺症が残ってしまった場合、誰が、何を補償してくれるのか?
後遺障害等級を受けるには、どんな手続きが必要なのか?
損害賠償金はできるだけ多く受け取りたいが、どうすればいい?
このような疑問や不安を抱えている被害者の方も多いでしょう。
そこで本記事では、むち打ちの後遺症で後遺障害14級が認定された場合について、その前後で必要な手続きや慰謝料などの損害賠償金の増額方法などについて解説していきます。
これから、後遺障害14級のむち打ちの慰謝料について解説していきますが、その前に交通事故解決までの全プロセスを説明した無料小冊子をダウンロードしておきましょう。
交通事故発生から示談解決までの流れを確認
通常、交通事故が発生してから示談成立までは次のような流れで進んでいきます。
同時に、さまざまな手続きも必要になってくるので、まずは全体像を知っておくと今後の示談交渉をスムーズに進めていくことができます。
なぜ後遺障害等級認定が必要なのか?
(1)症状固定とは?
入院・通院をしてケガの治療を続けたものの、これ以上の回復は見込めない、完治は難しいと判断されてしまう時があります。
その場合は、主治医から「症状固定」の診断を受けることになります。
症状固定の診断後は、被害者の方には後遺症が残ってしまうことになります。
ここで必要となるのが、ご自身の後遺障害等級です。
なぜ後遺障害等級認定を受ける必要があるのかというと、慰謝料などの損害賠償金の算定に大きく関わってくるからです。
後遺障害等級は、もっとも重度の高い1級から順に14級まであり、後遺症が残った体の部位などの違いによって各号数が設定されています。
【参考情報】
「自賠責後遺障害等級表」(国土交通省)
(2)後遺障害等級認定の申請方法は?
後遺障害等級認定の申請は、次の2つの方法があります。
①事前認定
加害者が任意保険に加入していれば、その保険会社を通して手続きをしてもらう方法です。
必要書類の用意などを保険会社が行なってくれるので、被害者の方としては手間がかからないというメリットがあります。
しかし、どのような書類を提出したのか確認できないため、被害者の方が知らないところで本来よりも低い等級が認定されてしまったり、等級が認定されないということも起きる場合があります。
②被害者請求
被害者の方がご自身で、加入している自賠責保険に対して申請する方法です。
経済的な理由もあり、最終的な示談の前に損害賠償金を受け取りたい場合にはよい方法です。
また、提出書類などは被害者の方が把握できるというメリットもあります。
一方、必要書類は被害者ご自身が集めて提出するため、手間がかかってしまうというデメリットがあります。
それぞれの申請方法にはメリットとデメリットがあるので、ご自身の経済状況などによって選択するのがいいでしょう。
むち打ちの症状や後遺症について
(1)むち打ちの原因と症状
むち打ちは、外部から首に大きな力が加わることで頭が揺さぶられ、首(頚椎)に負担がかかることで起きるものです。
交通事故でもよく起きるもので、たとえば信号待ちのために停車中、後ろから衝突されることで首に強い衝撃が加わり、むち打ちになる場合が多くあります。
むち打ちでは、首や背中の痛み、手足のしびれ、首が動かしにくい、頭痛やめまい、耳鳴り、吐き気など、さまざまな症状、不調が現れます。
診断名としては、頸椎捻挫、頸部挫傷、外傷性頸部症候群などとも呼ばれます。
(2)むち打ちの後遺症と後遺障害等級
通常、2、3か月以内で各症状は改善されていくとされていますが、中には半年以上、数年にわたって痛みなどに苦しむ被害者の方もいます。
そうした場合、医師から症状固定の診断があると後遺症が残ることになります。
むち打ちの後遺症で認定される後遺障害等級には、12級13号と14級9号があります。
認定の条件は次のものです。
・12級13号の要件:局部に頑固な神経症状を残すもの
他覚所見により神経系統の障害が証明されるもの
・14級9号の要件:局部に神経症状を残すもの
神経系統の障害が医学的に説明可能なもの
(3)むち打ち症での示談交渉がまとまりにくい理由
まず、むち打ちの症状は神経症状であるため、傷などと違って外からは見えないことがあげられます。
つまり、目に見えない傷害(ケガ)のため、わかりにくいのです。
また、その原因が医学的にはっきりわかっておらず、明確で医学的な診断方法や治療方法が確立されていないという理由もあります。
被害者の方としては、痛みなどの症状があれば治療を続けたいと考えるでしょう。
一方、加害者側(加害者が任意保険に加入していれば、その保険会社)としては、早く示談を成立させたいのにいつまでも治療を続けているのは、言葉は悪いですが「被害者はウソをついているのでは?」と考える場合があることも事実です。
その場合、過剰診療が疑われてしまうケースもあります。
14級は、もっとも軽い後遺障害と判断されるわけですが、12級との違いは「頑固な」神経症状があるかないか、そして、神経系統の障害が医学的に証明できるものかと、説明可能なものかの違いです。
後遺症の症状のつらさは被害者本人でないとわかりません。
しかし、頑固な神経症状か、そうでないかの違いを被害者本人がその違いを証明することは困難なため、後遺障害等級の認定ではさまざまな書類や医師の診断書などの提出が必要になります。
<後遺障害等級認定で提出する主な書類・資料>
・支払請求書兼支払指図書
・交通事故証明書
・交通事故発生状況報告書
・診断書
・診療報酬明細書
・通院交通費明細書
・休業損害証明書
・印鑑証明書
・委任状(被害者本人が請求できないとき)
・自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書
・レントゲン、MRI画像等
・その他症状を裏付ける検査結果や意見書等の医学的な資料 など
前述のように、むち打ち症の症状はさまざまあるため、医学的な証明がしっかりできないと正しい後遺障害等級が認定されません。
また、加害者側の任意保険会社は営利法人のため、利益を上げることが目的です。
そのため、支出となる被害者の方への慰謝料などの損害賠償金は、できるだけ低く抑えようとします。
一方、被害者の方としては、突然の交通事故の被害で後遺症が残ったのですから、できるだけ多く補償をしてほしいと思うでしょう。
そのため、示談交渉でもめてしまうことがあるのです。
後遺障害14級9号(むち打ち症)の場合の注意ポイント
(1)後遺障害14級の内容
次の表に後遺障害の内容と保険金額をまとめました。
後遺障害 | 保険金 (共済金) |
---|---|
1.一眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 2.3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 3.一耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 4.上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 5.下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 6.一手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの 7.一手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの 8.一足の第三の足指以下の一又は二の足指の用を廃したもの 9.局部に神経症状を残すもの |
75万円 |
※むち打ちの場合は14級9号
(2)後遺障害14級9号の認定で大切なこと
前述したように、神経障害における12級と14級の認定条件の違いは、自覚症状を裏づける外傷性の画像所見と神経学的所見の有無にあります。
たとえば、手にしびれがある場合、MRIなどの画像所見では神経圧迫が認められる。
しかし、その原因が外傷によるものなのか、加齢によるものなのかまでは判断できない。
といった場合、その神経系統の障害(しびれ)が他覚所見により医学的に証明はできないが、説明は可能であるということになり、14級9号が認定されるのです。
ですから、むち打ちの後遺症が残った場合は、必ずMRI等の撮影を行なうことが大切です。
さらに、スパーリングテストや徒手筋力テスト、知覚検査なども行なってもらってください。
【参考記事】
公益社団法人日本整形外科学会「むち打ち症」
後遺障害14級で受け取ることができる慰謝料は?
交通事故の慰謝料はひとつではありません。
「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」「近親者慰謝料」の4つがあるのですが、ここでは後遺障害等級14級に関わる2つの慰謝料について計算方法と金額をご紹介します。
(1)入通院慰謝料(傷害慰謝料)
交通事故で傷害(ケガ)を負い、入通院した場合に受け取ることができる慰謝料で、対象となる期間は、ケガをしてから治療を続け、症状固定までとなります。
(2)後遺障害慰謝料
症状固定の診断がされると入通院慰謝料を受けることができなくなりますが、後遺障害等級が認定されれば後遺障害慰謝料を受け取ることができます。
症状固定の前後で交通事故の損害賠償のステージが変わることに注意が必要です。
慰謝料の計算には3つの基準が使われる
慰謝料などの損害賠償金で、とても重要なことがあります。
それは、金額の算定では次の3つの基準が使われること、そして、どの基準で計算したかによって金額が大きく変わってくることです。
(1)自賠責基準
自賠責保険による基準で、3つの基準の中では、もっとも金額が低くなります。
加害者側の任意保険会社は、自賠責基準で計算した金額を提示してくることもよくあるので注意が必要です。
慰謝料や治療費などを合計した損害賠償金(保険金とも示談金ともいいます)の支払い限度は次のようになります。
<自賠責保険の支払限度額>
・被害者が死亡した場合:3000万円
・傷害による損害の場合:120万円
・傷害により後遺障害が残り、介護が必要な場合:4000万~3000万円
・その他の後遺障害の場合:1級から14級の後遺障害等級に応じて3000万円~
75万円
「支払限度額1」
神経系統の機能、精神、胸腹部臓器への著しい障害により介護が必要な場合(被害者1名につき)
自賠責法別表第1
常時介護を要する場合 (後遺障害等級1級) |
最高で4000万円 |
---|---|
随時介護を要する場合 (後遺障害等級2級) |
最高で3000万円 |
「支払限度額2」
上記以外の後遺障害の場合
第1級:最高で3000万円~第14級:最高で75万円
自賠責法別表第2
第1級 | 3000万円 |
---|---|
第2級 | 2590万円 |
第3級 | 2219万円 |
第4級 | 1889万円 |
第5級 | 1574万円 |
第6級 | 1296万円 |
第7級 | 1051万円 |
第8級 | 819万円 |
第9級 | 616万円 |
第10級 | 461万円 |
第11級 | 331万円 |
第12級 | 224万円 |
第13級 | 139万円 |
第14級 | 75万円 |
上記のように、自賠責保険では後遺症が残らなかったケガの場合の保険金の支払いの上限金額が120万円となっていますが、治療費や入通院慰謝料などでこの額を超えてしまうケースもあります。
その場合、不足分は加害者側の任意保険会社に請求しますが、保険会社が認めない場合は交渉をしていく必要がります。
(2)任意保険基準
後遺障害等級が重度の場合、自賠責保険から支払われる金額だけでは損害賠償金をまかなえないケースがあり、そうした時に備えて自動車やバイクを運転する人は任意保険に加入します。
任意保険基準は、各任意保険会社が独自に設定しているものです。
そのため、各社が非公表としていますが、自賠責基準より少し高いくらいの金額になるように設定されていると考えられます。
(3)弁護士(裁判)基準
これまでの多くの判例から導き出されている基準で、3つの中でもっとも高額になります。
法的根拠がしっかりしているため、弁護士が被害者の方の代理人として加害者側と交渉する際は、この基準で計算した金額を主張していきます。
また、裁判でも認められる可能性が高いものです。
弁護士(裁判)基準で計算した金額が、被害者の方が受け取るべき正しい慰謝料になります。
実際に慰謝料を計算してみましょう!
ここでは、自賠責基準と弁護士(裁判)基準で慰謝料計算をしてみます。
基準の違いによって、どのくらい金額が変わってくるのか、本来であれば被害者の方が受け取るべき金額はいくらくらいなのかを知っておくことが大切です。
(1)自賠責基準による入通院慰謝料
①入通院慰謝料は日額から計算する
自賠責基準での入通院慰謝料は、1日あたりの金額が4300円と定められているため、慰謝料の対象となる入通院の日数によって金額が決まります。
<入通院慰謝料の計算式>
4300円(1日あたり) × 入通院日数
= 入通院慰謝料
※改正民法(2020年4月1日施行)により改定されたもので、2020年3月31日以前に発生した交通事故の場合は4200円(1日あたり)で計算する。
②対象となる日数に注意する
入院・通院をして治療した場合は、対象日数に注意が必要です。
A)「実際の治療期間」
B)「実際に治療した日数×2」
このうち、どちらか短いほうが採用されます。
たとえば、入院せず、治療期間が5か月(150日)で、平均5日に1回(計30日間)通院した場合で考えてみます。
A)4300円×150日=645,00円
B)4300円×(30日×2)
=258,000円
となるので、
入通院慰謝料はB)の258,000円が採用されることになります。
(2)弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料
①入通院慰謝料は算定表から割出す
弁護士(裁判)基準での入通院慰謝料は計算が複雑になります。
そのため、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している『損害賠償額算定基準』に記載されている算定表から金額を割り出します。
算定表は弁護士や裁判所も使用するもので、ケガの程度の違いによって「軽傷用」と「重傷用」の2種類の算定表があります。
「弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料の算定表(むち打ちなど軽傷用)」
前述と同じ条件、入院は0、治療期間が5か月(150日)の場合で考えてみます。
軽傷用の「入院0か月」と「通院5か月」が交わったところの数字が弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料になります。
弁護士(裁判)基準では79万円、自賠責基準では25万8000円ですから、3倍以上も金額が違ってくることがわかります。
やはり、慰謝料などの損害賠償金は弁護士(裁判)基準で示談解決することが大切なのです。
(3)後遺障害慰謝料でも基準の違いは歴然!
自賠責基準と弁護士(裁判)基準での後遺障害慰謝料の等級別の金額についてまとめてみました。
後遺症による精神的苦痛の程度は事故ごと、被害者ごとで違うため、各事案によって個別に判断するのが難しく、等級認定までに膨大な時間がかかってしまうという問題もあります。
そこで、後遺障害慰謝料は次の表のように概ねの相場金額が、あらかじめ設定されています。
これは、被害者の方が慰謝料を迅速に受け取ることができるようにするためでもあります。
<自賠責基準・弁護士(裁判)基準による後遺障害慰謝料の金額表>
むち打ち症で14級が認定された場合、3倍以上違い、その差は78万円にもなります。
後遺障害慰謝料でも、弁護士(裁判)基準で示談解決することがいかに重要か、おわかりいただけるでしょう。
ここまで、むち打ち症で後遺障害14級9号が認定された場合の慰謝料など損害賠償金についてお話ししてきました。
なお、次の記事でも、むち打ち症について詳しく解説しています。
後遺障害14級9号が認定された場合に受け取ることができる損害項目(休業損害・逸失利益・慰謝料など)と金額
後遺障害12級13号の場合の損害賠償額と、14級9号との違いや金額の差
これらのことを知りたい場合は、こちらの記事も参考にしてください。