交通事故の示談を有利にする方法と注意点を弁護士が解説

 

 

1.示談とはなにか

 

交通事故における示談というのは、その事故によって生じた損害額がいくらで、どのように支払いをするのか等について、加害者と被害者という当事者の話し合いによって決めることをいいます。

示談は、法律的にいうと、民法上の「和解」にあたります(民法695条)。

民法695条は、「和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。」と規定されています。

「互いに譲歩をして」というのは、たとえば、被害者側の請求金額が1000万円で、加害者側が認めた金額が500万円だという場合、お互いに譲歩して、800万円で解決しましょう、というようにすることです。

もちろん、被害者側が適正な金額を請求して、加害者側がその全額を支払うことを認めれば、譲歩の必要はなく、その金額で解決する、ということになります。

 

しかし、実際には、交通事故の示談はそんなにすんなりとうまくいくものではありません。

被害者側と加害者側が主張する金額に大きな差があり、どちらも譲らない場合には、示談交渉が決裂したり、裁判になったりすることもあります。

そして、一番避けたいのは、被害者側が損をしていることに気が付かずに示談を成立させてしまったという事態です。

たとえば、被害者側が損害賠償額として1000万円を請求できるはずであるのに、500万円で示談を成立させてしまったという場合です。

交通事故でケガをして精神的にも肉体的にも傷ついているのに、もらえるはずの損害賠償金で何百万円も損をしてしまうなんていうことは誰でも避けたいと思います。

けれど、実際の交通事故の示談の場面では、このようなことはよく起きているといえます。

なぜでしょう?

 

実は、交通事故の示談の場合、加害者本人と示談交渉するということは少なく、通常は加害者が加入している保険会社の担当者と交渉を行うことになります。

保険会社は、当然ですが、ビジネスとして利益を得ることを目的としている会社です。ですので、保険会社が被害者に支払う金額が少ない方が会社の利益となるため、できるだけ損害賠償額を低くしたいと考えています。

 

そして、保険会社の担当者は、 示談交渉を日常的に仕事として行っているので、交通事故に関する知識もあり、交渉にも慣れています。

それに対し、被害者側は、交通事故に関する知識もなく、自分が請求できる損害賠償額がそもそもいくらになるのか、保険会社側が支払うと言っている金額が妥当な金額であるのかどうか、そのような判断ができないのは普通です。

そのため、保険会社が、今回の交通事故の損害賠償金額は○○円です、と提示してきた場合に、保険会社が妥当な金額だというのだからそうなのだろう、と考え、自分たちが損をしていることに気づかないまま、示談書にサインしてしまうということが起きているのです。

保険会社の担当者が、「この金額が限界です。これ以上は出せません」と言うことがあります。

また、「弁護士を頼んでも、金額は変わりませんよ」などと言うことがあります。

これは、本当でしょうか。

違います。

保険会社が「この金額が限界です」というのは、「私の権限で出せるのはこの金額が限界です」という意味です。

弁護士に依頼したり、裁判したりすれば、もっと増額することが多いです。

 

また、「弁護士を頼んでも、金額は変わりませんよ」というのは、「弁護士を頼まないでください。増額しないといけなくなります」という意味合いで使っていることもあるかもしれません。

保険会社の担当者は、被害者のために働いているのではなく、保険会社の利益のために働いている、と、認識することが大切です。

そして、保険会社のいいなりに示談しないことが大切です。

このようなことが起きないよう、被害者が示談を有利にするには、どのような点に注意すればいいのか、弁護士が解説します。

 

2.示談交渉の開始時期

交通事故が起きて被害者がケガをした場合、示談の話がでるのは、治療が終了した時点です。

治療をしたけれども後遺症が残ってしまった場合には、後遺障害等級が認定されてから示談交渉になります。

被害者が死亡してしまった場合には、被害者の四十九日が過ぎたあたりから、保険会社の担当者から遺族に連絡がくるのが一般的です。

 

なお、死亡事故の場合には、加害者の刑事裁判が行われることが考えられます。

この場合、刑事裁判の終了前に遺族との間で示談が成立している場合には、量刑の判断で示談が成立していることが加味され、量刑が軽くなるということもあります。

その点を考慮し、遺族としては、刑事裁判が終了してから示談交渉を開始するという場合もあります。

また、遺族が刑事裁判に参加できる、「被害者参加制度」もありますので、弁護士に相談することをおすすめします。

 

3.示談を行う前の注意点

 

(1)治療中

 

ケガをした場合に一番大切なことは、まずはきちんと治療をするということです。

きちんと治療を行っていたのかという点も、損害賠償金額を算定する上で基準となります。

 

たとえば、痛みがあるけれども仕事があるからと我慢して通院しなかった場合、通院しなかったのだから症状が軽いのだろうと推定されてしまう可能性があります。

また、通院や入院に対する慰謝料は、通院期間や入院期間を元に算定されますので、入通院期間が長いほど慰謝料額が大きくなります。

 

治療中は、保険会社と連絡をとり、ケガの程度や診断内容、治療の見込みなどを伝えて、治療費をスムーズに支払ってもらうことが大切です。

仕事を休んで治療する場合には、休業損害も支払ってもらえるように伝えましょう。

治療中から保険会社の担当者と衝突してしまう被害者の方もいらっしゃいますが、この時点で保険会社ともめたとしても、治療費の支払を打ち切られたりと被害者にとって正直あまりいいことはありません。

最終的な示談交渉は、治療が終了してからで大丈夫ですので、この時点では、治療に集中して、治療費を支払ってもらうことを第一とした方がいいでしょう。

 

(2)治療費の支払いの打ち切りについて

 

治療を行ってある程度の期間が経つと、保険会社から、「そろそろ症状固定として後遺障害等級の申請をしてください」などと言われ、治療費の支払いを打ち切られてしまう場合があります。

症状固定とは、治療を継続しても治療効果が上がらなくなった状態のことをいいます。

保険会社は、治療費の支払をする場合には、通常被害者から医療照会の同意書を得て、病院から診断書や診療報酬明細書を取り付けているのですが、その内容等から、治癒あるいは症状固定と考えて、治療費の支払いを打ち切るという判断をしているのです。

 

保険会社から治療費の打ち切りの話をされると、もう治療をしてはいけないのだと思ってしまう被害者の方もいらっしゃいますが、そうではありません。

あくまで保険会社が勝手に決めていることですので、本当に症状固定とするかどうかの判断は、医師とよく話し合って慎重に行わなければなりません。

 

なぜなら、症状固定とした場合、そこで治療は終了とみなされ、症状固定の時点で損害賠償額が確定すると考えるからです。

もし症状固定として、それ以降もやはり治療をしたいからと治療を行ったとしても、症状固定以降の治療費や通院交通費、入通院慰謝料は加害者に請求できなくなってしまうのです。

 

医師と話して、まだ治療の必要性があり治療効果もでているということであれば、治療を続けるべきです。

その場合には、医師に治療の必要性がある旨の診断書等を作成してもらって保険会社に提出し、治療費の支払を継続してもらえるよう交渉します。

それでも打ち切られてしまった場合には、健康保険に切り替えたりして自分で治療費を負担し、後日最終的な示談交渉の際に、自分で負担した治療費分も請求するということになります。

 

(3)後遺症が残った場合

医師とよく話し合った結果、症状固定とした場合には、医師に後遺障害診断書を書いてもらい、損害保険料率算出機構という機関に後遺障害等級の申請をします。

後遺障害等級は、症状の部位や程度に応じて、重いものから順に1級から14級に分類されています。

 

この後遺障害等級が何級になるのかというのはとても重要なポイントになります。

認定された後遺障害等級に応じて、後遺症慰謝料や後遺症逸失利益が算定されることになり、示談金額にも大きな差が出るからです。

 

ここで注意する点は、自分が認定された後遺障害等級が適正なものなのかをきちんと検討することです。

後遺障害等級の判断は、損害保険料率算出機構が、診断書や画像や検査結果などの医学的な資料をもとに判断しているのですが、原則として提出された医学的な書類のみから判断しますので、提出資料に不足があったり、認定に必要な検査を行っていなかったような場合には、実際の症状より軽い後遺障害等級が認定されてしまうということもよくあります。

そうすると、後遺障害等級がひとつ違っただけで、最終的な示談金が何十万から何百万、重度なものになると示談金額が何千万も変わってくることもあります。

ですので、後遺障害等級が認定されたら、認定結果や認定の理由等をよく読んで、認定された後遺障害等級が適正なものかどうかを検討してください。

そして、より上位の後遺障害等級が認定される可能性がある場合には、新たな資料等を提出して異議申立等を行うことになります。

しかし、後遺障害等級が正しいのかどうか、は、交通事故の専門家でなければとても判断できないでしょう。

したがって、後遺障害等級が認定された時は、その等級が正しいかどうか、について、必ず交通事故に強い弁護士に確認するようにしましょう。

交通事故の後遺障害等級が正しいかどうかは、医学的知識とともに、等級認定の基準なども知っていないといけないので、弁護士なら誰でもわかる、というわけではないことに注意しましょう。

 

4.示談の際に注意する点

 

(1)損害賠償金額の項目に漏れがないか

 

交通事故のケガが治癒した時点、または、後遺障害等級が認定された時点、死亡事故の場合には被害者の四十九日が過ぎたあたりから、いよいよ示談交渉がスタートします。

具体的には、加害者の保険会社の担当者から、保険会社で作成した損害賠償金額の計算書が提示されますので、その提示された金額を被害者側で検討することになります。

まず、損害賠償額の項目に漏れがないのかをみます
ひとくちに損害賠償額といっても、それはさまざま項目から成り立っています。

治療費、付添費、将来介護費、入院雑費、通院交通費、装具・器具等購入費、家屋・自動車等改造費、葬儀関係費、休業損害、傷害慰謝料、後遺症慰謝料、逸失利益、修理費、買替差額、代車使用料など、それぞれの事故内容によってさまざまな項目があります。

自分が請求できる項目がすべて記載されているのかをきちんとチェックしましょう。

 

(2)金額が妥当か

 

項目に漏れがないか確認したら、それぞれの金額が妥当な金額かどうか検討します。

冒頭でも述べたように、保険会社はなるべく支払う金額を低くしようする傾向にありますので、保険会社から提示された金額をそのまま妥当な金額と信じて安易に示談書にサインしてはいけません。

示談が成立すると、その後で実はもっと請求できるものがあったとわかったとしても、原則として請求することはできなくなってしまいます。

 

保険会社からの提示金額が妥当な金額がどうかを判断するときのポイントとしては、3つの支払基準があることを知っておくことです。

3つの基準とは、自賠責保険基準任意保険基準裁判基準です。

 

自賠責保険基準とは、自賠責保険に基づいて支払われる保険金です。

自賠責保険は、自動車を運転する者は必ず加入しなければならない強制保険で、支払われる金額が法律で決められている、必要最低限の保険といえます。

たとえば、休業損害は1日につき原則5700円、慰謝料は1日につき原則4200円、死亡慰謝料は350万円、後遺障害等級1級(別表第2)は3000万円、14級は75万円です。

 

任意保険基準とは、任意保険会社ごとにある会社の内部の基準で、公表されているものではありません。

加害者の加入している任意保険会社が提示してくる金額は、この任意保険基準に基づいています。

自賠責保険基準よりもやや高い金額である場合もありますが、自賠責保険基準とまったく同額の後遺症慰謝料を提示してくる場合も多いです。

自賠責保険金額内でおさまれば、任意保険会社の実質的な負担が0になるためです。

 

裁判基準とは、裁判をした場合に認められる可能性のある金額で、もっとも高額になります。

裁判基準がいくらかを調べる場合には、日弁連交通事故相談センター東京支部が毎年出している「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(表紙が赤色のため、通称を「赤い本」といいます)という書籍を参考にします。

私たち弁護士も、この赤い本を参考にしています。

 

被害者側としては、この裁判基準に近い金額で示談をすることがもっとも望ましいのですが、実際には、示談交渉の段階で裁判基準に基づいて被害者が請求しても、保険会社が応じないことが多いようです。

実際に裁判を起こさないのであれば、弁護士費用等のコストがかかりませんので、保険会社側としても、裁判基準で示談に応じるメリットがないからです。

裁判基準での解決を目指すのであれば、やはり弁護士に交渉や裁判を依頼した方がいいといえます。

 

(3)時効について

 

加害者に対する損害賠償請求権には、時効があります。

時効が成立してしまうと、一切請求することができなくなってしまいますので、時効の管理はしっかりしなければなりません。

加害者等に対する損害賠償請求の時効は、「損害及び加害者を知りたる時」から3年です。

または、事故から20年経過した場合も時効により消滅します。

死亡事故の場合は、原則として事故日から3年です。

後遺障害がある場合には、症状固定によって損害が確定しますので、症状固定日から3年です。

異議申立を何度も行っていたり、交渉がうまくいかず放置してしまったまま3年経過してしまった場合には、時効によって請求権が消滅してしまいますので、注意してください。

 

5.弁護士への相談のすすめ

 

以上、示談を有利にする方法や注意点の基本的な事項について、解説しました。

 

実際の交通事故では、事故態様や被害者のケガの程度、後遺症の程度、年齢、職業、収入等、それぞれの事案によって、損害賠償金額の項目や算定方法が変わってきますので、適正な損害賠償額を計算して、それを保険会社と交渉して認めさせるというのは、かなりハードルが高いことである、という現状がお分かりいただけたかと思います。

 

そこで、おすすめなのは、やはり、示談の前に、少なくとも一度は弁護士等の専門家に相談することです。

 

ただし、弁護士ならば誰でもいいというわけではなく、やはり、交通事故に詳しい弁護士に相談することが大切です。

弁護士でも、交通事故に慣れていないと、請求する損害賠償の項目に漏れがあったり、算定方法が間違っていたり、後遺障害等級が正しいかどうか等の判断ができないということがよくあるからです。

法律事務所のホームページ等を見て、交通事故の実績があるか、交通事故の書籍等を出版しているかなどをチェックしてみてください。

当事務所でも無料相談を受け付けていますので、交通事故の示談でお困りの際は、ぜひご相談ください。