追突事故の慰謝料の相場はいくら?計算と請求方法
目次
【動画解説】交通事故で、被害者が弁護士基準で示談する方法
入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の違い
追突事故の被害にあった場合、被害者の方は加害者側から慰謝料などの損害賠償金をいくらもらえるのか。
まず知っておいていただきたいのは、じつは慰謝料というのはひとつではない、ということです。
(1)入通院慰謝料
交通事故で傷害(ケガ)を負った場合、病院に入院・通院して治療を受けると思います。
その際、被害者の方が被った肉体的・精神的な苦痛を慰謝するために支払われるのが入通院慰謝料です。
なお、入通院慰謝料はケガを負った方への償いであるため、傷害慰謝料とも呼ばれます。
(2)後遺傷害慰謝料
ケガの治療をしたものの、症状固定(これ以上の治療をしても完治・改善が見込めない状態)の診断を医師から受けた場合、被害者の方には後遺症が残ってしまいます。
この後遺症によって被った精神的苦痛に対して償われるものが後遺傷害慰謝料になります。
入通院慰謝料と後遺障害慰謝料について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
【参考記事】
【慰謝料計算】交通事故の入通院慰謝料と後遺障害慰謝料を解説
追突事故の被害…その時やるべきこととは?
自動車同士の事故でもっとも多いもののひとつが追突事故です。
被害者の方としては、突然、後ろから追突されるのですから、まさに「寝耳に水」のようなトラブルでしょう。
その時、まずは何をするべきなのか?
パニックになってしまうこともあるかもしれませんが、落ち着いて対応していきましょう。
(1)事故の状況を確認
まずは、道路上での安全を確保し、ご自身のケガの状況を確認します。
状況によっては、救急車を呼ぶなどの対応も必要ですし、ご自身のケガへの対処を最優先してください。
(2)加害者の情報を確認
①今後の損害賠償問題のためにも加害者に運転免許証を提示してもらい、次の確認をします。
・住所
・氏名
・連絡先(携帯電話、自宅の電話番号)
②加害者が名刺を持っていれば、もらっておきます。
名刺はない、というのであれば、勤務先名や電話番号などをメモしておきましょう。
勤務中の従業員が起こした交通事故については、「民法715条(使用者責任)」および「自動車損害賠償保障法」という法律により、運転者だけでなく雇用主(会社)も損害賠償責任を負う場合があるため、加害者が勤務する会社に対して慰謝料などの損害賠償請求をすることができるからです。
③加害車両のナンバーと保有者も確認しておいてください。
「自動車損害賠償保障法」により、運転者だけでなく車両の保有者も損害賠償責任を負うためです。
保有者名は車検証に記載してあるので提示してもらい、写真を撮っておくとよいでしょう。
(3)警察に連絡する
交通事故の被害にあった場合は必ず警察に連絡してください。
加害者側の保険会社に慰謝料などの損害賠償金を請求するには、交通事故証明書や事故状況を検証した実況見分調書が必要になります。
しかし、交通事故を警察に連絡しなければこれらの書類は作成してもらえません。
そうなると被害者の方は慰謝料などを受け取ることができなくなってしまうので注意が必要です。
(4)警察に事故の状況を説明する
事故現場に警察が到着したら、事故の状況についてできるだけ詳しく話してください。
加害者と言い分が異なり、後日争いになることも考えられます。
そうしたときの予防策のため、スマートフォンがあれば事故現場や車両の写真を撮影しておいたり、加害者の言い分を録音しておくことも有用です。
なお、被害者の方が救急搬送されたために事故現場で状況説明ができない場合でも、加害者の言い分と被害者の方の説明内容が異なることがあると思います。
そのため、できるだけ早急に被害者立会の実況見分調書を警察に作成してもらうよう申し出たほうがいいでしょう。
(5)目撃者にも協力してもらい証拠を集める
目撃者がいれば、その証言は追突事故の有力な証拠になるので、氏名・住所・連絡先などを教えてもらい、協力をお願いしましょう。
加害者は、事故の直後は責任を認めていても、後日になって異なる主張をしてくることがあるので注意が必要です。
また近年では、2017(平成29)年に起きた「東名高速道路あおり運転事故」の影響もあり、ドライブレコーダーを搭載している方も増えていると思います。
ドライブレコーダーの映像は有力な証拠になるので、必ず確保しておきましょう。
(6)加害者の自賠責保険と任意保険を確認
被害者の方の入通院の治療費、慰謝料や逸失利益、休業損害などの損害賠償金について、通常の場合は加害者側の保険会社に請求することになります。
そのため、保険会社名や保険の証明書番号なども記録しておきましょう。
自賠責保険と任意保険について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
【参考記事】
【自動車保険】交通事故で自賠責保険と任意保険はどっちを使う?
(7)自分が契約している保険会社へ連絡する
被害者ご自身が契約している任意保険に「人身傷害補償特約」「弁護士費用特約」「搭乗者傷害特約」などがついているなら、保険金の支払いを受けることができる場合があるので、連絡をしてください。
加害者が無保険というケースもあります。
そうした場合は、ご自身の保険に「無保険者補償特約」がついていれば使うことができます。
また、両親などの家族が契約している保険にも使用できる特約がついている場合もあるので、保険会社には必ず連絡をして確認することも大切です。
(8)必ず病院に行く
交通事故の被害にあった後、とくに目立ったケガもないから、あるいは痛みもそれほどないから、といって病院に行かない方がいます。
しかし、これは絶対に避けてください。
たとえば、むち打ち症の場合、事故直後は痛みなどはなくても時間の経過とともに痛みが強くなったり、首を動かすことができないなどの運動障害が起きてくるケースがあります。
今後、入通院慰謝料や後遺傷害慰謝料などの損害賠償金にもかかわってくることのなので、追突事故の被害の後は必ず病院に行くようにしましょう。
【参考記事】
交通事故の被害にあってしまった場合、すぐにやるべきこと。
追突事故の慰謝料の3つの計算方法
慰謝料額を算定する時に被害者の方には、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。
それは、次の3つの基準があり、どの基準で計算されるかで受け取る金額が大きく変わってくる、ということです。
自賠責基準
法律で定められた自賠責保険による基準です。
ご存じの方は多いと思いますが、自賠責保険というのは自動車やバイクなどの車両を運転する人は必ず加入しなければいけないものです。
また、その設立の目的が被害者保護であるため、最低限の補補償内容になっているので、3つの基準の中ではもっとも金額が低いという特徴があります。
【参考記事】
国土交通省「自賠責保険(共済)の限度額と保障内容」
任意保険基準
被害者の方のケガが重く、重度の後遺障害が残ってしまった場合では、自賠責保険だけでは損害賠償金を支払いきれないということが起こります。
そうした事態に備えてドライバーが加入するのが、各損害保険会社が扱っている任意保険であり、その支払い基準となるのが任意保険基準となります。
各社非公表としているのですが、自賠責基準と弁護士(裁判)基準の中間くらいの金額になると覚えておいてください。
弁護士(裁判)基準
裁判になった場合に認められる基準です。
過去の膨大な判例から導き出されているため法的根拠が整っている基準となります。
また、弁護士が被害者の方から依頼を受け、代理人として加害者側の保険会社と示談交渉する際にも用いるため、弁護士基準ともいわれます。
3つの基準の中では、もっとも高額になります。
保険会社が低い金額を被害者に提示してくる理由
前述したように、慰謝料などの算定には3つの基準があるのですが、通常、加害者側の保険会社は被害者の方に対して自賠責基準や任意保険基準で算定した低い金額を提示してきます。
それはなぜかというと、保険会社は営利法人であるため、できるだけ収入を増やし、支出を減らそうとするからです。
ここでは、被害者の方が、「事前認定(任意一括制度)」という方法で慰謝料等の損害賠償金(保険金)を請求する場合で考えてみます。
【参考記事】
交通事故における任意保険の「一括払い制度」とは?
加害者側の保険会社は、まず自賠責基準で計算した金額、つまりもっとも低い金額を示談金として提示してきます。
この金額で示談を成立させてしまうと、保険会社はその金額を被害者の方に支払った後、自賠責保険に対してその金額を請求して回収するので、自分たちが負担する金額は0円になります。
そうした裏事情があるため、保険会社は、必ず任意保険基準で提示してくるわけではなく、中には、まず自賠責基準で計算した金額を提示し、自賠責保険を超える分の金額(自賠責保険の金額の上限は120万円)については任意保険基準で計算した金額を被害者の方に提示することで自分たちの負担(支出)をできるだけ減らそうとすることがあるのです。
しかし、被害者の方とすれば、できるだけ高い金額を支払ってほしいと考えるでしょう。
ですから、やはり弁護士(裁判)基準で算出した金額を主張していくべき、ということになるのです。
3つの基準から具体的な慰謝料金額を計算する
「入通院慰謝料」
(1)自賠責基準の入通院慰謝料
自賠責基準による入通院慰謝料については、1日あたりの金額が定められており、次の計算式で算出します。
<入通院慰謝料の計算式>
4300円(1日あたりの金額)×対象日数=入通院慰謝料
※民法の改正により、2020年3月31日以前に発生した交通事故では、1日あたりの金額は4200円。
<注意ポイント>
・対象日数は、①「実際の治療期間」、もしくは②「実際に治療した日数×2」のいずれか短いほうが採用されることになります。
・入通院慰謝料は、入院・通院した日数によって決まってくるので、仕事の事情や家庭環境、痛みを我慢するなどの理由から、途中で通院をやめてしまうと金額が低くなってしまいます。
(2)任意保険基準での入通院慰謝料
各任意保険会社は具体的な基準を公開していないのですが、これまでの被害者弁護での経験上、概ね自賠責基準と弁護士(裁判)基準の中間くらいの金額で設定されています。
(3)弁護士(裁判)基準での入通院慰謝料
弁護士(裁判)基準で入通院慰謝料を算出する際は、日弁連交通事故相談センター東京支部が毎年発行している通称「赤い本」と呼ばれているものに記載されている「損害賠償額算定基準表」から算定します。
これは前述したように法的根拠のしっかりした基準なので、裁判所や弁護士が使用するものです。
通院をした月数別に算出した入通院慰謝料の日額を表にしてみました。
参考にしてください。
「通院を1か月した場合の慰謝料の日額」
自賠責基準 | 4300円 |
---|---|
任意保険基準 | 経験上7400円程度が多い |
弁護士基準 | 9333円 |
※自賠責基準は、1か月のうち半分以上の日数の通院だったと仮定して計算。任意保険基準と弁護士基準については、ひと月を30日として割って日額を計算。
※自賠責基準12.9万円、任意保険基準12.6万円、弁護士(裁判)基準28万円を日額に換算。
※重傷の場合で計算
「後遺障害慰謝料」
被害者の方に後遺症が残ってしまった場合は、加害者側の保険会社に対して「後遺障害慰謝料」を請求することができます。
つまり、被害者の方は入通院慰謝料の他に後遺障害慰謝料も受け取ることができるということです。
後遺障害等級は、もっとも重度の1級から順に14級までが定められています。
【参考情報】
国土交通省「自賠責後遺障害等級表」
金額は等級によって決められており、等級が重いほど慰謝料や逸失利益などの損害賠償金額が高くなります。
やはり被害者の方としては、後遺障害慰謝料についても、もっとも金額の高い弁護士(裁判)基準による金額を受け取ることを目指すべきでしょう。
では、後遺障害慰謝料は、いくらもらえるのか。以下で確認しておきましょう。
「弁護士(裁判)基準による後遺障害慰謝料の相場金額表」
後遺障害等級 | 慰謝料 |
---|---|
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
【出典】「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部)
追突事故の慰謝料請求ではここに注意!
追突事故だからといって他の事故とは慰謝料の請求金額や方法が変わるわけではありません。
ただし、追突事故では注意するべきポイントがいくつかあります。
(1)自賠責基準で慰謝料を計算されがち
追突事故の場合、被害者の方のケガは比較的軽度な場合が多く、そうしたケースでは治療費や休業損害、慰謝料などは自賠責基準で計算されてしまうことが多いのが現実です。
すると、被害者の方が受け取る金額が少なくなってしまうことになります。
(2)治療を一定期間で打ち切られてしまいがち
「もうそろそろ症状固定としてください。そこで治療費の支払いは打ち切ります」
これは誰の言葉かというと、加害者側の保険会社の担当者のものです。
前述したように、保険会社はできるだけ被害者への保険金という支出を減らしたいために、治療費の打ち切りを告げてきますが、大体の場合、事故から3か月~6か月後が多いようです。
「保険会社がそう言うのであれば仕方がないのか…」とあきらめてしまう被害者の方も多いのですが、ここで保険会社の言うことをそのまま信じてはいけません。
なぜなら、症状固定というのは、主治医が診断するものであって、保険会社が決められるものではないからです。
ですから、たとえ治療費の支払いを打ち切られたとしても、主治医から症状固定の診断がないのであれば、それはまだ治療の効果が上がっているということですから、ご自身の健康保険に切り替えるなどして治療を続けてください。
そして、あとで行なう示談交渉でその治療費も請求していくようにしましょう。
その際、治療費の領収書等はすべて保管しておくことが大切です。
(3)後遺障害等級が認定されないこともある!?
治療を終えてケガが完治すればいいのですが、後遺症が残ってしまった場合、被害者の方は後遺障害等級の申請を行なう必要があります。
しかし、ここで問題となるのは、後遺症が自覚できるのに後遺障害等級が認められない場合があることです。
たとえば、追突事故でもっとも多い傷害(ケガ)のひとつに、むち打ち症があります。
むち打ち症では、後遺障害等級12級か14級が認定される可能性があるのですが、その場合は痛みなどの神経症状や運動障害などについての診断書の他、レントゲンやCT、MRIなどの画像が必要となります。
しかし、医学的に異常が認められないと判断されてしまうと後遺障害等級が認定されず、被害者の方としては後遺障害慰謝料をもらえなくなってしまう可能性があるので、注意が必要です。
(4)算定基準で違いが出てしまう場合がある
じつは、入通院慰謝料の弁護士(裁判)基準には「軽傷用」と「重傷用」の2つの算定表があります。
比較をしてみると、たとえば入院なし、通院1か月の場合、軽傷用の算定表では19万円、重傷用の算定表では28万円となります。
通院2か月の場合は、それぞれ36万円と52万円、通院3か月では53万円と73万円となり、通勤期間が長くなるほど金額に差が出てしまうことになります。
追突事故によるむち打ち症で、後遺障害等級が認定されない場合は軽傷用の算定表を使用することになっているので注意が必要です。