会社役員(取締役)の慰謝料・逸失利益・休業損害の計算方法
会社役員(取締役)の方が交通事故の被害にあった場合の休業損害・逸失利益・慰謝料の内容と計算方法、注意ポイントなどについて
当事務所の解決事例を例に出しながらわかりやすく解説していきます。
入院中の損害は誰に請求すればいい?
後遺症が残ってしまったら、どうすればいいのか?
また働くことができるだろうか…家族の将来も不安だ…
以前のように働けなくなった場合、誰がどのくらい補償してくれるのか?
こうした様々な疑問や不安を解決していきましょう。
目次
休業損害の内容は?どのように計算するのか?
入通院してケガの治療をした際に、得ることができなかった(失った)収入分=減収分が休業損害です。
知っておきたい休業損害の知識
ケガの治療が始まってから完治するまで、あるいは医師から症状固定の診断をされるまでの間の休業について自賠責保険に請求することができます。
症状固定とは、これ以上の治療を続けても完治の見込みの状態がないことで、これ以降、被害者の方には後遺症が残ることになります。
自賠責保険でのケガへの補償の限度額は
120万円です。
治療費や休業損害が120万円を超えた場合、加害者が任意保険に加入していればその任意保険会社に不足分を請求することになります。
なお、加害者が任意保険に加入している場合はその任意保険会社が被害者の方の治療費や休業損害を一括して支払うことが多いです。
休業損害を請求する際は、休業したことを証明する「休業損害証明書」を提出します。
症状固定により後遺症が残ってしまった場合は、入通院慰謝料と休業損害は受け取ることができなくなりますが、ご自身の後遺障害等級が認定されれば、新たに「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」を受け取ることができます。
会社役員(取締役)の休業損害の内容と計算方法とは?
交通事故のケガによって就労できなかった期間の労務提供の対価部分について休業損害が認められます。
会社の取締役、役員が受け取る報酬は、①利益配当的な部分(役員報酬)と、②労務の対価としての給与部分に分けることができます。
このうちの②労務の対価部分のみが休業損害として認められる、ということです。
具体的には、会社の規模、利益、会社内での地位、職務内容、役員報酬の額、他の役員・従業員の給与の金額、交通事故後の当該役員・他の役員の給与額等を検討することになります。
利益配当部分がないと認められるサラリーマン役員の場合には、全額が労務対価部分とされることもあります。
東京地裁平成15年3月27日判決は、一部上場企業の子会社の雇われ社長について、1320万円全額を労務対価部分として認めました。
「労務の対価としての給与部分」
・就労が不可能になり会社から支給されなくなれば、当然その分は休業損害として認められます。
・しかし、実際には明確に算定することが困難なため、「賃金センサス」の平均賃金を参考にしながら、会社の規模や被害者の方の会社での役割、地位、業務内容、利益状況などを総合的に考慮して、個別に労務提供の対価部分を算出します。
※賃金センサスとは、厚生労働省が毎年実施している「賃金構造基本統計調査」の結果から出されているもので、職業や年齢、性別等によって労働者の平均賃金がわかるようになっています。
「利益配当的な部分(役員報酬)」
働くかどうかとは関係がなく、休業していても得られるので、休業損害とは認められません。
休業損害は次の計算式で求めます。
基礎収入(日額) × 休業日数 = 休業損害
これらの内容を踏まえた上で、下のリンクの交通事故解決までの全プロセスを説明した小冊子を読んでみてください。無料でダウンロードできるのでお気兼ねなく利用してください。
<みらい総合法律事務所の増額解決事例①>
49歳男性(会社役員)の方が自動車を運転中、緊急車両が接近したため自動車を停止したところに後方から走行してきた加害車両が追突してきた交通事故。
右膝十字靭帯を損傷し、治療のかいなく症状固定後、神経症状の後遺症が残ったため、後遺障害等級認定を申請。
12級7号が認定され、加害者側の任意保険会社からは治療費などの既払い金の他、慰謝料などの損害賠償金として約637万円が提示されました。
被害者の方は、この金額に疑問を感じたため、みらい総合法律事務所の無料相談を利用。
弁護士の説明に納得がいったため、示談交渉のすべてを依頼されました。
弁護士が保険会社と交渉したところ、被害者の方が会社役員のため休業損害や逸失利益が争点となりましたが、最終的には弁護士の主張が認められ、1210万円で解決。
当初提示額から約2倍に増額した事例です。
会社役員(取締役)の逸失利益と計算方法
こっからは会社役員、取締役の逸失利益と計算方法を解説していきます。
逸失利益はひとつではない?
逸失利益とは、交通事故で負った傷害(ケガ)が原因で以前のように働くことができなくなったために、将来的に得ることができなくなってしまった収入分です。
逸失利益には、「後遺障害逸失利益」と「死亡逸失利益」の2つがあります。
後遺障害逸失利益の内容と計算方法は?
症状固定により後遺症が残り、後遺障害等級が認定された場合に後遺障害逸失利益を受け取ることができます。
【参考情報】
「自賠責後遺障害等級表」(国土交通省)
休業損害は受けられなくなりますが、後遺障害逸失利益のほうが金額は大きくなります。
<後遺障害逸失利益の計算式>
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
= 後遺障害逸失利益
①基礎収入
原則として、事故前の収入額を基礎としますが、休業損害と同様、会社役員の場合は「利益配当的な部分(役員報酬)」と、「労務の対価としての給与部分」とに分けて考え、労務提供の対価の部分についてのみを基礎収入とします。
ただし、実際には明確に分けて算定することは困難なため、休業損害と同様に「賃金センサス」の平均賃金を参考にしながら、会社の規模や被害者の方の会社での役割、地位、業務内容、利益状況などを総合的に考えながら事案ごとに判断していきます。
なお、将来的に現実収入額以上の収入を得られる立証があれば、その金額を基礎収入とします。
②労働能力喪失率
認定された後遺障害等級(1~14級)ごとに定められた率があるため、基本的にはこれを用います。
ただし、実際の算定では、被害者の方の「職業」「年齢」「性別」「後遺症の部位と程度」「事故前後の労働状況」などを勘案し、総合的に判断していきます。
<労働能力喪失率早見表>
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
③労働能力喪失期間
被害者の方が、あと何年間働くことができたのかを仮定するもので、原則として67歳までとされます。
ただし、職種等によって67歳を過ぎても就労することが可能であったと考えられるような場合には、67歳を超えた分についても認められることがあります。
労働能力喪失期間の始期は症状固定日とされますが、期間も含めて被害者の方の職種や地位、能力、健康状態などによって別の判断をされる場合もあります。
※たとえば、交通事故の傷害でもっとも多い「むち打ち症」の場合、後遺障害12級で
10年ほど、14級では5年程度とされる場合が多いため、個々の具体的な症状で判断していくことが重要になるのです。
症状固定時の年齢が67歳以上の場合は、原則として労働能力喪失期間は簡易生命表の平均予命の2分の1とされます。
※なお、症状固定時から67歳までの年数が簡易生命表の平均余命の2分の1より短くなる場合は、原則として平均余命の2分の1とされます。
【参考情報】(厚生労働省)
令和2年簡易生命表(男)
令和2年簡易生命表(女)
④ライプニッツ係数
将来的な金利分の差を調整するために用いる係数です(現在と将来ではお金の価値に変動があるため)。
※逸失利益は、将来に受け取るはずだった金額(収入)を前倒しで現在、被害者の方が受け取ることになるので、金利分を差し引かずに、そのまま支払ってしまうと保険会社が損をするため。
ライプニッツ係数の算出は複雑で難しいため、あらかじめ算出されている「ライプニッツ係数表」から数字を求めます。
死亡逸失利益の内容と計算方法はどうでしょう?
被害者の方が亡くなった場合は死亡逸失利益を受け取ることができます。
受取人は被害者の方の相続人になります。
死亡逸失利益は次の計算式で求めます。
<死亡逸失利益の計算式>
(基礎年収額)×(就労可能年数に対するライプニッツ係数)×(1-生活費控除率)
=(死亡逸失利益)
生活費控除率とは、生きていればかかったであろう生活費分を基礎収入から差し引く際に用いるものです。
※原則として、後遺症がある場合は生活費を控除しませんが、死亡事故の場合は控除します。
生活費控除率は、被害者の方の家庭での立場や状況によって、概ねの相場の割合が次の表のように決まっています。
<生活費控除率の目安>
被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合 | 40% |
---|---|
被害者が一家の支柱で被扶養者が2人以上の場合 | 30% |
被害者が女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合 | 30% |
被害者が男性(独身、幼児等含む)の場合 | 50% |
被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合 | 40% |
---|---|
被害者が一家の支柱で被扶養者が2人以上の場合 | 30% |
被害者が女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合 | 30% |
被害者が男性(独身、幼児等含む)の場合 | 50% |
後遺障害逸失利益の計算例
ここでは、次のような条件で計算してみます。
・55歳の男性会社役員(症状固定時)
・後遺障害等級:7級4号(高次脳機能障害の後遺症)
・基礎収入:480万円(前年度の役員報酬から利益配当部分を除いた給与分)
・労働能力喪失率:56%(後遺障害等級7級と仮定)
・ライプニッツ係数:11.296(就労可能期間14年の数値)
「計算式」
4,800,000円 × 0.56 × 11.296 = 75,909,120円
後遺障害逸失利益は、7590万9120円
<みらい総合法律事務所の増額解決事例②>
44歳男性(会社代表者)の方が停車中、後方から加害車両に追突された交通事故。
被害者の方は、頸椎捻挫、腰椎捻挫、馬尾神経障害などの傷害を負い、後遺症が残ったために後遺障害等級認定を申請したところ、12級が認定されました。
加害者側の任意保険会社は慰謝料などの損害賠償金として約418万円を提示。
被害者の方は後遺障害等級に疑問を持ち、異議申立を申請したところ、7級に等級がアップ。
この時点でみらい総合法律事務所の無料相談を利用し、そのまま示談交渉を依頼されました。
弁護士が保険会社と交渉しましたが決裂したため提訴。
裁判では弁護士が丁寧に立証を重ね、最終的には自賠責保険からの保険金を含めて
2571万円で解決した事例です。
当初提示額から約6倍に増額したことになります。
死亡逸失利益の計算例
ここでは、次の条件で計算をしてみます
・47歳(男性)
・基礎収入:850万円(前年度の役員報酬から利益配当部分を除いた給与分)
・労働能力喪失率:100%
・ライプニッツ係数:14.877(67歳までの就労可能期間20年の数値を用いる)
・生活費控除率:30%
「計算式」
8,500,000円 ×14.877 ×
(1-0.3) = 88,518,150円
死亡逸失利益は、8851万8150円
<みらい総合法律事務所の増額解決事例③>
71歳の会社経営者(女性)が青信号で交差点を横断歩行中、右折車に衝突された交通死亡事故。
四十九日が過ぎ、加害者側の任意保険会社はご遺族に慰謝料などの損害賠償金として
約2475万円を提示。
この金額が妥当なものかどうか確認するため、みらい総合法律事務所の無料相談を利用したところ、弁護士の見解は「まだ増額が可能」というものだったため、示談交渉を依頼されました。
弁護士が保険会社と示談交渉をしましたが増額に応じなかったため提訴。
裁判では逸失利益と生活費控除率が争点となりましたが、最終的には当初提示額から
約2.1倍の5350万円まで増額して解決した事例です。
交通事故の慰謝料の種類と計算で大切なこと。交通事故の慰謝料は1つではない?
じつは慰謝料は1つではなく、次の4つがあります。
①入通院慰謝料
入通院をして治療を受けた場合に請求できる慰謝料。
②後遺障害慰謝料
症状固定の診断を受け、後遺症が残り、後遺障害等級が認定された場合に請求できる慰謝料。
③死亡慰謝料
被害者の方が亡くなった場合に請求できる慰謝料(受取人は相続人)。
④近親者慰謝料
被害者の方に重度の後遺症が残った場合や亡くなった場合に、ご家族などの近親者が被った精神的苦痛や損害に対して支払われる慰謝料。
なぜ慰謝料等の計算では弁護士(裁判)基準が重要なのでしょう?
慰謝料などの計算では、①自賠責基準、②任意保険基準、③弁護士(裁判)基準という3つの基準が使われます。
加害者が任意保険に加入しているなら、示談交渉の相手はその保険会社になりますが、ここで知っておいていただきたいのは、保険会社はもっとも金額の低くなる自賠責基準や任意保険基準の金額を提示してくる場合がほとんど、という現実です。
しかし、被害者の方やご遺族が受け取るべき本当の金額は、もっとも高額になる弁護士(裁判)基準で計算したものです。
つまり、慰謝料などで損をしないためには、弁護士(裁判)基準による慰謝料を主張し、示談をすることが大切だということなのです。
ケガが完治した場合の慰謝料の計算方法とは?
①自賠責基準の場合の入通院慰謝料
自賠責基準での入通院慰謝料は、1日あたりの金額が定められているため、慰謝料の対象となる入通院が何日間になったのかによって金額が違ってきます。
<入通院慰謝料の計算式>
4300円(1日あたり) × 入通院日数
= 入通院慰謝料
自賠責基準により、1日あたりの金額は
4300円と定められています。
※この金額は、改正民法(2020年4月1日施行)により改定されたもので、2020年3月31日以前に発生した交通事故の場合は4200円(1日あたり)で計算します。
入通院をして治療した場合の対象日数は、次のどちらか短いほうが採用されます。
A)「実際の治療期間」
B)「実際に治療した日数×2」
たとえば、入院せず、治療期間が2か月(60日)で、3日に1回(計20日間)通院した場合で考えてみます。
A)4300円×60日=252,00円
B)4300円×(20日×2)
=172,000円
となるので、入通院慰謝料は、B)が採用されることになります。
自賠責保険金には上限があり、後遺症が残らなかったケガの場合の支払い限度額は
120万円になります。
しかし、治療費や入通院慰謝料などで上限を超えてしまうケースは現実にあります。
そうした場合、120万円を超えた分については加害者側の任意保険会社に請求、交渉をしていくことになります。
②弁護士(裁判)基準の場合の入通院慰謝料
入通院慰謝料を弁護士(裁判)基準で計算する場合、複雑で難しいため、『損害賠償額算定基準』(日弁連交通事故相談センター東京支部刊)に記載されている算定表を使います。
これは、弁護士や裁判所でも使用するものです。
ケガの程度によって、「軽傷用」と「重傷用」の2種類の算定表があるので注意してください。
「弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料(むち打ちなど軽傷)の算定表」
「弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料(重傷)の算定表」
たとえば、入院は0、治療期間が2か月(60日)で、3日に1回(計20日間)
通院した場合の金額は、軽傷用の「入院0か月」と「通院2か月」が交わったところの
「36万円」になります。
弁護士(裁判)基準では、自賠責基準の金額の2倍以上の金額になるという事実を見逃さないでください。
後遺障害が残った場合の慰謝料の計算方法は?
認定された後遺障害等級(1~14級)によって、あらかじめ慰謝料の相場金額が決められています。
なぜかというと、できるだけ迅速に被害者の方に慰謝料などの損害賠償金を支払うためです。
そもそも後遺症による精神的苦痛の程度は事故ごと、被害者ごとで違うため、各事案によって判断するのが難しく、算定までに膨大な時間がかかってしまいますし、そうなると被害者の方に支払われるのにかなりの時間がかかってしまうからです。
<自賠責基準・弁護士(裁判)基準による後遺障害慰謝料の金額表>
死亡慰謝料にも相場金額がある?
①自賠責基準の死亡慰謝料の相場金額
自賠責保険では、死亡慰謝料は被害者本人の死亡慰謝料と、ご家族などの近親者慰謝料の合算として扱われることに注意が必要です。
被害者本人の死亡慰謝料:400万円(一律)
近親者慰謝料:配偶者・父母(養父母も含む)・子(養子・認知した子・胎児も
含む)の人数によって金額が変わる。
・1人の場合/550万円
・2人の場合/650万円
・3人の場合/750万円
※被扶養者の場合は上記の金額に200万円が上乗せされる。
②弁護士(裁判)基準の死亡慰謝料の相場金額
被害者の方の家庭での立場や状況によって、相場金額が次のように設定されています。
被害者が一家の支柱の場合 | 2800万円 |
---|---|
被害者が母親・配偶者の場合 | 2500万円 |
被害者がその他(独身者・幼児・高齢者など)の場合 | 2000万~2500万円 |
- 被害者が一家の支柱の場合
- 2800万円
- 被害者が母親・配偶者の場合
- 2500万円
- 被害者がその他(独身者・幼児・高齢者など)の場合
- 2000万~2500万円
※ただし、事故の状況、加害者の悪質性などによって金額が変わる場合がある。
弁護士に相談してみてください
冒頭の増額解決事例でお話したように、交通事故の示談交渉では被害者の方が単独で交渉しても、加害者側の保険会社はなかなか増額には応じません。
ところが、弁護士が交渉に入ると、慰謝料などの損害賠償金(示談金)が大きく増額することがよくあります。
被害者ご本人は、適正金額がいくらであるか、わかりません。
私たちの事務所は相談は無料です。24時間電話受付もしております。
お気兼ねなくご相談ください。
代表社員 弁護士 谷原誠