交通事故のむち打ち後遺障害(12級、14級)の治療・等級認定・問題点

交通事故のむち打ち後遺障害(12級、14級)のポイントと増額事例
交通事故のむち打ち被害について、多くの質問をいただいています。
そこで今回は、交通事故の実務に精通した弁護士が「むち打ち損傷の後遺障害」について解説します。
目次
被害者の方からの質問
車を停車中に後方から追突されて、むち打ちになりました。
病院と整骨院で治療を続けていますが、事故から1年経った今でもまだ首や背中の痛みなどが続いています。
保険会社からは、そろそろ治療を打ち切りにして後遺障害の申請をするように言われているのですが、どうしたらいいですか?
また、交通事故以前にもともと首の治療歴があると、最終的に損害賠償金が減らされることもあると聞いたのですが、本当ですか?
弁護士の回答&解説
むち打ちについて
交通事故で、停車中に後ろから追突される「もらい事故」などによって、むち打ちになる方はとても多いのですが、このむち打ちというケガは、交通事故の損害賠償の実務において扱いが難しいものです。
というのは、被害者と加害者(あるいは加害者の加入している保険会社)との間で意見の衝突が起きることが多いからです。
その主な要因は、むち打ちというのは神経症状と考えられていて、傷などが外からはっきりわかるものではなく、目に見えない傷害であることがあげられます。
病院での診断名は、外傷性頚部症候群、頚椎捻挫、腰椎捻挫、頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症性神経根症などと記載されていると思いますが、これらを俗に「むち打ち」と呼んでいるのです。
症状の程度も、被害者の申告のみから判断せざるを得ないことが多く、またその症状も首の痛み、肩こり、腰痛、頭痛、手足のしびれ、脱力感、耳鳴り、吐き気、などさまざまです。
医学的にも、原因等が解明されているわけではなく、科学的根拠に基づく診断方法や治療方法が確立されているわけではありません。
被害者の方としては、痛みなどが残っていれば治療を続けたいと思うのは当然でしょう。
加害者側からすれば、早く治療を終了させて示談を終わらせたいのに、いつまでも治療を続けていると本当に治療する意味があるのか、などと考えてしまうこともあるでしょう。
【参考記事】
交通事故で“もらい事故”…慰謝料や示談交渉で知っておきたいポイント
治療費の支払いを打ち切ると言われたら
上記のように、むち打ちについてはまだ解明されていない点も多く、症状や程度も人それぞれなのですが、平均的に言えば、3ヵ月から6ヵ月程度で治ることが多いといえます。
そして、医師から指示があった場合には、症状固定(これ以上治療をしても治療効果が上がらないため治療を終了すること)として後遺障害等級の申請をすることになると思います。
しかし、これはあくまで平均的な場合ですので、ご自身の症状が治療によって改善されていて、医師も治療を継続したほうがよいと言っている場合には、治療を継続するべきです。
その場合は、医師に、「症状固定に至っておらず治療の必要がある」という内容の診断書等を書いてもらったりして、保険会社に治療の必要があることを説明するといいでしょう。
それでも、保険会社に治療費の支払いを打ち切られてしまった場合は、保険会社に強制的に治療費を支払わせることはできません。
加害者側には損害賠償責任が発生しますが、最終的に示談や裁判で決まった損害賠償金を支払えばよいわけで、その都度、被害者の方に治療費を支払う義務はないからです。
保険会社としては、お金がなくて治療が受けられないという被害者がでてきては大変ですし、手続き的にも面倒であるから、示談の前に都度、治療費等を支払ってくれているだけなのです。
ですから当然、保険会社は治療費の支払いを打ち切るという判断もすることができます。
この場合は、その後の治療費は自賠責保険に請求するか、健康保険に切り替えたりしてご自分で負担し、症状固定後の示談交渉において請求していくことになります。
また、医師とよく話した結果、治療効果が上がっておらず、症状固定とする場合には、後遺障害診断書を書いてもらって後遺障害の申請をしていくことになります。
【外傷性頚部症候群についての参考記事】
「外傷性頚部症候群」公益社団法人日本整形外科学会
むち打ちの後遺障害等級とは?
首や腰のむち打ち症では、12級13号または14級9号の後遺障害等級が認定される可能性があります。
「12級13号」
・認定要件:局部に頑固な神経症状を残すもの
・被害者に支払われる自賠責保険金額:224万円
「14級9号」
・認定要件:局部に神経症状を残すもの
・被害者に支払われる自賠責保険金額:75万円
ここで注意が必要なのは、該当要件の微妙な違いです。
12級と14級の違いは、「頑固な」という文言があるかないかだけです。
この違いだけで認定される等級が2つも違ってしまいます。
するとどうなるかというと、単純に自賠責保険から受け取ることができる保険金額が約150万円も違ってしまうのです。
自賠責保険の限度額は、以下のようになっています。
【自賠責保険金額】
自賠責法別表第1
第1級 | 4000万円 |
---|---|
第2級 | 3000万円 |
自賠責法別表第2
第1級 | 3000万円 |
---|---|
第2級 | 2590万円 |
第3級 | 2219万円 |
第4級 | 1889万円 |
第5級 | 1574万円 |
第6級 | 1296万円 |
第7級 | 1051万円 |
第8級 | 819万円 |
第9級 | 616万円 |
第10級 | 461万円 |
第11級 | 331万円 |
第12級 | 224万円 |
第13級 | 139万円 |
第14級 | 75万円 |
最終的な損害賠償金額で考えれば、数百万円単位で違ってくる可能性があるのですから、これは大変なことです。
なお、それぞれの後遺障害等級の認定基準や請求できる損害項目、注意ポイントなどを知りたい場合は、こちらをご覧ください。
みらい総合法律事務所の実際の増額解決事例
ここでは、みらい総合法律事務所で実際に慰謝料などを増額解決した事例をご紹介します。
14級9号で約8倍に増額した事例
52歳の男性が自動車を運転中、停止していたところ、後方から走行してきた自動車に追突された交通事故です。
被害者男性は首と腰のむち打ち症で、治療の甲斐なく、神経症状が残り、自賠責後遺障害等級14級9号が2つ認定されて、併合14級となりました。
加害者側の保険会社は、既払い金の他に慰謝料など損害賠償金として、42万5538円を提示。
はたして、この金額が妥当なものかどうか判断できなかった被害者の方が、みらい総合法律事務所の無料相談を利用し、説明に納得できたことで、そのまま示談交渉のすべてを依頼しました。
弁護士が交渉したところ、保険会社は素因減額として30%を主張しましたが、最終的には主張を一部取り下げ、342万1252円で解決。
当初提示金額から約8倍も増額したことになります。
併合12級で約5.41倍に増額した事例
63歳の女性(主婦)の方が自動車を運転して直進中、路外から出てきて右折してきた自動車に衝突された交通事故。
頸椎捻挫(むち打ち)などのケガを負い、治療をしましたが神経症状とPTSD(心的外傷後ストレス障害)の後遺症が残ったために自賠責後遺障害等級認定の申請を行ないました。
認定されたのは、それぞれ14級9号と12級で、併合12級となりました。
その後、加害者側の保険会社は被害者の方に対し、既払い金の他、慰謝料など損害賠償金として、110万7280円を提示。
この金額が正しいのかどうか判断できなかったため、被害者の方は、みらい総合法律事務所の無料相談を利用し、そのまますべての手続きを依頼しました。
弁護士と保険会社が交渉しましたが決裂したため提訴。
裁判で保険会社は、「被害者には素因減額ある」と主張しましたが、裁判所は「素因減額はない」と判断。
最終的には、裁判所の和解のすすめにより600万円で解決しました。
当初の提示額から約5.41倍に増額した事例です。
【参考記事】
みらい総合法律事務所の解決実績はこちら
治療が長引いた場合の損害賠償金の減額について
質問にある、「もともと首に治療歴があると、損害賠償額が減額される」というのは、素因減額の話かと思います。
素因減額とは、被害者にある素因(ある結果を引き起こす原因のこと)を考慮して、損害賠償額を減額することをいいます。
むち打ちの場合で言えば、
・交通事故の態様は軽いものであった
・レントゲンやMRIの画像結果や神経症状の検査結果でも特に異常がなかった
・それにもかかわらず、被害者の症状が長引いて長期間治療をした
というような場合、それはその被害者個人の精神的あるいは体質的な原因からきているものである可能性があるから、その部分については加害者の責任とはせず、損害賠償額を減額するということです。
素因減額に関する裁判例には次のようなものがあります。
「最高裁判所の裁判例」
被害者が、軽い追突事故で外傷性頭頚部症候群の診断を受け、入通院を10年以上継続したという事案。
被害者の訴える損害は、「本件事故のみによって通常発生する程度、範囲を超えているものということができ、かつ、その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与していることが明らかである」こと。
また被害者は、「本件事故により頭頚部組織に損傷を生じ外傷性頭頚部症候群の症状を発するに至ったが、常識はずれの診断に対する過剰な反応、事故前の受傷及び損害賠償請求の経験、加害者に対する不満等の心理的な要因によって外傷性神経症を引き起こし、更に長期の療養生活によりその症状が固定化したと認めるのが相当である」こと。
以上から、過失相殺の規定(民法722条2項)を類推適用して、事故後3年間について発生した損害のみを認め、さらにその損害額のうち40%を減額した金額とした。(最高裁判所判決 昭和63年4月21日)。
この裁判例をきっかけに、その後の裁判でも、事故後にうつ病などの精神障害が発症したこと、症状が不自然で自覚症状の訴えも誇張したものが多いこと、医師や看護師への不信感が異常に強いこと、事故前から既に経年性のヘルニアなどの既往症があったこと、以前にも交通事故にあっていて受傷していたことなど、事案によってさまざまな理由で素因減額を認めた判決があります。
ご質問の場合、治療が長引いたことのみで減額されるということはありません。
裁判例のように、事故が軽微で、医学的にみてもはっきりとした異常がないのに、普通ではちょっと考えられないような長期にわたって治療をしたなどの事情がある場合には、素因減額が検討されて減額される可能性もあるということです。
むち打ちは交通事故に強い弁護士に相談・依頼を検討する
以上、交通事故におけるむち打ち症について、弁護士が解説しました。
むち打ちは交通事故でよく生じやすい傷害ですが、難しい問題も多いので、弁護士に相談するのがいいと思います。
ただし、注意していただきたいことがあります。
それは、弁護士なら誰でもいいわけではなく、必ず交通事故に強い、実務経験が豊富な弁護士に相談・依頼するべきだということ。
医師などと同じように、弁護士にもそれぞれ得意分野があります。
交通事故が専門ではない弁護士に相談・依頼してしまったために、希望していた結果が得られないどころか、慰謝料などの損害賠償金で被害者の方が大きな損をしてしまうこともありえるのです。
【こちらの記事も確認】
【追突事故の示談金】むち打ち症などの相場金額は?計算方法と示談の注意ポイントも解説
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