嗅覚障害(嗅覚脱失)の後遺障害等級|認定基準・慰謝料・必要な検査を徹底解説
交通事故による嗅覚障害は、日常生活に深刻な支障を及ぼす後遺症の一つです。
後遺障害と認定された場合、加害者に対して後遺障害慰謝料を請求できるようになりますが、認定を受けるには申請手続きが必要です。
本記事では、嗅覚障害の認定基準、慰謝料の目安、必要な検査について、制度的な観点から解説します。
目次
嗅覚障害とは?交通事故などで
起こる原因と症状の特徴
嗅覚障害は、風邪をひいた際に発症することがありますが、交通事故が原因で引き起こされることもある障害です。
嗅覚障害の定義と分類
嗅覚障害とは、においを感じる能力が低下または完全に失われた状態を指します。
症状は、においを全く感じられなくなる「嗅覚脱失」と、一部のにおいのみが分からなくなる「嗅覚低下」に大別されます。
原因としては、嗅神経や嗅覚受容体の損傷のほか、感染症や薬剤の影響、外傷などが挙げられます。
交通事故では、頭部外傷や鼻腔の損傷によって嗅覚障害が発症するケースがあり、後遺障害として認定されることもあります。
交通事故で発生する嗅覚障害
交通事故による嗅覚障害は、頭部外傷や鼻腔・副鼻腔の損傷によって発生します。
発症の仕組みによって、気導性・嗅神経性・中枢性の3種類に分類されます。
気導性嗅覚障害
気導性嗅覚障害は、鼻から吸い込んだ空気が嗅細胞に到達できないために起こる障害です。
一般的には、慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎による鼻づまりが原因となることが多いです。
交通事故では、鼻骨を骨折した場合に鼻中隔が変形し、鼻詰まりが生じて気導性嗅覚障害が発症することがあります。
嗅神経性嗅覚障害
嗅神経性嗅覚障害は、ウイルス感染や薬物、頭部外傷などが原因で、嗅神経や嗅細胞自体が損傷することで生じます。
風邪の後に見られることが多い症状ですが、交通事故で顔面を負傷した場合には、嗅神経が損傷して嗅神経性嗅覚障害となるケースもあります。
中枢性嗅覚障害
中枢性嗅覚障害は、脳の嗅覚経路に障害が生じ、においが分からなくなる状態です。
頭部外傷や脳腫瘍、脳梗塞などが原因で発症することがあります。
交通事故では、頭部の損傷による脳挫傷や脳出血が原因となることがあり、嗅覚の低下だけでなく、認識や区別の能力の低下を伴うこともあるため、早期の診察が必要です。
嗅覚障害の後遺障害等級
嗅覚障害が後遺障害として認定されるには、医学的な検査結果と日常生活への支障が要件となります。
ここでは、自賠責保険における等級分類と認定基準について解説します。
鼻を欠損し、その機能に
著しい障害を残す場合
交通事故によって鼻の軟骨の全部または大部分が欠損し、鼻呼吸が困難になるなど、機能に著しい障害が残った場合、後遺障害等級第9級5号に認定される可能性があります。
また、鼻の欠損が「外貌に著しい醜状を残すもの」と判断された場合には、第7級12号に認定される可能性があります。
嗅覚が失われた場合
交通事故による鼻の欠損はないものの、嗅覚が完全に失われた場合には、後遺障害等級第12級相当に認定される可能性があります。
嗅覚が低下した場合
交通事故による鼻の欠損はないものの、嗅覚が低下した場合には、後遺障害等級第14級相当に認定される可能性があります。
後遺障害等級認定のために
必要な検査・診断書のポイント
嗅覚障害の後遺障害等級を認定してもらうには、医学的検査と診断書の内容が極めて重要です。
嗅覚障害の発症時期と経過
交通事故による嗅覚障害は、受傷直後に自覚される場合もありますが、数日から数週間後に徐々に気づくケースも少なくありません。
発症初期は風邪による鼻づまりや頭痛に紛れて見過ごされやすく、診断が遅れることがあります。
症状の程度は一過性の軽微なものから永続的な障害まで幅があり、交通事故との関連が疑われる場合には、早期の医学的評価が後の後遺障害認定に大きく影響します。
後遺障害は、治療を続けても改善が見込めないと医師が判断する「症状固定」を経て初めて認定の対象となります。
したがって、認定を受けるためには、事故直後の受診と、その後の継続的な通院が欠かせません。
嗅覚検査の種類
嗅覚障害の代表的な検査方法としては、「T&Tオルファクトメーター」や「静脈性嗅覚検査」などが用いられます。
T&Tオルファクトメーター
T&Tオルファクトメーターは、5種類のにおいを段階的に提示し、嗅覚の感度を数値化する方法です。
においを認知できた最も低い濃度を「認知域値」として評価します。
認知域値が2.6~5.5の場合は「嗅覚減退」とされ、5.6以上になると「嗅覚逸失」と判断されます。
静脈性嗅覚検査(アリナミンテスト)
静脈性嗅覚検査は、薬剤を静脈に注入し、嗅覚反応を測定する方法です。
嗅覚経路や神経系の障害を評価する際に有効であり、嗅覚障害の有無や程度を医学的に裏付ける検査として利用されます。
後遺障害診断書の作成依頼
後遺障害等級の認定申請を行う際には、医師に後遺障害診断書の作成を依頼する必要があります。
診断書には、嗅覚検査の数値結果、症状の持続期間、日常生活への影響、医師の所見などを具体的に記載しなければなりません。
嗅覚障害の場合でも、「嗅覚逸失」と「嗅覚減退」では認定される後遺障害等級が異なります。
単なる「嗅覚低下あり」といった抽象的な記載では認定されない可能性があるため、継続的な通院記録や反復検査の結果を含め、症状の変化や生活上の支障を客観的に示すことが重要です。
画像診断(CT・MRI)による
頭部損傷の補足資料
嗅覚障害が頭部外傷に起因する場合、CTやMRIによる画像診断は補足資料として有効です。
検査で前頭葉や嗅神経周辺の損傷が確認できれば、嗅覚障害との因果関係を医学的に裏付ける根拠となります。
画像所見と嗅覚検査を併用することで障害の客観性が補強されるため、後遺障害等級認定に有利に働きます。
嗅覚障害の後遺障害等級による
慰謝料・賠償金の相場
嗅覚障害が後遺障害として認定された場合、等級に応じて慰謝料や逸失利益を算定し、加害者に対して賠償請求することになります。
後遺障害慰謝料の算定基準
交通事故による慰謝料の算定方法には、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」の3種類があります。
自賠責基準は、自賠責保険によって定められた最低限の補償額を算定するための基準です。
3種類の中で最も水準が低いため、この基準で慰謝料を計算すると十分な賠償を受けられない可能性があります。
任意保険基準は、各保険会社が独自に設定している基準です。
自賠責基準より高額になる傾向がありますが、会社ごとに基準が異なるため、提示された金額の妥当性を判断するのは容易ではありません。
弁護士基準(裁判基準)は、過去の裁判例に基づいて算定される基準です。
適用には根拠となる資料の提出が必要ですが、3種類の中で最も高額な慰謝料が認められる可能性があります。
嗅覚障害で請求できる
後遺障害慰謝料の目安
嗅覚障害に対する慰謝料は、認定等級だけでなく、算定基準によっても大きく異なります。
下記の表は、自賠責基準と弁護士基準による後遺障害慰謝料の目安です。
<後遺障害慰謝料の目安>
| 等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
|---|---|---|
| 第9級5号 | 249万円 | 690万円 |
| 第12級相当 | 94万円 | 290万円 |
| 第14級相当 | 32万円 | 110万円 |
逸失利益
(収入減少分を補償する仕組み)
逸失利益とは、後遺障害によって将来得られるはずだった収入の減少分を補償するものです。
認定された後遺障害等級が重いほど、受け取れる逸失利益は増える傾向にあります。
ただし、嗅覚障害はすべての職業に影響するとは限らないため、仕事への影響度合いを具体的に示すことが重要です。
たとえば交通事故の被害者が料理人の場合、嗅覚は業務に不可欠であるため、逸失利益が認められる可能性が高いといえます。
また、被害者の収入状況によっても金額は変動するため、弁護士に相談して請求額を算出することが望ましいです。
嗅覚障害の後遺障害認定が難しい
理由と非該当にならないための対策
嗅覚障害は、他の後遺障害と比べて認定が難しく、非該当と判断されるケースも少なくありません。
嗅覚障害の主観性と
検査結果のばらつき|
客観的証明の難しさ
嗅覚障害は本人の自覚症状に依存する部分が大きく、客観的に証明することが難しいとされています。
検査結果にも個人差や日によるばらつきがあり、同じ患者でも異なる結果が出ることがあります。
また、事故から数か月経過すると症状が改善する場合もあるので、継続的かつ複数回の検査が必要とされます。
主観性を補うためには、単一の検査結果だけでは信頼性が不十分と判断されることもあるため、客観的資料の整備が欠かせません。
嗅覚障害の認定における
書類整備の重要性
後遺障害等級の申請を行う際には、必要書類の内容を精査し、形式と記載を整える必要があります。
嗅覚検査を実施していない場合や診断書の記載が不十分な場合、非該当と判断される可能性が高まります。
認定率を向上させるには、T&Tオルファクトメーターなど信頼性の高い検査を複数回行い、症状の持続性と一貫性を示すことが重要です。
診断書には検査結果の詳細だけでなく、日常生活への影響や医師の具体的所見を明記し、さらに画像診断や通院記録を添付することにより、医学的根拠を補強することも求められます。
弁護士に手続きを依頼する
後遺障害の認定には専門的な知識と経験が不可欠であるため、弁護士に手続きを依頼することは有効な選択肢です。
弁護士や専門機関のサポートを受ければ、適切な検査機関の紹介、診断書の内容確認、申請書類の整備などが行われ、認定の可能性を高めることができます。
慰謝料の金額は、後遺障害の有無によって大きく変動するため、法的対応を一貫して専門家に任せることも検討すべきです。
交通事故の嗅覚障害は
早めに弁護士へ相談すること
交通事故による嗅覚障害は、後遺障害等級の認定が難しく、非該当となるリスクが高い分野です。
適正な賠償を得るためには、早い段階で交通事故に精通した弁護士へ相談し、検査結果や診断書の確認、申請書類の整備などを専門的にサポートしてもらうことが欠かせません。
弁護士の助力を得ることで、認定の可能性を高め、慰謝料や逸失利益の回復につなげることができます。
交通事故による嗅覚障害でお困りの場合は、まずは一度、みらい総合法律事務所の無料相談をご利用ください。
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代表社員 弁護士 谷原誠





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