人工股関節の後遺障害等級と慰謝料の相場
目次
交通事故で、股関節に傷害(ケガ)を負う場合があります。
治療を行なって、ケガ完治すればいいのですが、主治医から症状固定の診断を受けた場合は後遺症が残ってしまうことになります。
股関節は、骨盤と大腿骨をつなぐ重要な部分ですから、後遺症があるとその後の生活に大きな支障を来すことになってしまいます。
そこで本記事では、股関節の後遺障害で人工股関節に置換した場合の、後遺障害等級と慰謝料の相場金額について解説していきます。
これから、交通事故の後遺症で人工股関節にした場合の後遺障害等級と慰謝料などについて解説していきますが、その前に交通事故解決までの全プロセスを説明した無料小冊子をダウンロードしておきましょう。
股関節の仕組みについて
股関節は、両脚の付け根にあり、骨盤と大腿骨をつなぐ部分です。
大腿骨の骨盤に近いほうの先端部分を「大腿骨骨頭(だいたいこつこっとう)」といい、球状をしています。
これが、骨盤の「寛骨(かんこつ)」にあるくぼみである「臼蓋(きゅうがい)」と呼ばれる受け皿部分と組み合わさることで、股関節がなめらかに動く仕組みになっています。
股関節の動きには、「屈曲」「伸展」「外転」「内転」「外旋」「内旋」という6つの種類があります。
股関節に傷害(ケガ)を負った場合、可動域制限などの後遺症が残ってしまうため、人工股関節に置換する手術が行われる場合があります。
【参考情報】
人工関節とは(一般社団法人日本人工関節学会)
症状固定・後遺症・後遺障害等級の関係
症状固定とは?
交通事故で傷害(ケガ)を負い、治療を続けたものの、これ以上の回復が見込めず完治は難しいとなった場合、主治医から「症状固定」の診断を受けることになります。
詳しい解説はこちら
交通事故の症状固定が被害者にとって重要な理由と注意ポイント
後遺症と後遺障害の関係は?
症状固定の診断を受けると、被害者の方には後遺症が残ってしまうことになります。
ところで、後遺症と後遺障害は何が、どう違うのでしょうか?
後遺症には次のものがあります。
「機能障害」
・高次脳機能障害による認知や行動の障害
・視力や聴力、言語能力の低下や喪失など
「運動障害」
・上肢や下肢の麻痺
・関節の可動域制限など
「神経症状」
・しびれ、痛みなど
身体のさまざまな場所にこれらの後遺症が残り、次の要件が認められると後遺障害となります。
・労働能力の低下や喪失が認められること
・その程度が自動車損害賠償保障法(自賠法)で定める後遺障害等級に該当すること
後遺障害等級が重要な理由
後遺障害が、後遺障害のままでは、被害者の方には何の補償もされません。
被った後遺障害に等級が認定されることで損害賠償請求の対象になります。
つまり、慰謝料などの損害賠償金を受け取るためには、ご自身の後遺障害等級の認定を受けることが大切になってくるのです。
後遺障害等級は、もっとも障害が重い1級から順に14級までがあり、身体の各部位や症状別に各号数が設定されています。
【参考情報】
「自賠責後遺障害等級表」(国土交通省)
股関節に関わる後遺障害等級について
股関節に後遺症が残った場合に認定される後遺障害等級には、次のものがあります。
後遺障害の内容 | 一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの |
---|---|
自賠責保険金額 | 1296万円 |
労働能力喪失率 | 67% |
後遺障害の内容 - 一下肢の三大関節中の二関節の用を
廃したもの 自賠責保険金額 - 1296万円
労働能力喪失率 - 67%
後遺障害の内容 | 一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
---|---|
自賠責保険金額 | 819万円 |
労働能力喪失率 | 45% |
後遺障害の内容 - 一下肢の三大関節中の一関節の用を
廃したもの 自賠責保険金額 - 819万円
労働能力喪失率 - 45%
後遺障害の内容 | 一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの |
---|---|
自賠責保険金額 | 461万円 |
労働能力喪失率 | 27% |
後遺障害の内容 - 一下肢の三大関節中の一関節の機能に
著しい障害を残すもの 自賠責保険金額 - 461万円
労働能力喪失率 - 27%
下肢の三大関節というのは、「股関節」「膝関節」「足首関節」になります。
「関節の用を廃する」というのは、関節などが麻痺、強直して動かせなくなった場合で、次のものをいいます。
- 関節が強直したもの
- 関節の完全弛緩性麻痺またはこれに近い状態にあるもの
- 人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち,その可動域が健側の可動域角度の
1/2以下に制限されているもの
強直(きょうちょく)とは、関節が完全に動かない、あるいは健康な関節と比較して可動域が10%以下に制限されてしまった状態です。
健側(けんそく)とは、障害がない側のことです。
☑関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、次のものをいいます。
- 関節の可動域が健側の可動域角度の1/2以下に制限されているもの
- 人工関節・人工骨頭を挿入置換した関節のうち,その可動域が健側の可動域角度の
1/2以下に制限されているもの以外のもの
☑以前は、後遺障害等級表に「人工骨頭や人工関節を挿入したもの」という基準があったのですが、現在では人工骨や人工関節の品質、耐久性が向上したため削除されています。
適切な慰謝料を受け取るために知っておきたい知識
慰謝料は4種類ある
慰謝料とは、交通事故で被った精神的苦痛や損害を慰謝するために支払われるもので、入通院費や逸失利益、将来介護費などさまざまある損害賠償項目の1つになります。
交通事故の損害賠償実務では、じつは慰謝料は1つではなく、次の4つの種類があります。
1.入通院慰謝料(傷害慰謝料)
☑交通事故で傷害(ケガ)を負い、入院・通院をして治療を受けた際に被った精神的損害に対して支払われるものです。
☑対象となる期間は、ケガの治療を開始してから、症状固定までになります。
☑1日でも通院していることが、受け取るための条件になります。
2.後遺障害慰謝料
☑症状固定後、後遺症が残った場合の精神的苦痛に対して支払われるもので、入通院慰謝料の代わりに支払われます。
☑被害者自身の後遺障害等級が認定されることで算定できるので、等級によって金額が変わってきます。
3.死亡慰謝料
☑交通事故で亡くなった被害者の方の精神的苦痛を慰謝するために支払われるものです。
☑本人は亡くなっているため、受取人は家族などの相続人になります。
4.近親者慰謝料
☑被害者の方の近親者(家族など)が被った精神的苦痛に対して支払われるものです。
慰謝料は算定基準によって金額が大きく変わる
慰謝料の算定では、次の3つの基準が使われます。
1.自賠責基準
自賠責保険により定められた基準で、3つの基準の中ではもっとも低い金額になります。
2.任意保険基準
各損害保険会社が独自に設けている基準で、非公表となっていますが、自賠責基準より少し高い金額になるように設定されています。
3.弁護士(裁判)基準
もっとも金額が高額になる基準で、被害者の方が本来受け取るべき金額が算定されます。
被害者の方から依頼を受けた弁護士が代理人となって示談交渉する際に用いる基準です。
数多くの判例から導き出された基準のため法的根拠がしっかりしており、裁判で認められる可能性が高くなります。
慰謝料の相場金額の計算方法について
ここでは、正しい入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の計算についてお話しします。
自賠責基準による入通院慰謝料
自賠責基準による入通院慰謝料は、1日あたりの金額が「4300円」と定められており、慰謝料の対象となる入通院が何日間だったのかによって金額が決まります。
ただし治療の対象日数については、次のどちらか短いほうが採用されることに注意が必要です。
1.実際の治療期間
2.実際に治療した日数×2
たとえば、入院期間は1か月、その後4か月治療を行ない、平均で週1回の通院を行なった場合で考えてみます。
1.実際の治療期間=150日間
2.実際に治療した日数×2=94日間
※(30日+1日×17週)×2
このようになるので②が採用され、入通院慰謝料は次のようになります。
弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料
弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料は、日数によってあらかじめ定められた算定表から算出します。
算定表は、通称「赤い本」と呼ばれる、日弁連交通事故相談センター東京支部が毎年発行している「損害賠償額算定基準」という本に記載されており、
被害者の方の傷害(ケガ)の状況、程度によって「軽傷用」と「重傷用」の2種類があります。
たとえば、重傷用の算定表で、1か月入院と4か月通院が交わったところを見ると、「130」となっているので、この場合の入通院慰謝料は130万円になるわけです。
後遺障害慰謝料の相場金額
後遺障害慰謝料も基準によって金額が大きく変わります。
ここでは、自賠責基準と弁護士(裁判)基準による金額を等級ごとにまとめてみました。
たとえば、股関節を損傷して人工股関節置換術の手術を受け、8級の後遺障害等級が認定された場合、弁護士(裁判)基準と自賠責基準では約500万円も後遺障害慰謝料が違ってくるわけです。
やはり、慰謝料などの損害賠償金は弁護士(裁判)基準で解決することが大切だということが、おわかりいただけると思います。
加害者側の任意保険会社から慰謝料などの提示があったら、この表の弁護士(裁判)基準の金額と比較してみてください。
おそらく、かなりの金額の差があると思います。
その場合は、すぐにでも交通事故に強い弁護士に相談してみることをおすすめします。
みらい総合法律事務所の実際の解決事例
最後に、みらい総合法律事務所で実際に解決した、股関節の後遺障害に関する増額事例をご紹介します。
示談交渉はどのように進み、慰謝料などはどのくらい増額するのか、ぜひ参考にしてください。
解決事例1:後遺障害10級/21歳男性の慰謝料等が約2.3倍に増額
21歳の男性が交通事故の被害にあい、股関節脱臼骨折などのため、後遺障害等級10級11号が認定されました。
加害者側の任意保険会社との示談交渉では約1298万円の示談金がを提示され、この時点で被害者の方は、みらい総合法律事務所の無料相談を利用。
弁護士の説明に納得ができたので、示談交渉のすべてを依頼されました。
争点となったのは、過失割合と平均賃金でした。
弁護士が保険会社と交渉を続け、最終的には被害者の方の過失割合を10%から5%に、また中卒から高卒の平均賃金での算定に変更できたことで、約2959万円で示談成立となりました。
当初提示額から約2.3倍に増額したことになります。
解決事例2:後遺障害併合8級/32歳男性の慰謝料等が2600万円で解決
32歳の男性が交通事故による傷害(ケガ)のために、人工股関節置換の手術などを行ない、左足関節機能障害、左足指機能障害などの後遺症が残ってしまいました。
被害者の方は後遺障害等級の申請や加害者側との示談交渉に不安を感じたため、後遺障害等級認定の前に、みらい総合法律事務所の無料相談を利用し、そのまま解決までのすべてを依頼されました。
弁護士が後遺障害等級認定の申請を行なったところ、人工股関節機能障害で10級11号、左足関節機能障害で12級7号、左足指機能障害で12級12号、併合で8級が認定されました。
その後、弁護士が加害者側の任意保険会社と示談交渉を行ない、最終的には2600万円で解決した事例です。
解決事例3:後遺障害併合10級/33歳男性の慰謝料などが約730万円の増額
33歳の男性が交通事故の被害にあい、脊柱圧迫骨折、大腿骨骨折のため、脊柱変形と股関節可動域制限の後遺症が残ってしまいました。
後遺障害等級は11級と12級で、併合10級が認定され、加害者側の任意保険会社からは慰謝料などの損害賠償金として、約1613万円が提示されました。
被害者の方が、みらい総合法律事務所の無料相談を利用し、そのまま示談交渉のすべてを依頼されました。
弁護士が示談交渉しましたが決裂したため提訴。
裁判では弁護士の主張が認められ、最終的には2350万円で解決したものです。
保険会社の当初提示額から約730万円増額したことになります。
交通事故の示談解決で慰謝料などの損害賠償金の増額を勝ち取るにのは、被害者の方が単独ではなかなか難しいのが現実です。
無益な交渉を重ねて時間をムダにしないためにも、まずは一度、みらい総合法律事務所の弁護士にご相談ください。