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交通事故の脊髄損傷で慰謝料が大幅アップした事例

最終更新日 2021年 07月21日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

交通事故の脊髄損傷で慰謝料が大幅アップした事例脊髄損傷(脊損)は交通事故で負う傷害の中で重い部類に属し、生涯に渡って介護・介助を必要とする後遺症に苦しめられがちです。

被害者については適切な慰謝料・逸失利益・将来介護費用等を含む十分な支払いが行われるべきですが、残念ながら、加害者が提示する金額は低くなる傾向にあると言わざるを得ません。

そのため、主張すべき点は毅然と主張し、丁寧な立証を重ねて交渉する必要性がますます高まります。

示談交渉で簡単に納得せず、十分な金額の獲得しようとする行動は、事故被害者の将来における不安を解消するための第一歩です。

本記事では、脊損の予後と慰謝料増額の実例を紹介した上で、等級認定や示談交渉のポイントを紹介します。


【動画解説】   交通事故の脊髄損傷の示談交渉のポイント

脊髄損傷の症状

交通事故による脊髄損傷(脊損)は、脊椎椎体の骨折等による「骨傷性脊髄損傷」と、強い衝撃や過伸展・過屈曲により脊髄中心部を損傷する「非骨傷性脊髄損傷」の2種類に分かれます。

いずれにしても、脊髄が傷つくと、損傷髄節がつかさどる部位より下に運動障害や感覚障害が現れるのが問題です。

まず、損傷したのがどの部位であっても、脚の感覚とその運動機能に障害が残る傾向にあります。

損傷部位が胸髄より上であれば、腕・手指・胸腹部臓器に機能に問題を残し、幸いごく軽いものであっても「洋服のボタンが留めづらい」等の症状が残存します。

最も重い頚髄の損傷では、寝たきりの状態になる可能性が高く、人工呼吸のための気管の切開で潰瘍や狭窄が起きるケース等の副次的な症状・障害も危惧されます。

そして、脊損はその部位に関わらず、現在運用されている医学的な処置では完治が見込めません。

程度に差こそあれ、ほとんどの場合は生涯に渡って介護・介助等を必要とするのが、この診断の特徴です。

【参考記事】
「脊髄損傷」公益社団法人日本整形外科学会

保険会社提示の慰謝料が低くなりやすい理由

交通事故で脊髄損傷と診断された場合、以上のような後遺症の特徴を受け、被害者に支払われるべき慰謝料等は高額化します。

そのため、負担を極力減らしたいと考える加害者側の保険会社は、判例等を踏まえて作成された「弁護士基準」の算定額より著しく低い金額を提示することがあります。

また、金額の差が大きい分、提示額を適正額(弁護士基準による算定額)に修正するための交渉は難航します。

結果、少なくない数の事故例が訴訟に発展し、代理弁護士による主張と丁寧な立証がますます重要性を帯びることになります。

以降では、弁護士が解決した4つの事例を元に、交渉して得られる交通事故慰謝料の多寡を確認してみましょう。

【事例1】後遺障害等級1級で1億3200万円獲得できた例

被害者(66歳男性)が自転車で交差点を進行したところ、右折自動車にはねられた事故です。

この事故で負った脊髄損傷により、被害者の身体には四肢麻痺の後遺症が残り、寝たきりの状態(後遺障害等級1級)になってしまいました。

保険会社との交渉では、将来治療費・将来介護費・将来介護器具等の費用、さらに慰謝料が争点となりました。

訴訟の結果、1億3200万円の支払いを条件に和解しています。

【事例2】後遺障害等級1級で約9000万円の増額に成功した例

被害者(50歳男性)が、交通事故による脊髄損傷で寝たきりの状態(後遺障害等級1級)になり、生涯介護を要することとなった事例です。

保険会社は当初、損害賠償として1億558万円2694円の支払いを提示していました。

ご家族ではなく弁護士が示談交渉に臨んだ結果、1億9300万円(約9,000万円増額)の獲得に成功しています。

【事例3】後遺障害等級1級で約2億円の増額に成功した例

被害者(46歳男性)が交通事故で頚髄損傷の傷害を負い、四肢麻痺の後遺症で後遺障害等級1級に認定された事例です。

保険会社は当初、既払分を除いて7800万円の支払いを提示していました。

弁護士が交渉に臨んだところ、2億7664万2032円(約2億円増額)の支払いで合意できています。

慰謝料算定や交渉の方法を知らないまま合意していれば、多額の損失になっていたところでした。

【事例4】後遺障害等級併合10級で約1400万円増額できた例

被害者(40歳男性)が、頚髄不全損傷・頚髄骨折・胸椎圧迫骨折・頭部打撲症等と複数の部位に傷害を負い、後遺症について併合10級の等級認定を得た事例です。

被害者加入の人身傷害保険特約から145万4120円の支払いがあったものの、加害者側の保険会社は「被害者の過失が大きい」として支払いを拒否しました。

弁護士が増額の可能性を指摘し、保険会社と交渉した結果、1599万1542円(約1400万円増額)の獲得に成功しています。

この事例では、逸失利益が主な争点となりました。

【参考記事】
みらい総合法律事務所の解決実績はこちら

脊髄損傷の後遺障害等級認定とその基準

脊髄損傷のどの事例であっても、損害保険料率算出機構が認定する後遺障害の等級が解決の要です。

慰謝料等の算定のベースとして、獲得した等級に対応する「慰謝料の基準額」と「労働能力喪失度」を用いるためです。

なお、脊髄損傷で認定される可能性のある等級は、症状の重い順に1級から12級まであります。下記表では、自賠法施行令の別表1・別表2から認定基準を引用します。

後遺障害の
等級
概要
1級1号
(別表1)
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2級1号
(別表1)
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
3級3号
(別表2)
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5級2号
(別表2)
神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
7級4号
(別表2)
神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
9級10号
(別表2)
神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
12級12号
(別表2)
局部に頑固な神経症状を残すもの

後遺障害等級の認定基準

個別の等級認定では、医師等から成る専門部会が、申請時に提出した資料(後遺障害診断書等)から審査します。

この際、脊髄損傷の後遺障害等級認定では、「麻痺が現れる場所」「麻痺の程度」を基準として、日常生活や労働への影響が推し量られます(詳しくは下記表の通り)。

なお、主治医による診断は、CTやMRI撮影で得られた画像がベースです。

これに反射テストや手指巧緻運動検査といった神経学的検査、さらにSEPやMEPといった電気生物学的検査を組み合わせることで、症状の全容を医学的に把握できます。

麻痺の分類麻痺の現れる場所備考
四肢麻痺両方の上肢と下肢および臓器頚髄を損傷すると生じる
対麻痺両方の上肢または両方の下肢胸髄、腰髄、仙髄、馬尾を損傷すると生じる
片麻痺片方の上肢と下肢
単麻痺片方の上肢または片方の下肢
麻痺の程度詳細
高度の麻痺障害のある上肢または下肢について、運動性・支持性がほとんど失われ、基本動作ができない
中等度の麻痺障害のある上肢または下肢について、運動性・支持性が相当程度失われ、基本動作がかなり制限されている
軽度の麻痺障害のある上肢または下肢について、運動性・支持性が多少失われ、基本動作を行う時の巧緻性および速度が相当程度損なわれている

以降で紹介するのは、等級別の詳しい認定基準です。

1級1号

別表1の第1級1号「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」に認定される脊髄損傷の後遺症とは、以下のようなものです。

・高度の四肢麻痺 
・高度の対麻痺 
・中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの 
・中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの 

2級1号

別表1の第2級1号「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」に認定される脊髄損傷の後遺症とは、以下のようなものです。

・中等度の四肢麻痺が認められるもの 
・軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの 
・中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの

3級3号

別表2の第3級3号「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」に認定される脊髄損傷の後遺症とは、以下のようなものです。

・軽度の四肢麻痺が認められるものであって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要しないもの 
・中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要しないもの
 

5級2号

別表2の第5級2号「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に認定される脊髄損傷の後遺症とは、以下のようなものです。

・軽度の対麻痺 
・一下肢の高度の単麻痺 

7級4号

別表2の第7級4号には、等級表の5級2号と比べてやや軽度のものが該当します。具体的には、以下のような症状です。

・一下肢の中等度の単麻痺 

9級10号

別表2の第9級10号は、7級4号よりさらに軽度であるものの、「服することができる労務が相当な程度に制限される」症状が認定されます。

具体的には、以下のようなものです。

・一下肢の軽度の単麻痺 

12級12号

別表2の第12級12号「局部に頑固な神経症状を残すもの」には、以下のようなものが当てはまります。

・運動性、支持性、巧緻性および速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの 
・運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるもの 

脊髄損傷における後遺障害慰謝料の目安

脊髄損傷を負った被害者に対する損害賠償は、精神的苦痛に対応する「後遺障害慰謝料」と失われた労働能力に対する「逸失利益」の2点が中心です。

下記表で比較する通り、被害者に本来支払われるべき額に比べれば、国土交通省の告示で決められた補償の最低限度(=自賠責基準)はごくわずかだと言わざるを得ません。

後遺障害
等級
自賠責基準の慰謝料弁護士基準の慰謝料労働能力喪失度
1級1号1650万円
(1850
万円)
2800万円100%
2級1号1203万円
(1373
万円)
2370万円100%
3級3号861万円
(1005
万円)
1990万円100%
5級2号618万円1400万円79%
7級4号419万円1000万円56%
9級
10号
249万円690万円35%
12級
12号
94万円290万円14%

※自賠責基準の慰謝料に記載したカッコ内の金額は、被害者に被扶養者がいる場合の金額です。

なお、被害者本人についての後遺障害慰謝料と逸失利益は、一般に「交通事故の慰謝料」と呼ばれる損害賠償の費目の一部に過ぎません。

他にも、後遺症が重ければ「近親者の慰謝料」を請求できます。

これに加え、被害者を今後ケアしていくための器具や家屋改造費等も、損害賠償の費目として当然請求できます。

対する加害者は、脊損による後遺症の重さ、回復の見込みの薄さを軽視する傾向にあります。

被害者について将来生じる負担を過少評価し、慰謝料・逸失利益を含めて様々な費目を少なく見積もろうとするのです。

当然、相手の主張する額をそのまま受け入れてしまえば、被害者とその家族の将来に長く深刻な悪影響を残すでしょう。

この点を踏まえ、増額できる部分はしっかり資料を揃えて主張し、粘り強く交渉しなければなりません。

【参考情報】
国土交通省「自賠責後遺障害等級表」

脊髄損傷の裁判での争点

典型的な症状や所見との違い

交通事故により脊髄が横断的に完全損傷し、神経が切断された場合には、その損傷箇所に応じて上下肢の麻痺が生じ後遺障害となります。

麻痺として症状固定するまでの一般的な経過としては、初期には腱反射が低下・消失し弛緩性麻痺を呈し、ある程度の時間を経過すると腱反射が亢進し痙性麻痺を呈するとともに病的反射が現れ、その損傷された脊髄の高位によって、麻痺の範囲や程度が決定されることになります。

そして、脊椎を骨折等し、脊髄を損傷したことが画像からも明らかである場合や、事故直後から四肢麻痺といった症状が生じ、その麻痺の箇所も脊髄の損傷箇所と対応するというように神経学的所見からも脊髄の損傷が明らかであるというような場合には、脊髄損傷の存在及び当該事故と後遺障害との因果関係も認められます。

その結果、後遺障害等級3級以上が認定されます。

しかし、画像上脊椎の骨折・脱臼といった骨傷が明らかではなく脊髄損傷の所見も明らかではない場合には、脊髄損傷自体の存否が争いになることが多いのが実務です。

そして、この場合には、被害者としては、画像等に現れていなくとも脊髄損傷は存在していると主張し、被告はその存在を争うことになるため、画像等以外のその他の脊髄損傷を裏付ける事実の判断が争点となります。

脊髄損傷の存否が争点となる場合

脊髄損傷の存否が争われる場合の判断を左右する要素としては、まず①事故の態様が脊髄を損傷する程度のものかどうかが挙げられます。

軽微な事故であるならば、脊髄を損傷するような衝撃が被害者には加わっていないと争われるからです。

次に、②脊髄損傷により通常生じうる症状との異同(症状の内容や麻痺の範囲の相違、症状の遅発・悪化等)が挙げられます。

脊髄損傷によって、通常生じうるとされる症状と異なる症状が被害者に生じている場合には、当然のことながら脊髄損傷がそもそも生じているのかが問題となるからです。

他にも、医学上は、脊髄を損傷すると受傷直後から上下肢の麻痺といった症状が生じるのが一般的であるところ、脊髄損傷と診断されても、上下肢の麻痺といった脊髄損傷特有の症状が事故後しばらくしてから生じたり、事故後時間の経過と共に悪化していったりしたような場合、いわゆる症状の遅発を理由に脊髄損傷の存否が問題となります。

さらに、③既往症の存在が挙げられます。

事故によって痺れ等の症状が生じていても、それが脊髄損傷によるものかどうかが争いになる場合に、既往症と相俟って脊髄損傷が生じたとして脊髄損傷が認められる場合や、他方で、脊髄損傷は生じておらず痺れ等の症状は事故を原因とした既往症の悪化による神経症状であるとして、事故と後遺障害自体との因果関係は認められる場合があるからです。

不全損傷について

交通事故の脊髄損傷で、「脊髄不全損傷」との診断がなされる場合があります。

この場合に、どのような条件が揃えば不全損傷として、脊髄の損傷が認められるかも問題となります。

脊髄損傷の症状は、脊髄全横断面にわたって神経回路が断絶した完全麻痺(損傷)と、一部でも保たれた不完全麻痺(損傷)に分類されます。したがって、不全損傷とは、文字どおり脊髄を完全には損傷しなかった場合を示します。

不全損傷の場合には、神経が完全には断裂していないため、知覚や運動が完全に麻痺する完全損傷とは異なり、損傷の部位・程度・損傷形態等により、代表的とされる各種症状の有無・程度には広範囲の差異があるとされています。

例えば、頸髄損傷では、骨折脱臼等が生じていれば(いわゆる骨傷があれば)、完全な頸髄損傷になることが多く、完全な頸髄損傷ということになれば、高位に応じて後遺障害等級としては通常3級以上が認定されます。

他方で、骨折脱臼がない(X線上骨傷が明らかではない)頸髄損傷の場合には不全損傷とされることが多く、そして、麻痺等の後遺障害が生じた場合には、その範囲・程度によって9級以上の等級に該当することになります。

不全損傷にはいくつか類型がありますが、その中でも、最も脊髄損傷の存否が問題となることが多いものが中心性脊髄損傷と呼ばれる傷病です。

中心性脊髄損傷とは、脊髄の辺縁に存在する索路(白質)よりも中心部にある髄節(灰白質)が主に損傷される障害とされ、脱臼や骨折を認めない非骨傷性頸髄損傷に多く認められます。

中心性脊髄損傷の主要な症状としては、下肢よりも上肢に麻痺が強く出る点に特徴があります。

この点、通常の脊髄損傷では、上肢の麻痺は下肢の麻痺と同一もしくはそれ以下になることが多いです。なぜなら、前述のように、脊髄の神経は、外側が下肢で中心が上肢につながっているところ、交通外傷では外側がもっともダメージを受けるため下肢の麻痺がひどくなることが一般的だからです。

しかし、中心性脊髄損傷では、逆の症状となるところに特徴があります。

脊髄損傷の損害賠償額を増額する時のポイント

脊髄損傷の損害賠償には高額化する費目が複数含まれますが、なかでもケースによって差の大きい「将来介護費用」は、争点になりやすいポイントです。
さらに言うと、近親者介護のケースでは、双方の主張が真っ向から対立する傾向にあります。

・将来介護費用とは

交通事故被害者が今後必要とする介護および付添にかかる費用を言います。

支払われるべき金額の計算では、まず1日あたりの費用(日額)の見積もらなくてはなりません。

見積もった日額に被害者の生存可能年数を乗じ、次に中間利息を控除した分が、被害者がもらうべき金額となります。

なお、生存可能年数は、被害者の年齢を厚労省の最新統計※に当てはめて判断します。

※参考:令和元年度簡易生命表

将来介護費の相場は、近親者であれば日額8000円です。

ただ、上記金額は目安に過ぎません。どの被害者についても、当面実施する介護等の内容(拘束時間や頻度含む)と共に、下記要素も総合的に勘案して判断されるべきものだからです。

・職業介護人(ヘルパー等)の必要性とその程度
・常時介護や随時介護を必要とするか
・被害者をケアする近親者の状況※、人数
・将来において想定されるケア内容の変化

※年齢、介護等による収入への影響、持病等

参考までに、訴訟で解決できたケースの代表例で、弁護士が損害賠償金を算定するための指標とされているものを紹介します。

【判例1】大阪地裁平成28年8月29日

被害者(48歳男性)が、頚髄損傷による四肢麻痺(別表1の1級1号)を負い、症状固定から約3年後に退院して在宅介護へ移行したケースです。

まず、常時介護を要し、職業付添人と妻による介護を平行する必要性および相当性があると認められました。

その上で、精神科受診中の妻による介護の範囲が時間経過と共に広くなっていること、介護サービスの現在の利用状況等と利用料が変化する可能性があることを考慮し、職業付添人と親族によるものを併せて日額1万8000円、平均余命まで合計8724万円が認められています。

【判例2】名古屋地裁平成23年10月14日

被害者(67歳主婦)が、第5頚髄損傷による軽度四肢麻痺(3級3号)を負ったケースです。

入浴の全てとボタンのある衣服の着脱に介助を要し、食事等の一応自立とされている日常生活動作についても左手自助具を使用しての自立に留まることから、「随時介護が必要な状態に近い」として日額5000円、合計2133万円余が認められました。

難しいのは、将来介護費の算定の根拠の立証です。

等級認定の申請で提出する「日常生活状況報告書」や、介護サービス利用時の領収書等だけだと、被害者ケアの実態はなかなか伝わりません。

そこで慰謝料増額の交渉では、過去に訴訟になった例等に基づいて、柔軟かつ丁寧な証拠収集が必要になります。

脊髄損傷で慰謝料を相場より増額した裁判例

交通事故で後遺症が残った場合には、後遺症部分について慰謝料請求をすることができます。

そして、後遺症慰謝料については、一応の相場の金額があります。

しかし、事情によっては、慰謝料の相場が増額される場合あります。

そのような事情がある場合には、被害者側で積極的に慰謝料増額の主張をしていく必要があります。

そこで、ここでは、過去の裁判例で、慰謝料を相場より増額した事例をご紹介します。

32歳の男性が、交通事故で胸髄損傷による両下肢完全麻痺等で自賠責後遺障害等級1級1号が認定された事案です。

裁判所は、

・事故が加害者のあおり行為に起因すること、

・日々の自己導尿の際に座薬、消炎剤等の薬剤を将来的にも使用すること、

などから、慰謝料の相場金額2800万円のところ、本人分3000万円、父母合計800万円の合計3800万円を認めました(さいたま地裁平成22年9月27日判決、交民43巻5号1232頁)。

【参考記事】
交通事故の慰謝料を相場金額以上に増額させる方法

脊髄損傷で近親者慰謝料を認めた裁判例

脊髄損傷のように、被害者が重度の傷害を負った場合には、近親者にも固有の慰謝料が認められることがあります。近親者固有の慰謝料は、「死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けた」ときに請求しうる(最判昭和33年8月5日)とされています。

過去の裁判例で、脊髄損傷において近親者慰謝料を認めたものをご紹介します。

東京地判平成20年5月8日(自保ジャーナル第1748号)

29歳男性の交通事故です。

後遺障害は、第3胸椎以下の完全対麻痺、自律神経障害の強い残存(体幹・下肢の疼痛著明)、直腸・膀胱障害で、自賠責後遺障害等級1級1号が認定されました。

状況としては、被害者は本件事故により第3、4胸椎破裂骨折等の傷害を負い、上記後遺障害が残りました。

上半身を利用した日常生活動作は可能でしたが、胸より下の部分は、麻痺状態にあり、上半身の動作に係る作業を独力で行うには相当の努力と時間を要し、妻の補助を必要とする場合も多い状況でした。

そして、食事の用意、入浴、着替えのいずれについてもその一部又はほとんどに妻の介助を必要としていました。

就寝中にも3時間程度ごとに体位変換をする必要があり、体位を変換するため、妻も起床して介助していました。

裁判所は、被害者本人に対する後遺障害慰謝料としては、慰謝料の相場金額である2800万円を認めた上で、妻の近親者慰謝料として100万円、娘の近親者慰謝料として50万円の合計150万円の近親者慰謝料を認めました。

その他に請求できる損害

以上の他に、脊髄損傷事案に特有と思われる損害項目について、いつくか解説をします。

車椅子代

一般的には、脊髄損傷において、腰髄以上で損傷がなされた場合には、両下肢の対麻痺が生じ、車椅子が必要となります。

過去の裁判例においては、脊髄損傷による後遺障害において、現実に車椅子を使っているのか、使っているとすれば何台の車椅子をどのように使っているのか立証し、室内用と屋外用の2台の車椅子など複数の車椅子の費用を認めているものがあります(大阪地判平成19年7月26日、名古屋地判平成18年8月29日、千葉地佐倉支部判平成18年11月29日、名古屋地判平成17年10月4日等)。

介護ベッド、マットレス等

布団ではなくベッドにすることにより、介護動作が容易になる。さらに電動ベッドであれば、高さ調整やギャッチアップ等により、座位体勢の保持・変換動作や起居・移乗動作等も容易になることから、下肢麻痺があれば通常認められます。

また、褥瘡予防のために特殊マットレスや体位変換用具等も必要性があれば認められます。

自宅改造費等

脊髄損傷による後遺障害によって生じる被害者の日常生活上の困難をできるかぎり回避するために建物を改築あるいは新築したり、移動に便利なように設備を設置する必要が生ずることが多いです。

の場合、現実に改築、購入するのに必要な費用(支出した費用)がそのまま損害額になることもありますが(大阪地判平成19年12月10日、千葉地佐倉支部判平成18年11月29日、さいたま地判平成17年6月17日等)、その改造の必要性、支出額の相当性、さらには被害者以外の家族も改築などによって利益を得ている場合などが問題となることもあり、現実の費用額の一部に限定して損害賠償を認める裁判例(被害者側がもともと現実の費用の一部を損害として主張していることもある)も多いです(名古屋地判平成20年12月2日、東京地判平成17年10月27日、大阪地判平成17年9月21日、さいたま地判平成16年1月14日等)。

自宅改造に関する費用として裁判例上認められたものとしては、

・玄関電動引き戸システム、センサー付照明(名古屋地判平成20年12月2日)

・玄関、ホール、洗面所、ユニットバスの拡大、幅広建具の設置、段差の解消、昇降機取付費用(名古屋地判平成20年1月29日)

・身体障害者用のトイレ、浴室、天井走行リフト、昇降リフト、電動シャッター、換気扇等の換気設備等の設置費用に加え、身体障害者用トイレに設置されたウレタン製台座、電動シャッター、天井走行リフト、昇降リフト、換気扇等の換気設備の将来の交換費用(さいたま地判平成17年6月17日)

などがあります。

車両購入・改造費

脊髄損傷者が自立した生活を営む上では、移動手段の確保が重要になります。

上肢のみで自動車の運転ができるように車両を改造したり、あるいは車椅子のまま乗れる自動車が必要になります。自動車についても、家屋と同様、他の家族も乗るような場合には、その家族の利便性を考えて車両購入費の一部のみを損害とする場合もある。

将来の雑費

脊髄損傷のように重度の後遺障害が残った場合には、紙おむつ等の衛生用品が継続的に必要となることが多く、将来の雑費として認められるものがあります。

しかし、将来の雑費の算定においては、健常人の日常生活においても必要とされる食費、日用品購入等については、生活費として考慮されるべきものであり、損害賠償の対象となる雑費としては認められないものもあります。

また、将来の雑費として請求するものが、将来の治療費や介護費用に含まれるものであれば、二重に請求していることになるため認められないこととなります。

認定された将来雑費については、日額1000円(名古屋地判平成20年12月2日)あるいは1500円(東京地判平成20年1月30日)程度として計算するものと、より細かく個々の費用を分析して算出しているもの(名古屋地判平成20年1月29日、痰を切るために使用する器具のレンタル費用とその他のおむつ、ガーゼ等の介護用品を分けて算出)とに分かれます。

一般的には、現在の介護状態が続くのであれば、実際にかかっている費用を具体的に主張・立証することが不可欠です。

なお、裁判例上認められた雑費としては、

・摘便用手袋、落とし紙、ベビーオイル、ティッシュペーパー、特殊箸、特殊フォーク(大阪地判平成19年7月26日)

・カテーテルやその消毒器具、冷却シート(千葉地佐倉支部判平成18年11月29日)

・人工導尿のために、ネラトンカテーテル、セルフカテーテルセット、オールシリコンバルーンカテーテル、レッグパック、排尿袋であるハイポット、コンビーン、集尿袋であるユーローズバック、医療用粘着テープ、ゴム手袋(東京地判平成17年10月27日)

・尿器、プラスチック手袋、ヒビスコール、濡れティッシュ、おむつ拭きティッシュ、チューブクリップ、リハビリのためのプライムウオーク用靴(名古屋地判平成17年10月4日)

などの費用があります。

まとめ

交通事故で脊髄損傷を負ったケースでは、被害者本人と近親者についての慰謝料、逸失利益、生存可能年数に応じた介護にかかる費用等の「将来についての費目」が高額化します。

一方で、支払いの多寡を気にする加害者は、主観的かつ著しく低い金額で示談を成立させようとしがちです。

日常の基本的な動作がほとんど出来なくなる、回復の見込みもほぼない……こういった後遺症の重さに見合う金額を獲得するには、弁護士基準で正確に算定した上で、客観的な後遺症の状況を着実に立証しなければなりません。

本記事で紹介した事例は、全てみらい総合法律事務所での解決事例です。

弊社では、「実際に弁護士の前で介護してもらう」「その状況を写真や動画に収める」等の丁寧な立証作業と並行し、被害者の将来を最優先にした粘り強い交渉を行っています。

交通事故によって生じた深刻な被害は、家庭で抱え込みすぎることなく、すぐに弁護士に相談しましょう。