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高次脳機能障害の後遺障害等級と慰謝料の計算

最終更新日 2021年 10月28日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠


交通事故の高次脳機能障害で慰謝料が大幅アップした事例

交通事故で負う可能性のある「高次脳機能障害」は、労働だけでなく日常生活でも支障をきたし、行動や人格の変化を伴うこともある、重い後遺症です。

そのため、事故被害者に対しては慰謝料や将来介護費用を十分支払われるべきですが、その金額が大きいことから、負担を極力減らそうとする加害者から様々な主張が飛び出します。

リハビリ生活や介護の負担を思えば、事故加害者の提示額をすぐに受け入れるべきではありません。

被害者に有利な事情は毅然と主張し、後遺症の状況を丁寧に立証すれば、慰謝料の増額は十分可能です。

以降では、高次脳機能障害の症状や後遺障害等級認定の基準をおさえつつ、支払い額の大幅な増額に成功した例と示談のポイントを紹介します。


【動画解説】   交通事故の高次脳機能障害の解決事例

高次脳機能障害の症状

高次脳機能障害とは、脳の血流障害や損傷の影響により、認知機能の働きに問題が生じた状態を言います。

初診時に意識レベル低下や健忘が6時間以上続いた場合に現れやすく、画像検査では脳の器質的損傷が確認されます。

なお、ここで言う「認知機能」とは、記憶・注意力・集中力といった思考判断を司る機能と、快・不快といった感情の動きを含めた、精神機能の全体を言います。

その障害の現れ方は、身の回りのことがまったく出来ない人から、見た目は健康であるものの外出や会話の際に支援を必要とする人まで、実に様々です。

【参考】高次脳機能障害の種類

障害の
種類
典型的な症状
注意障害 作業に集中できない、作業中の声かけに反応できない
記憶障害 最近の出来事や行動が思い出せない、約束を忘れてしまう
失語症 言葉が出てこない、字が読めない
地誌的障害 よく知る場所で道に迷う、地図の読み書きが出来ない
遂行機能障害 作業を計画的にこなせない、作業中のトラブルに対処できない
社会的行動障害 やる気がない、怒りっぽくなる、衝動的に行動してしまう
半側空間無視 空間の半分に注意が向かない
半側身体失認 麻痺した側の身体に注意が向かない
失認症 家族の顔や声が分からない、見えているものが何か分からない
失行症 意図した動作ができない、日用品の使用方法が分からない

高次脳機能障害のより厄介な点は、見過ごされる場合が少なくない点です。

事故直後の急性期には、他の外傷に隠れてしまうせいで、専門医でも診断できない場合があります。

家族と会話できるようになるまで回復した時点でも、行動や性格が「以前と違う」と気づくのが関の山です。

それが事故を受け止めきれない心境によるものか、それとも器質的損傷によるものか、親しい人でもなかなか見抜けません。

【参考記事】
「高次脳機能障害を理解する」国立障害者リハビリテーションセンター

高次脳機能障害の慰謝料が低くなりやすい理由


以上のような医学的特徴から、高次脳機能障害を負った人の苦痛は耐えがたく、本人や周囲の人の経済的負担も増します。

当然、交通事故の被害者に対する損害賠償額(慰謝料等)は、左記に見合ったものであるべきです。

しかし残念ながら、高次脳機能障害事案において、加害者側が提示する金額は、妥当性のある金額に比べて低くなりやすいと言わざるを得ません。

慰謝料算定に用いるべき「弁護士基準」(裁判基準)ではなく保険会社の任意保険基準、あるいは、さらに低い自賠責基準を提示してくる場合もあります。

低い金額で示談しようとする保険会社と高額の賠償金を得ようとする被害者との対立が生じます。

被害者側としては、1人ひとりの状況について丁寧に立証しつつ、訴訟を視野に入れ、粘り強く交渉しなければなりません。

提示金額が低い場合に、弁護士が示談交渉をすると増額する理由について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

【参考記事】
交通事故で弁護士が示談交渉すると慰謝料が増額する理由

みらい総合法律事務所の実際の解決事例


これから紹介するのは、いずれもみらい総合法律事務所の弁護士による交渉で増額に成功したケースです。

解決事例のごく一部に過ぎないものの、高次脳機能障害の損害賠償額の大きさ、そして加害者が提示する金額の低さが分かります。

【事例1】28歳女性で2300万円増額

被害者(28歳女性・アルバイト店員)が交通事故で脳挫傷等の傷害を負い、高次脳機能障害で後遺障害等級9級が認定されたケースです。

加害者側の保険会社は示談金として1600万円を提示しましたが、弁護士は低すぎると判断しました。

正式な依頼を受け、みらい総合法律事務所が交渉した結果、3900万円(2300万円の増額)の支払いで解決できています。

【事例2】28歳男性で約2310万円増額

被害者(28歳男性・トラック運転手)が自動車を運転していたところ、交差点で右折車に衝突された事故です。

脳挫傷等の障害を負い、高次脳機能障害で後遺障害等級7級に認定されました。

加害者側の保険会社は、当初2133万円6908円の支払いを提示していましたが、左記金額について弁護士は「増額可能」と判断しています。

その後正式な依頼があり、みらい総合法律事務所が交渉を進めた結果、4400万円(約2310万円の増額)の支払いで解決できました。

【事例3】66歳女性で約7000万円獲得

被害者(66歳女性)が助手席同乗中に交通事故に遭い、頭部外傷を負った事故です。治療のかいなく高次脳機能障害を負い、後遺障害等級2級に認定されました。

被害者は当初から「自力解決は難しい」と判断し、加害者側の保険会社との交渉は弁護士に委ねています。

結果、7016万円2284円の支払いで解決できました。

本事例では、自宅付添費と将来介護費用が争点となりました。

いずれも多額に及ぶため、みらい総合法律事務所への相談がなければ、多額の損失に繋がっていたと考えられます。

【事例4】75歳男性で約2290万円増額

被害者(75歳男性)が交通事故で脳挫傷などの傷害を負い、重い高次脳機能障害で後遺障害等級2級に認定されたケースです。

加害者側の保険会社は当初、既払金を除いて25万2789円とごく少額の示談金を提示していました。

左記提示額が明らかに少なすぎる点を受け、みらい総合法律事務所が交渉を開始し、訴訟まで粘り強く対応を続けた結果、2315万円(約2290万円増額)の支払いで解決できました。

争点となったのは、被害者の逸失利益と過失割合でした。どちらも事故の検証や交渉経験が欠かせず、弁護士に依頼する決断が大成功に繋がったと言えます。

その他の解決事例をもっと詳しく見たい方は、以下の記事を参考にしてください。

【参考記事】
みらい総合法律事務所の解決実績はこちら

高次脳機能障害の等級認定基準


事例のように妥当性のある慰謝料を獲得するには、まず後遺症の実態に合う等級を得なければなりません。

なお、高次脳機能障害の等級認定は、交通事故によって残存する他の症状と同じように「後遺障害診断書」を中心に行われます。

他の障害と異なるのは、等級認定の基準が「高次脳機能障害認定システム」にまとめられている点です。

まずは、認定される可能性のある等級から確認してみましょう。 

後遺障害等級 概要 労災保険の認定基準(詳細は後述)
1級1号(別表1)(別表1) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 食事や入浴等に常時介護を要する、高度の痴ほうがあり常に監視する必要がある
2級1号(別表1)(別表1) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 食事や入浴等に随時介護を要する、痴ほうや幻覚等があり随時監視する必要がある
3級3号(別表2)(別表2) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 4能力のうち1つ以上の能力を全部喪失、または2つ以上の能力の大部分喪失
5級2号(別表2)(別表2) 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 4能力のうち1つ以上の能力を大部分喪失、または2つ以上の能力の半分程度喪失
7級4号(別表2)(別表2) 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 4能力のうち1つ以上の能力を半分程度喪失、または2つ以上の能力の相当程度喪失
9級
10号(別表2)(別表2)
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 4能力のうち1つ以上の能力の相当程度喪失
12級
13号(別表2)(別表2)
局部に頑固な神経症状を残すもの 通常の労務に服せるが、多少能力を喪失している
14級
9号(別表2)(別表2)
局部に神経症状を残すもの 通常の労務に服せるが、わずかに能力を喪失している

【参考情報】
国土交通省「自賠責後遺障害等級表」

高次脳機能障害認定システムとは

「高次脳機能障害認定システム」とは、損害保険料率算出機構の専門部会が等級認定の審査を行うにあたり、その方針を医学的知見に基づいてまとめ、システム化したものです。

スポーツ事故や交通事故の後遺症としての認知度が高まり、的確に等級認定する必要性が生じたことを受けて、平成13年に導入されました。

その後も、専門医や労災保険の管理運営を行う厚生労働省の通達等を取り入れ、平成15年・平成19年・平成23年・平成30年の計4回に渡ってシステム拡充が図られています。

高次脳機能障害の審査対象になる事案とは

認定システムの審査対象は、高次脳機能障害を示唆する症状(脳の器質的損傷に関する診断名等)の残存が認められる場合と、そうでない「疑わしい症例」の2種類に及びます。

なお、「疑わしい症例」には5要件が定められています。

その1つは「初期に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、意識障害や健忘が一定期間以上続いていると確認できる症例」です。

他には、「経過の診断書において、認知・行動・情緒障害や神経系統に関する具体的な症状が記載されている症例」等も、高次脳機能障害の可能性があるとして慎重に審査されます。

また、平成30年の認定システム拡充では、MTBI(軽度外傷性脳損傷)やその診断名も認定システムで審査すべき事案になりました。

【MTBI(軽度外傷性脳損傷)とは】

頭部を打つ、あるいは強く揺さぶられたことがきっかけで起きる、軽度の脳損傷を指します。

認知機能・運動機能・感覚機能に障害が起き、多くは1か月~3か月程度で急速に回復します。

これまでの認定システムでは、意識障害の程度は軽く、画像所見でも器質的な変化が確認できない場合もあるため、後遺障害等級認定で非該当となる場合が多く見られるのが問題でした(審査の着眼点は後述)。

ただ、認定基準の参照元となっている労災保険では、高次脳機能障害や14級を超える障害を負うケースが確認されています。

これを受け、平成25年から平成28年までの国土交通省の通達により、自賠責の認定システムも見直される運びとなりました。

等級認定審査の着眼点

高次脳機能障害認定システムによる審査では、後遺症の原因を踏まえて、CT・MRIによる画像検査で得られる脳の器質的損傷の所見が最重要視されます。

これに加え、初診時の意識障害の有無・程度・時間もチェック対象です。

さらに、神経心理学的検査(WAIS-IIIや三宅式記銘力検査等)で得られた認知機能の状態を照らし合わせ、交通事故と症状との因果関係、症状の一貫性、そして事故に由来しない精神障害との区別を行います。

とはいえ、診療医が作成するこれらの資料だけだと、被害者本人やその家族が感じている支障・弊害の完全な把握は困難です。

そこで、被害者が提出する「日常生活状況報告書」の内容や就労就学状況についても、慎重に検討されます。

後遺障害等級の判断基準

それでは、高次脳機能障害が後遺症として認定される場合、その程度を示す等級はどのように決まるのでしょうか。

平成15年、等級認定基準の参照元となっている労災保険で、高次脳機能障害について下記4能力に基づく6段階制の審査が実施されることになりました。

同年には自賠責の高次脳機能障害認定システムも見直され、現在まで「4能力の区分を念頭におきつつ評価」されています。

・意思疎通能力

…職場等において、他の人とスムーズにコミュニケーションを取る能力を指します。

主に、記銘・記憶力、認知力または言語力が関与します。

・問題解決能力

…作業に対する指示や課題達成の水準について、正確に理解し、判断を適切に行い、スムーズに業務が遂行する能力を指します。

主に、理解力、判断力または集中力が関与します。

・作業負荷に対する持続力・持久力

…一般的な就労時間に耐える能力を指します。

やる気、気分または注意集中の持続力、持久力が関与します。

・社会行動能力

…職場等においてスムーズに共同作業し、社会的行動ができるか能力等を指します。

感情や欲求をコントロールする力が関与します。

ここで「4能力を念頭におきつつ」とされているのは、自賠責における等級認定の判断基準である「労働能力の喪失の度合い」との整合性の不完全さが理由です。

例えば、行動や人格に大きな変化が見られる場合、業務をこなす能力に低下は見られなくても、職場での人間関係が上手くいかず労働能力に影響を及ぼすと言わざるを得ないでしょう。

また、被害者が小児である場合は「成長に伴う能力獲得」、高齢者の場合は「加齢による能力低下」とのように、年齢も加味すべきだとされています(平成23年・平成30年の各認定システム検討委員会報告書より)。

【参考情報】
2018年5月31日「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(報告書)

後遺障害等級認定について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

【参考記事】
後遺障害等級認定の申請方法と慰謝料を弁護士が解説

高次脳機能障害の逸失利益


交通事故で後遺障害が残ったり、死亡すると、交通事故がなければ、本来は働いて受け取れるはずの収入が得られなくなることがあります。

このような、将来発生する収入の喪失や減少に対する補償を逸失利益といいます。

逸失利益は交通事故で損害賠償請求できる損害項目の一つです。

逸失利益の計算式は、後遺障害が残った場合と死亡事故の場合で違うのですが、ここでは、後遺障害が残った場合の計算式を説明します。

(1)有職者または就労可能者の場合
1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

(2)症状固定時に18歳未満の未就労者の場合
1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × (67歳までのライプニッツ係数 – 18歳に達するまでのライプニッツ係数 )

基礎収入とは、交通事故にあう前の被害者の収入で計算されるのが原則であり、専業主夫など、家事労働分も含まれます。

労働能力喪失率とは、後遺障害によって失われた労働能力の減少分を割合で示したものです。

自賠責後遺障害等級に基づいて、以下のように定められています。

自賠責後遺障害等級 基準となる労働能力喪失率 1級 100% 2級 100% 3級 100% 4級 92% 5級 79% 6級 67% 7級 56% 8級 45% 9級 35 10級 27% 11級 20% 12級 14% 13級 9% 14級 5%

【参考情報】
国土交通省「労働能力喪失率表」

逸失利益を受け取る場合、本来であれば、働いたことによって、少しずつ得られるはずの収入を、何年か分まとめて得ることになります。

そこで、まとまったお金は、預金の利息や資産運用による利益を得られるはず、という考え方から、中間利息を控除し、逸失利益を適切な金額に調整するための数値がライプニッツ係数です。

【参考情報】
「就労可能年数とライプニッツ係数表」国土交通省

上記のように、逸失利益は、自賠責後遺障害等級で認定された等級に基づき計算されます。

しかし、中には、自賠責後遺障害等級で認定された以上の労働能力喪失率を認め、あるいは、反対に、低い労働能力喪失率を認定する裁判例があります。

等級以上の労働能力喪失率が認定された裁判例

名古屋地判平成18年1月20日(出典:自保ジャーナル第1649号)
26歳会社員の女性の交通事故です。

ケガは、脳挫傷、肺挫傷、下顎骨骨折、右股関節脱臼骨折、両鎖骨骨折、肋骨骨折、右動眼神経麻痺です。

自賠責後遺障害等級は、高次脳機能障害7級4号、右動眼神経麻痺併合11級(併合6級)です。

被害者は、後遺障害等級4級に相当する労働能力喪失率92%を主張し、被告は、7級が相当であり、56%を主張しました。

相場となる労働能力喪失率は、67%のところ、裁判所は、労働能力喪失率を75%と認定しました。

理由は、以下のとおりです。

裁判所は、(原告の)記憶力及び記銘力の障害の程度が強いことを考慮すると、実際に一般の就労を果たしてこれを維持するには非常な困難が伴うことが認められる。」と認定したうえで、5級との中間値である75%を原告の労働能力喪失率とするのが相当であると判示しました。

【本裁判例の分析】

本裁判例は、原告の高次脳機能障害の等級を自賠責認定と同様の7級(併合6級:喪失率67%)としながら、その後独自に喪失率を検討し、自賠責の等級認定を上回る75%の喪失率を認めた点に特徴があります。

裁判所が通常より高い喪失率を認めたのは、本人尋問における供述内容及び供述態度から判明した原告の記憶力・記銘力の障害の程度が強く、就労の継続には非常な困難が伴うことが容易に予想されることを重視したためだと推測されます。

等級以下の労働能力喪失率が認定された裁判例

岡山地裁倉敷支部平成18年11月14日(出典:自保ジャーナル第1680号)

28歳男性の交通事故です。

ケガは、頭部打撲、脳挫傷、外傷性くも膜下出血、右頬骨骨折、両側慢性硬膜下出血脳挫傷、びまん性軸索損傷等で、自賠責後遺障害等級は、高次脳機能障害3級3号、右同名半盲9級3号(併合2級)が認定されました。

相場となる労働能力喪失率は、100%であるところ、裁判所は、後遺障害等級としては、高次脳機能障害5級2号、右同名半盲9級3号(併合4級)であり、労働能力喪失率は92%と認定しました。

理由は以下のとおりです。

裁判所は、

①症状固定後における各種検査(改訂長谷川式簡易知能評価スケール、HTP描画テスト)の結果が概ね改善傾向を示していること、

②症状固定後の診断結果を記載したカルテ等には、記憶力、易刺激性、衝動性、意欲・自発性、持続力・持久力がある程度改善したことを示す記載があること、

③日常生活能力もある程度回復していること、

④医師が、症状固定以降に改善しており、今後も改善する可能性がある旨の見解を出していること

等の事情を総合して、症状固定日とされている平成13年11月13日時点では3級3号該当程度であったが、現時点(口頭弁論終結時)においては5級2号(併合4級)程度であると判示しました。

本裁判例は、前記①ないし④の事情を総合考慮した上で、症状固定後に後遺障害が改善しているとして自賠責の認定した等級よりも低い等級を認定している点に特徴があります。
本裁判例は、労働能力に関する3名の医師の見解について分析し、そのうちの1人の医師の意見は他の医師と比べて厳しい基準に基づいて見解を述べた可能性がある点を指摘して当該医師の意見を排斥し、ある程度の労働能力の存在を認める他の2名の医師の見解を採用しました。
このように、自賠責後遺障害等級と異なる労働能力喪失率を主張する場合には、医師の意見書を証拠として提出することが有用となります。

高次脳機能障害における後遺障害慰謝料の相場


交通事故で高次脳機能障害を負った場合、後遺障害慰謝料と労働能力喪失率に応じた逸失利益の他、介護や付添にかかる各種費用が支払われなくてはなりません。

慰謝料の目安と労働能力喪失率は下記表のように定められており、うち自賠責基準の慰謝料は、被害者保護のための最低保障額です。

後遺障害等級 自賠責基準の慰謝料 弁護士基準の慰謝料 労働能力喪失率
1級1号(別表1)(別表1) 1650万円(1850万円) 2800万円 100%
2級1号(別表1)(別表1) 1203万円(1373万円) 2370万円 100%
3級3号(別表2)(別表2) 861万円
(1005万円)
1990万円 100%
5級2号(別表2)(別表2) 618万円 1400万円 79%
7級4号(別表2)(別表2) 419万円 1000万円 56%
9級
10号(別表2)(別表2)
249万円 690
万円
35%
12級
13号(別表2)(別表2)
94万円 290
万円
14%
14級
9号(別表2)(別表2)
32万円 110
万円
5%

※自賠責基準の慰謝料に記載したカッコ内の金額は、被害者に被扶養者がいる場合の金額です。

先でも説明した通り、請求額はあくまでも表中の「弁護士基準」を目安にすべきです。

これを加害者が飲んだとしても、なお「労働能力はそれほど失われていない」「被害者に過失割合がある」等と主張する場合が事例で多く見られます。

上記のような対立があっても、簡単にあきらめるべきではありません。

在宅時のみならず出勤中・リハビリ中の各時間帯の様子を説明したり、事故当時の状況を再検証して過失割合の評価基準に当てはめたりする等、加害者の言い分を否定する材料を揃えて粘り強く交渉を続ければ、増額は十分見込めます。

【参考記事】
交通事故の慰謝料で被害者がやってはいけない6つのこと

高次脳機能障害における慰謝料増額のポイント


交通事故における高次脳機能障害の示談交渉では、被害者の生存可能年数に応じて支払われる「将来介護費用」で意見対立しやすい傾向にあります。

金額(日額)は下記事情を総合的に勘案して判断するのが基本ですが、この後説明するように、高次脳機能障害では特有の争点があるのです。

【将来介護費用で勘案される要素】
・介護・付添の内容
・常時介護や随時介護の必要性
・職業付添人の必要性
・介護・付添を担当する近親者の状況(年齢や職業等)
・介護・付添を担当する近親者の人数
・介護・付添の内容が時間経過と共に変化する可能性

最初に説明したように、高次脳機能障害の程度と内容は極めて多様です。

そして、後遺障害等級3級以下の事例では、身体的な介護より、むしろ見守りや生活状況の把握といった「看視」に比重が偏る場合がよくあります。

【高次脳機能障害の「看視」の例】
・道に迷わないよう、外出に付き添う
・衝動買いしないよう、収支や生活状況を定期的にチェックする
・怒りっぽさや疲れやすさに対応できるよう、家族が気を付けて接する

将来介護費用は、上記の「看視」についても支払われるべきですが、加害者に請求の根拠を否定されたり、著しい減額を要求されたりしやすいのが現状です。

その原因として、障害の性質に伴う看視の内容の多様さ、そして客観的な説明の難しさが指摘できます。

1人ひとりの主張の整理や立証手段については、弁護士に状況を見てもらい、蓄積された過去の事例と交渉経験に基づいて判断してもらうのが良い方法です。

交通事故における慰謝料増額について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

【参考記事】
交通事故の慰謝料を相場以上に増額させる方法

まとめ

認知機能に多様な問題が起きる「高次脳機能障害」を負うと、請求の高額化を恐れる加害者から、著しく低い金額が提示されがちです。

提示額を受け入れず、弁護士に妥当性を確認したケースの中には、紹介した解決事例のように大幅な増額に成功したものが少なくありません。

もしも自身や家族が高次脳機能障害になってしまったら、まずは加害者の提示額と獲得できる等級を検討し、「将来介護費用」等の個別の争点について対策する必要があります。

みらい総合法律事務所では、実際に介護の様子を視察する・撮影する等の活動を惜しまず、粘り強い交渉を行っています。

加害者との話し合いで不安や疑問が生じたら、すぐに弁護士に相談しましょう。

【関連記事】
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